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広場からそう遠くない赤茶の家につくまで村人にもみくちゃにされ、かなり体力が消耗された。
「凄いですね!」
「な、何なんだ?」
「それだけ勇者様が凄いって事ですよ!」
フレイヤは呑気に頬を高揚させている。
腕に抱えていたものをとりあえず粗末な木の机に下ろしてホッとした。
「狭いけど、この部屋を使って頂戴」
同じく荷物を置いたフレイヤに、居間の右隣にある部屋に案内された。机とベットが一つあるだけでいっぱいな狭い部屋だ。しかもベットは見るからに狭く硬そうでげんなりする。
「いつまでそんな格好してるつもりだ。これでも着てもらおうか」
入り口で固まっている魔王に、ずいっと老婆が白いシャツとズボンを渡してきた。半裸よりマシかと有り難く頂く。
そういえばと思い出したように持って来たずだ袋の中身を確認した。金貨が1枚と銀貨が5枚、それに赤と白の丸薬が2つづつ入っている。
「なんだこれ・・・・・・?」
悪い物ではなさそうだが、正体のわからないものを口に入れるつもりはない。魔王はそれらを袋につめなおすと、剣と一緒に机に置いた。
少しオーバーサイズの服に着替えると、居間から美味しそうな匂いが漂ってきた。部屋を出るとフレイヤが竈で料理をしている。老婆は火のついていない暖炉の前で糸車を回している。これが長閑な田舎の普通の風景だろう。
逡巡した後、魔王は老婆の近くの背の低い椅子に腰掛けた。
「その服は息子のものだ」
老婆は顔も上げずに身の上話を始めた。
「私の息子は村長じゃった。力自慢だけが取り柄じゃったが、村人を纏め良い村長じゃった。半年前まではな」
魔物に殺されるとか続くんだろうなぁとぼんやり聞いていると案の定森の魔物退治に行って殺されたらしい。
村人の若い者が既に10人近く殺され、辟易していた所に、勇者が来てくれて本当に助かったと老婆は改めて礼を言う。見ると糸車は止まり、老婆の手は涙で濡れていた。
魔王からしてみれば、食べ物を摂らなければ死んでしまうし、自分に敵意を向けられた相手を殺すのは当たり前の事である。それを殺されて泣くなど、自分かっても良いところだ。
「おまけに上の孫娘まで…」
「死んだのか?」
男を殺すのは大いに結構だが、娘はゆるさん。特に美人なら特にだ。
まぁ男より美味しいのは認めるが……あんな弱いスクートに対して贅沢品だ。
「いや、この山奥に住むサルスに連れ去られた……」