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「早く知らせないと」
と、そのまま村の方向へと走り出す。ずだ袋を必死に掴み魔王も引きずられるように走った。
長いこと走らずに村を囲む塀が見えてきた。そんなに大きくもなさそうな田舎村だ。周囲には牧草地帯が広がっていて、家畜でも飼っていそうだ。
「皆!勇者様よ!!」
塀の中に入るとすぐの広場のような場所で女が高らかに言った。
広場にいた人達はなんだ?と不思議そうな顔で近づいてくる。
「川のスクートを退治してくれた、勇者様よ!」
女は魔王を広場の中心に立たせる。訝しげに見ていた村人も、おぉっと歓声を上げて近付いてくる。
「あ…いやぁ……」
勇者様と手を合わせられ、思わずたじろいでしまう。しかも、そのまま連れて来られたものだから腰巻き一つに片手にずだ袋といった格好だ。
「そんな一斉に近付いては勇者様に迷惑だろ」
良く通る老婆の声が響き、村人が一歩引いた。道を譲った先に、腰の曲がった白髪の老婆がいた。
「川のスクートを退治してくれたのは本当かい?」
「まぁ…成り行きで……」
「ふむ」
老人のわりにしっかりとした足取りで魔王の前に来来た 老婆は舐めるようにして魔王を見る。
「しかし、勇者というのに冴えない男なのかねぇ」
「お婆ちゃん!勇者様に失礼でしょ!」
老婆の一言はグサっと刺さった。自分でももう少しまともな姿形が良かったと自覚しているだけにキツイ。
お婆ちゃんと言うあたり、さっきの女の身内だろうか?この礼は今夜きっちり貰わなけれは割に合わん。
「私はこの村の長老でユンと申す。勇者殿のお名前は?」
「名前…?」
そういえば名前なんてない事に気が付いた。いつもは王、魔王とばかり呼ばれていて名前なんて必要がなかったからだ。
「名前…皆からは魔王と……」
「ふむ、マオ様じゃな」
「いやっ……」
「狭い所じゃが、今夜は私の家でもてなさせて頂く。さぁフレイヤ早くご案内して」
素直に言って開放されるかと思いきや、前二つしか聞き取れてないようで、話を先に進められてしまった。
フレイヤと呼ばれた先程の女がさぁ早くと、魔王の肩を押して家へと案内する。既に広場には大勢の人が集まっていて、魔王が動くとその後を着いてくる。
手に手に持っていた作物等をどうぞと魔王に差し出し、満足そうだ。あっという間に魔王の両手はいっぱいになり、フレイヤの両手にも抱えられないくらいの物が集まった。