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蜥蜴の果実  作者: 梨鳥 
第五章
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青い光の話

 夜の色は群青。月の色は銀。幾千万の星は己の好きな色を身にまとい、ジッとしているものもいれば、スッと何処かへ消えていくものもあり、夜空をチカチカ騒がしく彩っている。

 その遥か下の地上の川辺で、小さな火を焚いてじっとうずくまる影が三人。

 皆憔悴して凍え、火を見詰めている。


 クシャン、とバドはクシャミをして、焚火に手をかざした。


「さっびぃー。肉、もう喰える?」


 ラヴィは首を捻って、火の脇に並べた串刺しの干し肉を手に取った。

 干し肉は火にあぶる前と、大して変わらぬ様子をしている。


「どうなのかしら?干し肉って初めて見たので、調理法が解らないんです」

「オレも。キャンプもした事無いし」


 意外とバドは、野外で楽しむ事が、好きじゃないらしかった。こう見えて都会育ちの都会っ子なのだ。

 活躍したのはロゼで、焚火は彼が起こしてくれた。

 彼はとても手際よく木の枝や石を組んで、アスランの大袋に入っていた鍋を火の上に吊るせる様にすると、お湯を沸かした。

 あの師にしてこの弟子あり、であった。 

 朝焼いていたパンは水でダメになっていたが、干し肉と野菜くずは無事だったし、なんと、器まで入っていた。

 ロゼが火を起こす為に、バドのクロスボウの弦を使ったのはお見事だった。それを見て感動するバドに、もし徒歩でバドとラヴィだけマクサルトに向かう事になっていたら、どうしていたのかしら? とラヴィは疑問に思った。


 肝心なところで本当に大雑把だわ!


 アスランとロゼが一緒で良かった。でも、アスランとははぐれてしまった。ロゼも、岸は無いが岩伝いになら来た道を戻れそうだと、アスランを探しに行っている。


「ロゼさん、大丈夫かしら? もう真っ暗なのに」


 焚火の傍に置いてあるロゼの上着は、とうに乾いている。寒いので借りてしまいたいが、戻って来た時に何を言われるかと思うと、怖くて誰も触らない。


「意外と根性あるよな。タイチョをよっぽど好きなんだぜ」


 そう言って干し肉にかじりついて、バドは呻いた。


「なんだこれ、めちゃめちゃ固い」

「あ、あ、あの、あのさ」


 焚火の向こう側で、ずっと黙ってうずくまっていたジージョが、思い切った様に声を出した。


「さ、さっき、みみ、見た、よね?あ、あのひ、ひかり」


 瞼の被さった小さな目が、バドとラヴィをオドオドと順番に見た。


「ああ、そう言えば。なんだったんだろう」 


 ひと段落着くまでが慌しくて、バドもラヴィも忘れていた。ジージョが言っているのは船が壊れた時、飛び出した青い光の事だ。


「一瞬で消えたしな」

「船の魂の様に見えました」


 あの船に思い入れのあるラヴィがそう言うと、バドが「ロマンチックぅー」とからかった。


「お、おれ、みみ、見たこと、あるん、だ」


 バドとラヴィは顔を見合わせた。バドが干し肉の串を火の傍に戻して、立膝をして座った。


「過去にって事?」

「う、うん。い、いっかいだけ」

「いつ?」


 ジージョはモジモジしてラヴィを見た。


「あ、あの日。お、おれが、つつ、捕まった日」

「ああ……」


 蒸し返したく無い話題だろうに、わざわざそれを引き出して来たのに内心驚いて、バドはジージョを見る。彼は胸に手を当てて、焚火の火を見ている。


「お、おれの中にもある……。あ、あの娘が、く、くく……くれたんだ……」

「あの娘って」


 被害者の?と聞こうとして、バドは慌てて口を閉じる。


「ええと、死んじゃった娘?」


 う、うん。と返事をして、ジージョはバドを見ると、ふいに思い出したかの様に言った。


「ば、バドみたいに、に、きれいな」

「おいおい、オレ、男だけど」

「か、かみのけ、だよ」

「バドみたいな金髪だったのですね」


 そ、そう。と頷いて、「な、長かった」と付け足した。


「こ、こわい人たちが、あ、あの娘のか、かみ、つ、つか、つかまえて、ひ、ひどい事、し、し、してた!」

「ジージョ、それ、あんたを捕まえた奴らに言ったかい?」


 ジージョは当時を思い返して怖くなってしまった様子で、両腕を抱いてぶんぶんと首を振った。


「なんで」

「お、お、おれ、な、泣いてたんだ……」

「知り合いだったのか?」

「ち、ちが、ちがうよ。で、でも、ば、バドはか、かなしく、なな、ならない?」


 まだ胸の膨らみ始めの、とロゼは言っていた。暴行を受けて、頭は割れていた、と。


「……なるな、そうだね」

「あ、あの娘、も、泣いてた」


 スン、とバドの隣でラヴィが鼻をすすった。


「そ、それで、さ、さっきの、ひ、光を、く、く、れた」


 ここに、とジージョは自分の胸に手を当てる。


「出せるのか」

「わ、わからない。き、きえちゃった、んだ」

「うーん・・・」


 結局、何が何だか解らない話だ。


「その娘は、光を持っていたから追われていた?」


 言いながら、心のずっと深いところで暗く呟く声を聞かない様に、バドは頭を小刻みに振った。ここにロゼがいない事にホッとした。彼はきっと、バドの隠し持っている猜疑心を見事に口に表すだろうから。


「空飛ぶ船から飛び出した光……追われていた女の子の光……トスカノは、得体がしれないな」


 ラヴィも頷いた。


「十数年で、ガラリと様変わりした国です。何か裏があるかもしれないですね」

「皆がそう思ってる」


 バドは小枝を焚火に放り投げた。


「ご、ごめん。け、けっきょく、なにもわからなくて……。で、でも、話したかった。ば、バド、き、きみに」

「俺に?」

「う、うん。な、なんか、そうなんだ」

「ふーん?」


 なんだよ、ジージョの出くわした事件とオレは、何の関係もないのに。

 少し薄気味悪く感じて、バドはブルッと震えると、おどけて見せた。


「それにしても冷えるなー。ラヴィちゃん、もっとコッチおいでよー」


 嫌そうにバドを見るラヴィに、しつこく近寄ろうとすると、不意に眩暈の様なものを感じてふらりとした。


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