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デスゲーム……ぽい何かの短編集です

no problem ”世界でもっとも愛らしく美しい生き物(個人の感想です)”

作者: 茶屋ノ壽
掲載日:2014/03/02

「ログアウトボタンは消滅しました。また、死亡時の復活システムも消え去りました。このゲームの世界での死は現実のそれと、なにもかわりません。さあ、刺激的なお遊びの始まりです」

妙に気に障る、自称神と言う存在のアナウンスが世界に響きわたります。新作VRMMOに参加していたプレイヤー10万人弱の悲鳴もまた、あちこちで響いていました。


「例えばさ、全てのことが思い通りになる能力を持った存在がいるとするじゃない?」周囲の悲観に明け暮れた反応とか、ゲームをクリアすれば現実に戻れるんだ、と決意する主人公のような存在とか、を、まったりと無視しつつ、とあるゲーム内の街の喫茶店でクリームソーダを飲みながら、青年が、一緒にいる少女に言います。

「その存在は存外、退屈かもしれないんじゃないかなーと思うのだよ。なんでもできる、ということは、予想外の出来事が起きないということだからね。自分の想像の範囲内でしか物事が起きないということだからね」

「想像したことが全て叶うなら、それは凄く楽しそうですけど?」

「始めからそういう能力をもっていなければね。途中から、何でも願いが叶うようになりますよ、と言われたら、それは確かに楽しいでしょうね。でも、それじゃあ、一通り願いを叶えたら?」

「人の欲望には限りが無いともいいますよ?」

「そうだね、欲が本当に尽きなければ結構幸せかもしれないけど、だいたいずーと長い時間生きていられるように望んで、なるよね、そういう人は。とりあえず100年かな?それとも1000年かな?だいたいやりたいことは全部やってしまったよ、ということになりはしないだろうか?」

「じゃあ、それなら、忘れたらいいのでは?自分の叶えた願いとその結果の詳細を忘れることができれば、もう一度同じような願いを叶えても、楽しめるのではないでしょうか?」

「それは、一つの解だろうね。ただ、つまるところ、お話の内容自体を忘れてしまえば、もう一度新鮮な気持ちで小説やら漫画やらの物語が楽しめるか?という問題があるんだよね」

「ああ、なるほど、忘れているのじゃないか?という既視感がわいてくると……」

「そう、そこで興が醒める、という可能性があるんじゃないかなと。まあ、そこを含めて完全に忘れてしまうという手もあるけど、今度は自身のエピソードを忘却した存在は、連続して存在している一個の存在たりえるのか?という問いが生まれるわけだ」

「せっかく、全てのことが思い通りになったのに、自分が失われるということですか?」

「そうそう、自分であり続けるなら、どこかで思い出さないといけないわけ、じゃないかなと」

「しかし、思い出してしまったら、もう新鮮な気持ちで楽しむことができないと」

「まあ、前回と違って些細な変更点がある、とか言って楽しむことができるかもしれないけど、その存在は結局自分の想像以上のことを体験することができないんだよね」

「じゃあ、ある程度自分の能力に制限をかけてみるとかはどうでしょう?」

「そう、それも手だよね。全てが、自分の無意識まで関係して、都合の良い、世界を構築して行くというのをやめて、自分にできないことを設定するわけだ。例えば、人の意志まではしばらないとか、自分に敵対することを許すとか、ルールを決めて、第三者的な存在を設定に判定を頼むとか」

「自分以外の発想を自由にすることで、そこから発生する揺らぎ、意外性を楽しむわけですね」

「そうそう、まあ、それでも最終的な安全は確保する、というパターンと、それすら放棄して、破滅的な感じで楽しむと、か色々方向性の違いはありそうだけどね」

「でもそれは結局その存在、何でもすることができるそれの、能力が人間という枠に囚われていたら、という、前提ですよね。もしかしたら、無限、とは言い難いですが、それに近いくらい、想像力が豊富で、いくらでも好きに楽しめるという存在なら、退屈はしないのではないでしょうか?」

「どうかな?まあ、そうかも?ただ、本当にそのような前提を満たすことが出来る存在だったら、いたずらに世界を作らなくても、どうでも楽しめると思うけどね。つまり、実際に世界を作り出して楽しむということは、逆説的に想像力が充分でないということではないかな?」

「そうですね、世界を作ったということはその結果が想像できないということですものね、無限に近い豊富な想像力を持つ存在なら、実際に世界を作成する必要がないということで……ええと、そういう存在は何をすればよいのでしょう?」

「だから、退屈なのではないかなーと。なんでもできるということは、何をしても予定調和ということですからね、とどのつまり何かしら、自身に出来ない、ということを設定しない、条件なし何でもありという創造は、つまらないのではないかなー、と」

「であるから、このようなVRMMOの閉じ込め案件が発生すると」

「じゃないかな?適度な発想しかできない想像力が、自身を楽しめるようにする構造として、LOGOUT不可能のDeath Gameが作り出されたということかなと」

「結局のところ、このような世界を作り出そうとする存在はたかが知れていると?」

「ゲームの世界に取り込まれる、閉じ込めるというお話には色々な仕掛けが考えられるから、一概にはそう言えないけどね、そもそも、作り出したと思っていた存在が、そうではなくて、何らかの現象に巻き込まれただけとか、というパターンもあるからね」

「ええと、確かVR(virtual reality)、仮想現実の概念は、もともとはSFの古典から引っ張ってきているのですよね」

「そうそう、サイバーパンクとか、その前のロボットが自我を持つのか?というお話の派生で、それとゲーム、MMO(Massively Multiplayer Online)の概念がくみあわさって、そういうゲーム世界に閉じ込められるというタイプの話が生まれてきた……んじゃないかな?まあ、古来より何かの媒体に自分が引きづりこまれたり、訪れたりして、現実への帰還を目指す物語は、枚挙にいとまがないですから、そのあたりのガジェットの変形と考えると、いえ、異世界への紛れ込みがアーキータイプとなると、ギリシャあたりの神話とかが最初になるのかな?」

「まあ、登場人物を現実とは乖離した状況へと放り込んで、その対応を見て楽しむという点では変わらないのでしょうかね?」

「それに、電子的なデータとしての世界で閉じ込め脱出話をしているのか、じつはゲーム世界と思わせて、異世界の現実に移動させているという話にしているのか、その複合とか、いろいろ可能性が考えられるね」

「もともとこのゲーム世界にいた住人達の反応がAIとは考えられないくらいに変化しているようですから、どうやら、私たちは、ゲームに似た世界に移動させられたという感じでしょうかね?」

「もしくは、そういう世界を作ってみたとか?あと、この世界を作り出した存在の目的も大切だね」

「そうですね、享楽的な理由のみというのと、後はなんでしょうか?」

「世界の危機を救うために、多数の人間が必要になったとか?」

「大規模な実験とか、人類の進化をうながすためとか?」

「ただの事故とか」

「ある特定の人間の精神を治療するためとか?」

「こういう現象を起こしましたよ、というアナウンスを行っている存在がいる以上、ただの事故という可能性は低いでしょうか?」

「そうとも限らないかなー、事故なんだけど取り繕っているとか、実際の黒幕は他にいるのだけど、人々を混乱させない為にわざとそう言う風にふるまうっているとか?」

「うーん、色々と想像の翼が広がりますね」

「そうですね……けど、あなたがいる時点でかなり台無しではありますがね」

「そうなんだけどね、まあ、大体は把握しましたから、そろそろ”なかったこと”にしましょうか?今日も色々予定があるわけですし」

「あなたが”ここ”にいるという、このパターンだと何でしょうかね?」

「そうですね、超常現象を起こすことができる存在が、2重に物語に存在した場合ということになるのでしょうか?好きに色々なことが出来る存在が、同時に存在した時に、どうなるか?という話ということでしょうかね」

「それなら、結局強い方がその願いを叶えることが出来ると」

「まあ、私の場合、相性の問題もあるわけですが。私の能力は何か凝ったことをやろうとしても、それを全くなかったことに出来るものですからね。逆に細かく現状を修正するのには向かないですが」

「やはり、創造するより、破壊する方が楽ですか?」

「創造と、破壊の定義によるけどね、おおむね楽だねー」

「一つの世界を破壊するということに対しての、罪悪感はどうしているのです」

「全て”なかったこと”になるから、それも無いですねー、まあ、”世界でもっとも美しい生き物”のやることですから」


 青年は大きく口元を歪めて、笑みを浮かべます。そして、そこだけが妙に印象に残ります


「”なにも問題はないのです(no problem)”」


 ***


 嘆き悲しんでいた少年の頭上に影がかかります

 何かを決意していた女性の視界に何か黒くおおきな影がうつります

 色々とこれからの展開を考えて、主人公の近くに潜む黒幕が、気配を感じて上を向きます

 なんでもない、ただの世界の住人は、直前まで気がつきません

 世界に閉じ込められた多くの人々はほぼ一斉に上を見ます


 そこには……


 大きな猫の足が、肉球がありました

 そして、猫の肉球前足が、空間をゆがめるように、彼等をぺしゃんこに潰します

 存在を歪ませて、”ぷつん”と空気を震わせるような音をたて、

 最初から、何もなかったかのように、猫の足の元に消え去っていきます。

 

 人々だけでなく、城や、宿屋のような建物や、木々や草花や、太陽や、山や、洞窟や、海や、空がすべて、猫の肉球で踏みつぶされて消えていきます。


 喫茶店でクリームソーダを飲んでいた青年の、前に座っていた少女も消えました。


 最後に、世界に、残ったのは、青年の、白い歯並びの、大きな笑み、一つ

 「”reset”にはやはり猫様だよねー」


 にゃあ


 どこからか、猫様の鳴き声ひとつ


 世は全てことも無し





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