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蜥蜴の果実  作者: 梨鳥 
第八章
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再会

 バドは自分の腰くらいの高さの石柱に歩み寄り、ひざまづいた。そっと手で触れてみる。

 石柱は年月の流れに摩耗され、少しザラザラした感触だった。


「……ただいま。オジイ」


 遅くなったよね。待った? なーんて。


 バドは自分の心の声にニヤリとした。


 石は答えやしないのに。

 そう、答えやしないのに。


 彼は震えながら石柱に覆いかぶさって、歯を食いしばった。

 大好きだった老人。不思議で、ユーモラスで、ちょっと気難しくて、でも、全然怖くない。

 笑うと、向かい合った者と同じ年になる。彼を想うこの感情が、今なら敬愛と分かる。


「……オジイ……!」


 ごめんなさい。助けられなくて。オレ、ガキで。―――弱くて。


 イン。と声がした。


 バドは固く閉じていた目を開けた。

 頬を転がり落ちる涙を隠す余裕すら無くして、ジルを振り返る。

 彼は自分の声では無い、と言う様に首を振って、手のひらを上に向け石柱を示した。


「……え」


 思わず身を離して見ると、石柱が薄い青色にほのかに光っていた。


「ア・レン様。エデン様は、まだ存在しておられるのです」

「存在」


 生きているのとは違うのか? そう思ったが、答えが怖くて聞くのを止めた。


「オジイ?」


 バドが恐る恐る石柱に声を掛ける。


 ……ヤットカー(久しぶり)、ボン様。


 懐かしい声が頭の中で響いた。


----------------------------------------------


 狂おしい程懐かしい声に、バドは空色の瞳をパッと晴れさせた。

 声は慈しみに溢れ、石柱に浮かぶ、ほの青い光は打ち震えていた。


『ボン様、ご立派になられた』

「オジイなのか」

『ダ』

「オジイ!」

『この姿なのを許して欲しい。ボン様に額ずく頭も、その瞳から流れる涙をぬぐう手も無いこの姿を』


 バドは夢中で石柱に手を這わせた。

 息が苦しかった。

 堰を切った様に沸きあがって来る気持ちと言葉の全てが、虚しい喘ぎと息となってしまった。


『……全てを語らせてほしい。知ったからといって、取り返せるものなど何も無く、罪に罪を上塗りする様な行為だとしても。―――心が重いのです。石でいるのは堪えます』


 バドは淡く発光する石柱をせわしなく撫でた。


「オレが取り返すよ。罪なんか、そんなもん、あるならオレが被るよ。オレが代わりに重荷を背負うよ。オジイ、もう苦しまなくていい」

『イン、イン。ボン様、それはいけない。重荷は自分の人生の分だけを持ちなさい』

「そうだよ、オジイ。マクサルト全てが、俺の人生の重荷だ。だから、オレは大丈夫」

『……大きくなられた』


 ……では、語ろう。と、オジイの声が強く太く、響いた。


 それは、覚悟を決めた声だった。



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