13
魔王は途方にくれていた。
日は翳り始め、辺りは刻々と闇の気配を濃くしていく。
ジャルの屋敷を出てから早二日目。
昨夜は運良く山小屋を見つけ一晩暮らしたが、今夜は野宿になりそうだ。
一晩も歩けば何処かの村にたどり着くだろうと楽観視していた為に、屋敷から持って来た食物も既に底をついている。
夜は魔物と獣の時間だ。剣一つの唯人の魔王は圧倒的に不利だ。
さてどうしようかと一人悩んでいると遠くに一つ灯りが見えた。
一瞬で見失った魔王はその場所を暫く凝視してると、再びツイっと灯りが横切った。
自然の明かりではない。耳を澄ませば落ち葉を踏む馬の足音が聞こえる。魔王は近くの藪にそっと身を潜めた。
灯りは徐々に大きくなり、間もなく暗がりの中から馬の姿が現れた。
黒髪の青年がその背に乗っている。マントをしているが、馬が揺れる度微かに金属が擦れる音がする。少なからず武装しているようだ。
野党にしては妙にこざっぱりとしている。しかも筋骨隆々な大男というわけではなく、どちらかというと優男風だ。
これならいざとなれば組み伏せられるとふみ、魔王は馬の前に飛び出した。
突然の飛び出しに馬が嘶き前足を上げたが、馬上の男はなんとかバランスを取り直し魔王と対峙した。
「馬と荷物を置いていけ」
片手剣を構え男に告げる。馬を使えばこんな森夜になる前に突破できると考えたのだ。
動かない男に痺れを切らし、魔王が一歩歩みを進めるとその目の前を矢が通り過ぎた。
「剣を置け。それ以上進むと今度は当てるぞ」
魔王の右側から弓を構えた男が現れた。
こちらは前の男と違って武人らしいたくましい体つきをしている。
やばいと思いながら、大人しく魔王は剣を下ろした。
弓をかまえたまま魔王の前へ近づく大男に意外なところから声がかかった。
「ひどい格好だ。盗賊にでもあったのか?」
「いや・・・・・・道に迷って」
「ゼノ矢を下ろせ」
「しかし!盗賊かもしれませんよ」
大男の様子にやれやれといった体で優男はため息を漏らした。
「盗賊ならこんな殆ど人も通らないような道選びませんし、一人で飛び出すような馬鹿なことはしませんよ。ましてやこんな場所で窃盗を行おうという稀有な野党がいたら是非お目にかかってみたいですね」
「そうですが・・・・・」
大男は弓を構えたまま魔王の姿を頭から足先までまじまじと眺め、納得したように弓を収めた。
「ところで何故こんな場所に?街道からは随分と外れていますが」
「魔物対峙に来たのは良いが、帰り道が判らなくなって途方にくれているところだ。馬と明かりを貰えれば森を抜けられると思うのだが・・・・・・」
「今から森を抜けようとしても、次の街につく前に夜が暮れてしまいます。良かったら我々の砦まできませんか?何もおもてなしできませんが」
「こんな素性も知れないヤツを砦に入れるなんて何を考えているんだ」
優男の提案に案の定大男が反対の声を上げる。
優男は再びまあまあと大男を宥めた。
「戦争をしている訳でもなく、ましてここは帝都の中でも偏狭の地。攻めるにしては分が悪い場所です。それに我々騎士団の規律にもあるでしょ【困っている隣人は吾らの友人である】と」
優男は有無を言わせない笑顔を浮かべている。
不承不承大男は頷き、武器は預からせてもらうと魔王から剣を取り上げた。
「さあ真っ暗になる前に急ぎましょう」
気付くと既に足元が見えにくくなってきていた。魔王はずだ袋を拾い上げ慌てて馬の後を追いかけた。最後尾に大男がつく。
「そういえば君の名前は?私はベルナルド、後ろの彼はゼノ。二人とも帝国騎士団治安維持隊に所属している」
「俺はマオ。事情があって旅をしている」
魔王は何と名乗ろうか迷ったが、騎士団と名乗る奴らに魔王だと名乗っても良い事はないだろうと思い、村で聴き間違えられたマオという名前を出した。




