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腕斬りオレオン  作者: 山風勇太
第一章 英雄を探して
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斬撃


「ぼくは〈腕斬りオレオン〉などではありません。それに、町なかで剣を抜くものじゃありませんよ」

 そう言いながらも、オーレスが左手を刀の柄へ伸ばすのを、シュタルテは見た。

 刀にも様々な長さのものがあるが、オーレスのはやや短い。短い刀の利点……シュタルテは考えた。二刀流、すなわち片手で使うためか。あるいは――。

 男達のひとりが動いた。右手の剣で、オーレスに斬りかかる。

 オーレスが、右手を刀の鞘に添えた。

 抜き打ち――!

 抜いた動作で斬ったのか、次の動きで斬ったのか、シュタルテには良く分からなかった。

 確かなのは、オーレスに襲いかかった男の右手が、剣と共に地面に落ちたということだった。

 間髪入れず、残りの二人がオーレスに斬りつけてきた。オーレスは落ち着いた動きで退き、攻撃をかわす。

 そして次の瞬間、オーレスの刀の刀身が消えたように、シュタルテには見えた。ただ、オーレスが二度、斬撃を放ったことが、今度はシュタルテにも辛うじて分かった。

 気が付けば、右手を失った男が三人、地にうずくまっていた。

「先生!」

 と言って、シュタルテはオーレスに駆け寄った。

「シュタルテ君、治癒術は使えますか?」

 オーレスが落ち着いた声で訊く。お前も落ち着けと、シュタルテは自分に命じた。

「ちょっとは使えますけど……こんな傷じゃ、手が出せません!」

「そうですか。ぼくも同じです」

 オーレスはそう言いながら、ジーニャの方を見やった。

 おののいたような表情で、ジーニャが首を横に振る。通りがかった人々は、距離をとって怖々こわごわとシュタルテ達の様子を眺めるばかりだった。

「シュタルテ君、ジーニャさん、誰か、助けてくれそうな人を呼んできてください」

 オーレスが言う。

「兵隊と……できれば、お医者を」

「でも、早く手当しないと、死んじゃいますよ」

 シュタルテが上ずった声で言った。

「できる限りのことはしましょう」

 と言って、オーレスは男達のひとりから、上着を剥ぎ取りだした。出血を止めるつもりらしい。

「先生!」

 シュタルテが、声を上げる。

「〈腕斬りオレオン〉なら、切断した腕を塞げるはずです!」

「しかし、ぼくはオレオンではないのです」

 オーレスが、淡々と言う。

「魔法力が低いのでね。そんな高出力の治癒術は、使えません」

「そんな……こんな時まで、何言ってるんですか!」

 シュタルテは愕然とした表情で、オーレスの服を掴んだ。

 そのシュタルテを、ジーニャがオーレスから引き剥がす。

「シュタルテ、行きましょう! 誰か呼んでこなくちゃ!」

 そしてジーニャは、遠巻きに見ている人々に声を張り上げた。

「どなたか、兵隊さんに知らせてください!」

「良し、おれが行こう」と言って、観衆のひとりが走っていった。さらにもうひとり、その後を追う。

「あたしはお医者さんを連れてくるわ」

 ジーニャがシュタルテに言った。

「あなたは、タウロン様を呼んできて」

「タウロン様?」

「あの方は、相当の魔術師に違いないわ。きっと、助けてくれるはずよ」

「分かった」

 そう言って、シュタルテは駆けだそうとしたが、ふと足を止め、オーレスの方を振り返った。

 オーレスは、まだらに血を浴びた上着を裂いて、二人目の男の傷口にあてがっているところだった。

 三人目の男の右腕からは、とめどなく血が流れていた。



(わたしのせいだ……)

 東を指して走りながら、シュタルテは思った。

(わたしがオレオン、オレオンって騒がなければ、こんなこと起こらなかったんだ)

 でも、と思う。

(でも、先生もどうかしてる。あっという間に三人の腕を斬り落として、誰がどう見ても、〈腕斬りオレオン〉じゃない。それなのに、今さら正体を隠して、治癒術をかけてやらないなんて……あの三人を死なせるつもりなの?)

 そこまで考えた時、シュタルテはつまずいて転んだ。腰の剣がガシャリと鳴る。

「わたしがしつこいんで、意地になってるの? それなら……こっちにだって、考えがあるんだから」

 起き上がりながら、今度は声に出して呟いた。そして、再び駆けだす。

 転んだ際に打った膝に、痛みが走った。一瞬、シュタルテは顔をしかめた。

「あなたが悪いんだからね、オレオン先生……」



 翌日、ジーニャはサルト流剣術道場へオーレスを訪ねた。

 二棟の建物の小さい方、道場主一家の住居の応接間に通される。雇われ師範オーレスは、この家に居候しているのだった。

「昨日の人達ですが」

 とジーニャが切り出す。

「三人とも、命に別状はないそうです。先生を襲ったのは、名をあげるためだったとか……つまり、〈腕斬りオレオン〉に勝つことで」

「時代錯誤な……」

 オーレスは言ったが、時おり聞く話ではあった。名のある達人に挑戦して、自分の名をあげる……特に裏の世界では、複数人でひとりを倒すようなやり方でも、充分に評価されるという。

 昨日の三人組は、オレオンがいるという噂を聞きつけて、デンズの町へやってきたのだった。

 道場の手伝いをしているアーロ少年が入ってきて、オーレスとジーニャに茶を出した。

「アーロ君、お客様に先にお出しするものですよ」

「あ、すみません」

 オーレスの言葉に謝ってから、少年はそそくさと部屋を後にした。

「……いや、わざわざ知らせてくださり、ありがとうございます。あなたも災難でしたね、あんなことに巻き込まれて」

「いえ」

「それに、お医者と……それからあのタウロン殿を呼んできてもらったことも、ありがとうございました。ぼくも、連中を死なせたかったわけではないですからね。お二人が治療してくれて、助かりましたよ」

「そのことなんですが……」

 ジーニャが、少しためらいがちに言った。

「どうして、あの人達の右腕を斬り落とされたんですか?」

「殺さず、かつ戦闘力を奪うためです」

「でも、あのやり方は、まるで〈腕斬りオレオン〉のような……」

 オーレスは少しの間、何か考えるように口をつぐんだ。

「……とっさのことでした。シュタルテ君にオレオンのことばかり聞かされていたから、とっさにあんなことを思いついたんでしょう」

「でも、あれではシュタルテはますます、先生がオレオンだと信じ込んでしまいます」

「ぼくがオレオンではないということは、再三説明しています」

「……」

 今度はジーニャが、口をつぐむ。その目には、かすかに疑いの色があった。

 オーレスは、茶を一口すすった。

「ところで今日は、そのシュタルテ君は?」

「あ、そうでした。五日ほど道場を休むので、そう伝えてほしいと言っていました」

「休み? 珍しいですね」

「なんでも、用事でドルストンへ出かけてくるとか」

 オーレスの顔に、一瞬、探るような表情が浮かんだ。

「そうですか。ドルストンへ……」




腕斬り次回予告


 デンズの町に、隻眼隻腕のサムライが現れた。彼の目的は、サムライを斬ることで世の中を少しでもマシにすること、そして自分の腕を斬ったオレオンを見つけ出すこと。そこへ浦島大学陸上部のエース、金沢健も乱入して……!

 次回、『腕斬りオレオン』第二章「タンゲ○ゼンとオレオン」

 お楽しみに。



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