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腕斬りオレオン  作者: 山風勇太
第一章 英雄を探して
3/60

格上

 ガゼフがシュタルテと向き合い、オーレスが審判に入った。レギスとヘイズンは、離れた所で見ている。

 木剣を下げた状態で、シュタルテは目の前の男を観察した。四人の男達の中で最年長であり、おそらく、経験も豊富なのだろう。

 しかし全体的な雰囲気として、覇気がない、と思った。先ほど立ち合ったヘイズンも、雰囲気にしろ戦い方にしろ穏やかな印象だったが、さらに静かな感じを受ける。といって、自信がないというふうでもない。

 以前、良く似た雰囲気の達人と勝負したことがあるのを、シュタルテはふと思い出した。

(強いか弱いか、戦えば分かるわ)

 そう思いながら、シュタルテは剣先を相手に向けた。

「始め」

 オーレスが合図をする。

 シュタルテから動いた。ガゼフの右肩の辺りに、剣を打ち下ろす。ガゼフはそれを剣で払い、反撃する。シュタルテは退いてかわす。

 シュタルテが再び踏み込み、右から左から連続して打ち込む。ガゼフはそれを軽く弾いて、逆に連撃を放った。シュタルテは素早く剣を操り、あるものは受け、あるものは体捌たいさばきでかわした。

 一進一退の攻防を繰り広げてから、シュタルテは少し距離を取った。そして踏み込みながらの胴打ちをしかけようと決め、木剣の柄を握り直した。

 その時、シュタルテは、ガゼフが強烈な殺気を放つのを感じた。このまま打ち込んでも入らない。そう思った。

 気付くと、胸の前にガゼフの剣先があった。突きが決まっていたのである。

「そこまで」

 オーレスが鋭く言った。

 互いに二歩下がって礼をしてから、ガゼフが言った。

「なかなかやるな」

 そしてガゼフは、オーレスの顔を見やった。

「先生、どうされますか?」

 その言葉を聞いて、シュタルテは気付いた。

(わたしの力を試すために、わざと長引かせていたんだ……)

 悔しい、とは思わなかった。むしろ、格上の相手と勝負できたことが嬉しかった。

(ただ、ここで追い返されても困るんだけど……)

 そう思いながら、シュタルテもオーレスの顔を見た。

 オーレスは、少しだけ何か考えてから、答えた。

「良いでしょう。お相手しましょう」



「ありがとうございます!」

 シュタルテは、思わずといった様子で声を上げた。それからまた、声の調子を落とす。

「それで、できればもうひとつ、お願いしたいんですが」

「何です?」

 オーレスが訊く。

「先生は二刀流をお使いになると、伺っています。わたしも二刀流をやるので、それでお相手を願えれば、勉強になるんですが」

「なるほど、構いませんよ。で、あなたも二本使いますか、ぼくとの勝負で」

「はい」

「何と何を?」

「長剣と短剣を」

「分かりました――レギス君、小剣と短剣を一本ずつ、持ってきてください」

「はい」

 答えて、レギスは二棟ある内の大きい方の建物――道場へと駆けていった。

「まあ、少し休んでください」とオーレス。「ところで、三人と戦ってみた感想を訊いて良いですか」

「はい。ええと、レギスさんは、あの……」

「構いません、好きにおっしゃってください」

「はい……レギスさんは、がむしゃらに突っ込んでくるだけで、隙だらけだったので、割と簡単に勝てました。けど、打ち込みは鋭かったと思います。ただ、連撃がばらばらな感じで、簡単にかわせましたけど」

「なるほど、ばらばらな感じね」とオーレス。

「簡単という言葉が、二度出てきたな……」とガゼフ。

「ヘイズンさんは、守りがうまくて、攻めにくかったです。ただ、攻め方が積極的じゃなくて、少し遅れる感じだったので、思い切って攻めることができて、なんとか勝てました」

 シュタルテが話しているところへ、レギスが戻ってきた。

「あれ、ヘイズンの話ですか? 遅いって? だからおれはいつも、もっとガンガン前に出ろって、言ってるんですけどね」

「……」

 オーレスが、何ともいえない表情でレギスを見る。

「お前、ちょっと黙ってた方が良いぞ」

 ガゼフが言った。

 ヘイズンは、感謝を示すように、黙ってシュタルテに頭を下げた。

「ガゼフさんは」とシュタルテ。「すごく落ち着いてわたしの攻撃を捌いて、いくら打ち込んでも入らない感じでした。それに、最後の突きは一瞬で、何が起きたか分からないくらいでした」

「ガゼフさんの殺気にひるんだ、というのもあるんじゃありませんか?」

 ずっと黙っていたヘイズンが、ふと口を開いた。

「はい。ちょっとびっくりしました」

「なるほど、良く分かりました。どうもありがとう」とオーレス。「ところでレギス君、持ってきてくれましたか」

「はい、ここに」

 答えて、レギスはオーレスに小剣の大きさの木剣を、シュタルテにはそれよりさらに短い木剣を差し出した。

「間違えて、普通の木剣を持ってくるかと思ったが」とガゼフ。「ちゃんと、魔法のかけられてるのを持ってきたな」

「ははは、おれもそこまでじゃありませんよ」

「ええ、君はそこまでじゃありませんとも」

 と言って、オーレスは小剣を受け取った。

「なんか、引っかかる言い方だな……」

 何か呟きつつ、レギスはシュタルテとオーレスから離れた。

「では、よろしいですか」

 ガゼフがオーレスとシュタルテに言う。シュタルテは右手の長剣を、オーレスは左手の長剣を、それぞれ相手に向けた。

「始め!」

 ガゼフの合図と同時に、シュタルテは相手に突進した。右手の長剣を、オーレスの左腕の辺りに打ち下ろす。

 オーレスはそれを、右手の小剣で右に払った。そしてそのまま体を捻り、シュタルテが向き直る前に、左手の長剣をシュタルテの右脇腹にピタリと当てた。

「そこまで!」




オーレス

 二十八歳男性。中肉中背、特徴のない優しげな顔立ち。サルト流の者ではないが、剣の腕を買われて雇われ師範をしている。趣味は雲を眺めること。



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