再会
バドは自分の腰くらいの高さの石柱に歩み寄り、ひざまづいた。そっと手で触れてみる。
石柱は年月の流れに摩耗され、少しザラザラした感触だった。
「……ただいま。オジイ」
遅くなったよね。待った? なーんて。
バドは自分の心の声にニヤリとした。
石は答えやしないのに。
そう、答えやしないのに。
彼は震えながら石柱に覆いかぶさって、歯を食いしばった。
大好きだった老人。不思議で、ユーモラスで、ちょっと気難しくて、でも、全然怖くない。
笑うと、向かい合った者と同じ年になる。彼を想うこの感情が、今なら敬愛と分かる。
「……オジイ……!」
ごめんなさい。助けられなくて。オレ、ガキで。―――弱くて。
イン。と声がした。
バドは固く閉じていた目を開けた。
頬を転がり落ちる涙を隠す余裕すら無くして、ジルを振り返る。
彼は自分の声では無い、と言う様に首を振って、手のひらを上に向け石柱を示した。
「……え」
思わず身を離して見ると、石柱が薄い青色にほのかに光っていた。
「ア・レン様。エデン様は、まだ存在しておられるのです」
「存在」
生きているのとは違うのか? そう思ったが、答えが怖くて聞くのを止めた。
「オジイ?」
バドが恐る恐る石柱に声を掛ける。
……ヤットカー(久しぶり)、ボン様。
懐かしい声が頭の中で響いた。
----------------------------------------------
狂おしい程懐かしい声に、バドは空色の瞳をパッと晴れさせた。
声は慈しみに溢れ、石柱に浮かぶ、ほの青い光は打ち震えていた。
『ボン様、ご立派になられた』
「オジイなのか」
『ダ』
「オジイ!」
『この姿なのを許して欲しい。ボン様に額ずく頭も、その瞳から流れる涙をぬぐう手も無いこの姿を』
バドは夢中で石柱に手を這わせた。
息が苦しかった。
堰を切った様に沸きあがって来る気持ちと言葉の全てが、虚しい喘ぎと息となってしまった。
『……全てを語らせてほしい。知ったからといって、取り返せるものなど何も無く、罪に罪を上塗りする様な行為だとしても。―――心が重いのです。石でいるのは堪えます』
バドは淡く発光する石柱をせわしなく撫でた。
「オレが取り返すよ。罪なんか、そんなもん、あるならオレが被るよ。オレが代わりに重荷を背負うよ。オジイ、もう苦しまなくていい」
『イン、イン。ボン様、それはいけない。重荷は自分の人生の分だけを持ちなさい』
「そうだよ、オジイ。マクサルト全てが、俺の人生の重荷だ。だから、オレは大丈夫」
『……大きくなられた』
……では、語ろう。と、オジイの声が強く太く、響いた。
それは、覚悟を決めた声だった。




