自白3
バドの頭の中で、パチンと何かが挟まった。
しかし、それは腑に落ちないものだった。
「……マクサルトの血……」
『話が見えて来たかな?』
「じゃあ、皆はトスカノに生け捕りにされているのか!?」
『ダ・スラー(その通り)』
「トスカノが急に豊かになったのも、トカゲの尾と、皆の血で……?」
『ダ。でも、トカゲの本体は俺とアガルタで隠した。捕えられているア・レナ様の身に』
「エ・レナ……! 姉様……ああ……会いてぇなぁ」
バドは懐かしい名前と共に、仲直りできずに離れ離れになった恋しい姉を思い描いた。
『ブラグイーハにトカゲが見つかっていないといいが……』
「ブラグイーハはどうしてトスカノを豊かにしたいんだ?」
『彼はね、マクサルト人が憎いのだと思う。きっと、王になる国はどこでもよかったんだ。いや、目的は王じゃない。きっとそうだ』
「どうして!? 父様も母様もマクサルト人だ! 二人が奴を助けたんだろ? 二人と奴は、親友だったんだろ!?」
そんなの、納得がいかない。トスカノの為でも無い、自分の為でも無い、だって?
ふざけんなよ! 一体全体ブラグイーハという奴は何を考えてやがるんだ!?
バドは怒りに髪を逆立てた。
反面、それに対してオジイは穏やかだった。
そして、諭す様な調子で一言。
『だからだよ』
「わからない」
『わからない? ……イン、イン。わかるはずだ。ボン様。貴方の心は熱いじゃないか』
「テキトー言うなよ、心の温度なんか、どうしてわかるんだよ」
『わかるさ。石の身でなお、貴方に触れられるととても暖かいから。さぁ行きなさい』
唐突な別れの気配に、バドは心臓に冷たいものをひゅっと感じて、首を振った。
イヤだ。ようやく会えたのに、またオレの前からいなくなるのか?
話の内容なんて、この際どうでもいい。
もう少し、もう少しだけ……。
「もっと教えてくれ。もっと話してくれ」
『イン』
「どうして……」
『行きなさい。……トスカノの皇子よ。堕天した悪魔の息子よ。成すべき事は解るか』
クリス皇子は薄暗い表情で石柱を見詰めた。
「誠の話か、私には判らない。酷く一方的な様にも思えるが?」
『では、己の目で確かめよ。そして、己の心で決めるがいい。踏み間違えば、お前も悪魔だ……』
ギリ、とクリス皇子が奥歯を噛む音がした。オジイの話はバドだけでなく、彼にも酷な話だった。
バドが割り込んだ。
「オレ、オジイに話したい事たくさんある」
『……俺に想像力は皆無だと? 今のボン様を見れば、どうゆう風に育ったかわかる。貴方に起こった事全て、悩み苦しみ乗り越えて来たもの全て、貴方が体現していなさる……。俺はもうすぐ力尽きるから、そうしたら本当に全部わかる』
「わかるもんか、わかってたまるかよ」
『ボン様の背を見て逝きたい。背は男の全てを教えてくれる。だろ? そうだろ?』
「オジイ……」
『ずっと、その光景を見たくて……マクサルト王よ……。マクサルト王よ……』
「……」
バドは胸いっぱいに息を吸い込むと、弱々しく光る石版を震える両手で撫でる。そうしてから、立ち上がって踵を返した。
オジイが安心できるように、出来るだけ背筋を伸ばし、顔をあげ、決意を胸に、大股で歩いた。
ジルとクリス皇子が無言で続いた。
廃墟を出ると、その入り口辺りでラヴィが心配そうに立って待っているのが見えて、彼は泣きそうになる。
前も後ろも気を抜かせてくれないなんて、キツイぜ。




