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※流血・残酷表現があります。
「それにしても、どうして魔王様ともあろう人が人間の姿などに?以前魔界でお見かけした際にはもう少し立派なお姿だったように思えますが」
「それが、グリトロールに魔力を封じられ、あげくこんな地まで飛ばされてしまったんだ」
「それはそれはお気の毒に・・・・・・」
そう言いながらジャルは運ばれてきたテリーヌを口に運んだ。魔王の言う事を冗談だと思って聞き流しているようだ。
「それにしても、こんな辺鄙な場所まで良くいらっしゃいましたね。何か我が屋敷に用事でも?」
「まぁ、成り行きでここに囚われた娘というのを助け出してほしいと依頼を受けてな」
「ここに囚われた・・・・・・ああ近くの村娘の事でしょうか?それでしたら別室にてお預かりしております」
「まだ生きているのか?」
「まぁたぶんは。連れてきて以降私は顔も見ていないもので」
テリーヌの皿が空になるとすぐにスープが配膳された。何やら浮いているのは生き物の目玉だろうか。
「魔王様がお気に召すようでしたら早々に連れて行っていただいて構いませんよ。私も少しもてあましていましたから」
目的の女には興味がないような口ぶりだ。なんだか拍子抜けしてしまったが、もしかすると別室で肥えるまで待っているのかもしれない。
「ところで魔王様は生と焼き、どちらがお好きですか?」
「生と焼きって・・・・・・」
「ああ煮るでもよろしいですよ。私は断然生が好きですが」
ジャルはスープを飲みきると、口元をナプキンで拭り立ち上がった。ニヤリとその大きな口の口角が上がる。
黒毛のグイールが刀身の長い細い剣を恭しく差し出した。その刀は良く磨かれているようで、蝋燭の明かりの中でも光って見えた。
「東方の拷問方に肉を三千回削ぐというものがあるようですよ。三千回という事はそれなりに薄く削ぐのでしょうね。果たして三千回も削がれてその男は生きていられるのでしょうか?」
ジャルが魔王の檻を覗き込む。その目は既に血走り、興奮の為か息も荒かった。
「このっ・・・・・・!」
「先ほどの話はなかなかに面白かったですよ。私を楽しませてくれたお礼にその設定の続きのまま貴方の肉をいただく事にするとしましょう。嗚呼魔王の肉を食らうなど、思わぬ僥倖です」
サディストよろしく刀をその長い舌で舐める。指を鳴らすと赤毛と黒毛のグイールが檻の蓋を開けた。後ろ手に繋いだ枷に鎖のような物を通される。
「吊るせ」
ギギっと何かが軋む音がして手が引っ張られた。後ろ手で拘束されている為無理やりな姿勢になる。魔王は悲鳴をあげながら漸く立ち上がり、腰を深く曲げおじぎするような形で吊るされた。ちょうどつま先で立てるか立てないかというギリギリのラインで鎖が固定された。更に言えばもう少し肩関節が柔らかければ、万歳のようになれたのだが、拘束の方法と間接の硬さで無理な姿勢を強いられる。
吊るされただけで魔王額からは脂汗が流れた。
「それではメインデッシュをいただくとしますか」
靴音を鳴らし机に乗ったジャルは、盛り上がった肩に宣言通り薄く削ぐように剣を入れた。鋭い痛みが全身を走り、更に肩の傷口も開いたようで血の匂いが鼻腔をくすぐる。
「思ったより美味しいです。これはあと二千九百九十九回楽しめそうですね」
クククとジャルは喉を鳴らして笑い、続けて剣を振った。一つずつ数を数えながら。




