雛鳥は飛び立って2
少し短くなってしまいました。
大歓声の中、イソプロパノールの皇女を乗せて、トスカノ国の飛空船が飛び立った。
飛空船が見えなくなると、民衆は口々に色んな事を話しながら、街に戻って行く。
パルティエ様の真っ白なドレス、キレイだったねぇ。
私もあんなドレス着てみたいわ。
それにしても、ヴェールをお上げにならなかったなぁ。お顔を見たかったのに。
ヴェールは新郎に上げて貰うのさ。飛空船でもああやってなきゃいけないなんて、大変だよな。
新郎って歳かよ、なんで第五皇子と結婚じゃないんだろうな?ちょっと可哀想だぜ。
滅多な事言うなよ。いいじゃないか、あんな船を生み出した国と、友好関係が更に深まったんだ。
どうだか……。
大男はそんなやり取りをそこかしこで聞きながら、ちょいちょい彼らの懐に手を突っ込みつつ、人ごみの流れに合わせて歩く。
バドがどうしてこんな大それた事をしたいのか、結局聞かなかった。
バドが初めて彼に「バド」と呼ばれた時に顔に出した不自然も、なにかをひたむきに思い詰めている事も、やたらと亡国マクサルトの事を知りたがった事も、彼は見ないフリをした。
なぁ、バド。
俺は大人になってから、子供を無くしたのを機にもともとロクでも無かった人生から落っこちたんだ。
大男は空を見上げる。
青空に、白い雲がゆるゆると流れていて、もう飛空船は見えない。
お前はあんなに小さかったのに、一体何を無くし、何を隠し続けていた?
簡単な事では無かったはずだ。
それなのに、お前の目ときたら、いつも今日の空みたいに眩しかったなぁ。
どうしたら光を失わないでいられたのか、聞いておけば良かった。
そう思って、大男は空の眩しさに目を細める。
今日という日が祭で良かった。こんなに騒がしくなきゃ、寂しくてやり切れねぇや。
:::::::::::::::::::::::::::::::::
その夜。
大男が眠れず酒を飲んでいると、大きな鷲がやって来た。男は窓を開けて鷲を中へ招いた。
「……よう」
鷲は器用に窓をくぐると、部屋に入って翼を落ち着かせた。
「あんまりバサバサすんなよ。羽が散らかる。それに女房がやっと寝たんだ」
「……失礼」
鷲がそう言って、若い男に姿を変えた。
大男は酔っていたのもあって、驚かなかった。酒瓶をテーブルにドンと置く。
「何杯飲んでも寝れねぇんだ」
「ご相伴致します」
「男相手じゃな。美女に化けるとかできんのか、気が利かねぇぜ」
鷲から身を転じた男は、大男のグラスに酒を並々と注いで微笑んだ。
「ありがとうございました」
大男は肩をひょいと竦めた。
「俺は、なにも聞かねーぞ」
「はい」
「バドを、頼む」
「はい」
「頼むぞ」
「……はい」
波が崖にぶつかり砕けては散っている。
イブフェンの崖の夜闇は濃く、何かが鈍く光ることすら許さない。




