プロポーズ
何もかも上手くいかない。
優莉菜は何もする気がなかった。
今日一日、朝からずっとベッドに入ったまま色んな事を考えていた。
就職の事、自分の事、そして───ちなみと龍之介の関係。
あの人―――結城ちなみは龍之介とベッドを共にしたって言っていた。
優莉菜の頭の中はその事で大半を占めていた。
龍之介に何度も聞こうと思っていたのだが、距離を置こうと言われ、おまけにちなみと腕を組んでいたのまで目撃してしまった今、なんと言って話したらいいのか分からなかった。
いつまでもウジウジ考えていても何も変わらない。
優莉菜はベッドから出て窓に歩み寄り、カーテンを開けた。
ふと時計を見ると、もう午後2時を回っていた。
「こんな事じゃだめだ。やっぱりちゃんと話し合わないと」
何度目の決意だろう。
龍之介と話し合おうと思ったら何かが起こり、砕かれてしまう。
だけど、そこで立ち止まってたら何も始まらない。
優莉菜は着替える為にクローゼットを開けた。すると、ベッド脇に置いていた携帯が鳴り出した。
着信を見て慌てて通話ボタンを押す。
「もしもし」
『優莉菜?俺だけど』
電話の相手は龍之介だ。
距離を置こうと言われてから何日経っただろう。久し振りの龍之介の声を聞いた途端、電話を持つ手が震えてしまう。
「うん。・・・元気だった?」
『ああ』
2ヶ月前と同じ会話を繰り返す。
『大事な話がある。今から会えるか?』
大事な話?
自分を見つめなおす時間が欲しいって言ってたけど・・・。
答えが出たのだろうか。
優莉菜は震える手を懸命に抑えようと携帯を握り締める。
今度こそ別れを切り出されそうで・・・怖い。
・・・ううん、逃げてちゃダメ。
「うん。いいよ」
『お前の部屋に行く』
「え?」
『20分ほどで着くから待っててくれ』
そう言うと電話は切れた。
20分!?
優莉菜は慌てて着替えを済ますと部屋を片付け始めた。
片付け終えたとほぼ同時に玄関のチャイムが鳴った。
ドアを開けると龍之介が立っていた。
久し振りに見る彼はなんだかいつもと雰囲気が違う。
いつもの優しい雰囲気はあるが、どこか違って見える。
なんだろう?
「急に悪いな。そうしてもお前と話がしたくて」
「・・・うん。とりあえずあがって?」
暖かいコーヒーが入ったカップをテーブルに置く。
ブラックにほんの少量砂糖を入れた龍之介が好んで飲んでいたものだ。
優莉菜はよくこうしてコーヒーを煎れていた。
それに口をつけた龍之介は懐かしそうに目を細める。
「相変わらず優莉菜が煎れるコーヒーは美味いな」
優莉菜は軽く微笑んだ。
当然だ。龍之介の好きだったものはまだ全部覚えている。
「・・・それで、大事な話って?」
優莉菜は思い切って切り出した。
その言葉に龍之介は急に後ろに退くと、頭を絨毯につけるように土下座する。
優莉菜は目を見張る。
「ごめん!彼女との事・・・知ってるんだよな?」
彼女・・・ちなみの事を言っているのだ。
「優莉菜の店の店長から聞いた。お前が、俺と結城が関係を持った事知ってるって・・・」
龍之介は少しだけ頭を上げた。でも優莉菜の顔は見ていない。いや、見れないのだ。
「ほんとなの?」
優莉菜は龍之介をじっと見つめながら訊ねる。
「ああ。・・・酒に酔った勢いで・・・」
酒に酔った勢い・・・。
女なら誰でもいいんだ。優莉菜は少し腹が立った。
「だけど、俺は結城の事はなんとも思っていない。勢いのままその・・・そうなってしまったけど、後悔してるんだ」
「それで・・・彼女とはどうなったの?」
一番聞きたかった事だ。
「別れた」
島崎からはちなみの事は気にしなくていいと言われたが、そういう訳にも行かない。
きちんと会って話してきた。
なかなか納得してくれなかったが、龍之介が誠心誠意謝り優莉菜を愛していると伝えると身を引いてくれた。龍之介の真剣な眼差しに、これ以上強引に迫っても落とせないと感じたのだ。
「彼女とは二度と会わない」
「会わないってそんな事・・・同じ職場なのに」
「いや、会社は辞める」
「え?」
優莉菜はまた目を見張る。
「俺、自分が何をしたいのか見つけたんだ」
「自分のしたい事・・・」
「ああ。パティシエになろうと思ってる。・・・お前はいつも俺が作ったお菓子を褒めてくれてたよな」
龍之介は顔を上げて優莉菜の顔を見た。
「半年前、お前の誕生日にケーキ作った時に言ってくれた一言を思い出して俺はパティシエになろうと思ったんだ」
「あの時の一言で・・・?」
「ああ。あの時はパティシエなんてって思ったけど、今は自分が作ったお菓子を皆に食べてもらいたい。そしてそれを仕事にして自立したいんだ」
真剣に話す龍之介を見ていたら胸が締め付けられる。
「そんな俺を、お前に、優莉菜に見ていて欲しいと思ってる」
まっすぐに優莉菜を見つめる。その瞳には強い意思が宿っているのが分かる。
「だから優莉菜、結婚しよう」
優莉菜の瞳から自然と涙がこぼれる。
「いや、今すぐじゃなくていいんだ。俺もこれから大変になるし、生活だって今以上に苦しくなる。だけど、・・・ずっと優莉菜と一緒にいたいんだ」
「龍ちゃん・・・」
優莉菜は龍之介の胸に飛び込んだ。
その拍子に後ろに倒れそうになったが片手をついてなんとか倒れずにすんだ。
「お、おい」
「嬉しい・・・!私の事嫌いになったんじゃなかったんだね・・・」
優莉菜の言葉に龍之介は驚く。
「なんで俺がお前を嫌いにならなきゃならないんだ」
「だって・・・他の女性と関係を持ったって聞いたら・・・誰だって嫌われたんだって、飽きられたんだって思うよ」
龍之介の首に手を回したまま言う。
そうか、女って男が浮気するとここまで不安になるのか。
「ほんとにごめん。もう二度としない。不安にさせない。お前は一生俺が守ってみせる」
優利菜の頭に手を添えて優しく撫でる。
そして彼女の頬に触れると親指で涙を拭ってやる。
二人は見詰め合う。優莉菜はそっと目を閉じた。
龍之介は優しくキスをした。
その後。
龍之介は一人前のパティシエになり、小さいが店を持つまでになった。
その隣に優莉菜がいるのは言うまでもない。
そして、二人の間で小さな女の子が笑っている。
これから先はまた別のお話。
完
初めて書き上げた小説です。 恋愛において、ハッピーエンドが書きたいなぁと、 思うまま書いたらこんな風に出来上がりました。
まだまだな所がいっぱいありますが、初めて書いた小説な のでそのまま載せてみました(^^;)
感想なんて頂けたら嬉しいです。 誹謗中傷はやめて下さい。思いっきり凹むので(T_T)




