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※流血・残酷表現があります。
「百五十六・・・・・・おや?もう気絶してしまいましたか?」
百を超える前から魔王の意識は混濁としていた。既に二人の立つ卓上は魔王の血で池のようになっている。ジャルの握る刀もほころび始めたのか削ぐ精度が落ちてきている。
「まだまだ気絶してもらっては困りますよ魔王様」
ジャルは魔王の前髪を乱暴に掴み強制的に上を向かせ、おやっと思った。
「そいえば貴方の目、綺麗な灰色をしているのですね。先ずはその目からいただきましょうか」
そういうとジャルは鋭い爪を魔王の目に突き立てた。魔王は今までになく絶叫した。頭の中でメリメリっと何かが引き抜かれる音がする。
顔の右半分が燃えるように熱い、いやそれ以上に体が熱くて仕方ない。
ジャルは飴玉のように魔王の眼球を口で転がし、奥歯で噛んだ。彼はおそらく肉体の中で眼球が最も好物であると自負していた。
甘美なひと時を味わっていると、突如隣から巨大な魔力を感じた。見ると吊るしている男から黒い靄が立ち上っている。
「な・・・・・・」
目の前でおこっている事が何であれ、それ以上にジャルの全身から危険信号が発せられている。ヤバイと感覚ではわかっているものの、逆に恐怖に竦んで動くことができない。
低い地の底から響くような咆哮が部屋を包む。低周波に調度品までもガタガタと震えている。
ふつふつと足元で池を作っていた血溜りが沸騰するかのように内部から膨らみ、そして男の体へと飛び込んでいった。男の体全体が黒い靄で包まれ、その輪郭さえわからない。
しかしその黒い靄の中でジャルは見た。それだけで魂をもっていかれそうな鋭い灰色の炎を。
「うぐっ!!」
靄の中から突如飛び出した腕にジャルは顔を掴まれた。ギリギリと締め上げられる。まさかという思いは既に手遅れであることを告げていた。
「なかなか面白い晩餐だったな」
靄の中から男が出てきた。人間の男の姿をしているが、発せられる気や鋭い目は人間のそれではない。
一際大きな音がして、ジャルのくぐもったうめき声が漏れた。男がジャルの顎の骨を砕いたのだろう。男が腕を離すと、ジャルは顎を抑えて蹲った。 状況は一変していた。
卓上で悲鳴をあげているのは狼の顔をした魔物、そして人間の男が見下げるようにして立っている。
魔王はジャルの手から落ちた剣を手にし、おもむろに蹲るジャルの肩口へと振りおろした。
「剣は上手くないものでな、三千回は難しいかもしらん」
そう言って次々に剣を振り下ろす。ジャルの血と肉片が辺りに飛び散り、あっという間に魔王はジャルの返り血で真っ赤になった。
ジャルは痛みにのたうち回る中、男に魔王の姿を見た。
既に絶命した魔物を前に魔王は唖然としていた。
ジャルに抉られた右目は勿論、身体中につけられた傷は跡形もなく綺麗になっている。そして、あの全身を襲う力。グイールとの戦い以上であった。
激しい興奮又は激しい肉体損傷が力を開放する鍵になる可能性は高い。
冷静になって状況を判断している魔王を突然激しい眠気が襲った。
「うっ……なんだ、こ…れ……」
今倒れたらもしかしたら残ったグイールに襲われる可能性もある。どうにか意識を保とうとするが、努力虚しく魔王はジャルの作った血だまりに倒れた。




