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翌朝、朝靄も晴れぬうちに魔王は目覚めた。サルトのいる森まで馬を出してくれると言ってくれる商人が見つかったのだが、早朝でないと無理だと言われてのだ。
こっちは何の恨みもない魔物を退治しにいってやるというのに、都合を合わせないなんて何ということだと文句もつけたが、森の中は昼間通過したほうが安全だという周りの薦めもあって不承不承早朝出発を了解してしまった。
サルトの住処までは森を半日抜けた先、元々このあたり一帯の領主が狩の時に使っていたという廃墟を根城にしているらしい。簡単な地図と目印を教えてもらい魔王は朝露に濡れないようフードを被った。
荷馬車から何から、昨日の夜婆さんが一言村人に言って用意したものだ。意外なほど短時間で準備が進められ、内心この老人は何者だという疑問が浮かんだ。
「勇者様よかったらこれを」
フレイヤは荷馬車の御者席に乗ろうとする魔王を呼びとめ、包んだパンと水筒を手渡した。
「どうか、お姉ちゃんを・・・・・・宜しくお願いします」
「きっと連れて帰る」
「勇者殿」
フレイヤが一歩下がると今度は老婆が近づいてきて、手に何やら入った袋を渡される。
「少ないが御礼じゃ。帰りもこれだけあれば何処かの荷馬車がここまで送り届けてくれるだろう」
袋からは程よい重さが感じられる。そういえば人間社会は金というものが流通に欠かせない物だったよな、と知識を思い出しながら遠慮なく受け取ることにした。
荷馬車は舗装された街道を進んでいった。
朝露に濡れないよう目深にフードを被っていると、徐々に眠気に襲われ荷馬車の上でうつらうつらし始めた。程よい荷馬車の揺れが気持ちよい。
気持ち良いまどろみに体を預けていると、そのうちジリジリとする暑さに襲われた。
「暑い・・・」
魔王が不機嫌そうにフードを上げると、ギラギラと光る太陽が照らしていた。
「このあたりは盆地なので、乾季の暑さは厳しいですよ。もしなら荷台に移動してください」
商人は荷台のホロを上げ中を進めた。確かに直接日光が当たるより幾分ましだろう。魔王は荷物の間に体を滑り込ませ、座った。
あと2時間程で到着すると商人は声をかける。水筒から冷たい水を一口飲み、落ち着いた魔王はまた荷馬車の揺れに体を預けた。