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腕斬りオレオン  作者: 山風勇太
第二章 オーレスとオレオン
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旅の神官への依頼


 その日の夕方、シュタルテとベイルは、魔法具を売って旅費を稼いでいる風変わりな神官、タウロンを訪ねた。

「なるほど、剣に魔力攪乱の術をね」

 いつもの場所で着火石を売っていた、風の神セイルの神官が、頷く。

「それなら、やったことがある。任せなさい」

「本当? やった!」

 シュタルテが嬉しそうに言った。久しぶりに笑顔を見た、とベイルは思った。

「それで、どちらの剣に術をかける?」

 タウロンはそう言いながら、シュタルテの腰の二本の剣を見比べた。左の腰に長剣、右が短剣。

「あ、考えてなかった」

 とシュタルテが言うと、ベイルが口を開いた。

「すぐに抜けて取り回しの利く短剣が良いだろう」

「そっか……あ、両方にかけてもらうっていうのは?」

「あまりお勧めしないな」

 と、今度はタウロンが言う。

「魔力攪乱などを仕込めば、他の術がかかりにくくなる。魔術師と共闘する時、不便があるかもしれない」

 戦闘の際、剣などの武器に一時的に魔法をかけることがある。一般的には、刀身に魔力の刃をまとわせて破壊力を高める、あるいはリーチを伸ばすなどといった術があり、また変わったところでは、幻術で武器を見えなくするというような技を使う者もいるという。

 通常、剣には強度を高める、錆を防ぐといった術がかけられているものだが、そういった単純な術は、戦闘時に追加でかけられる魔法をほとんど阻害しない。しかし魔力攪乱のような複雑な術を固定的にかけておけば、追加でさらに魔法をかけようとしても受け付けなくなってしまう。したがって、そんな術を全ての武器に仕込んでおくことは、戦術の自由度を制限することになる。

 というようなことは、ベイルのような実戦経験豊富な者には常識なのだが……。

「その通りだが――」

 ベイルが、ちょっと不審そうな顔をする。

「妙に戦いに慣れているような物言いだな、神官殿」

「まあ、旅の神官というのも、なかなか楽じゃないということだよ」

 タウロンは微笑しながら、こともなげに言った。

「なるほど」

 ベイルが、一応納得したという様子で頷く。

「じゃ、この短剣に、お願いします」

 と言って、シュタルテは短剣を鞘ごとタウロンに渡した。

「分かった、ではそうだな、三日後の夕方、またここへ来てくれ」

 剣を受け取りながら、タウロンが言った。

「それで神官殿、代金のことだが」

 ベイルがまた口を挿むと、シュタルテが顔色を変えた。

「あ、それも考えてなかった」

「おいおい」

 ベイルが呆れたように言う。

「まあ、これも何かの縁だ」とタウロン。「お金はもらわなくても――」

「そういうわけにはいくまい」

 と、ベイルがタウロンの言葉を遮った。

「そうだな……どうだろう、二千コームでは」

「え、そんなに!?」

 ベイルの言葉に、シュタルテが驚く。

「馬鹿、これでも神官殿に甘えて、大分安く言っているんだ」

「あ、好きな女に馬鹿って言う男って、最低だと思う」

 ベイルとシュタルテが、いつものように揉め始める。

 そのやりとりを聴いていたタウロンが、笑い声を上げた。

「あなた達は面白いな……良いだろう、二千コームで引き受けよう」

「ありがたい。では、前金として五百コーム払っておこう」

 と言って、ベイルが財布を取り出したので、タウロンはちょっと怪訝な顔をした。

 もっとも、さらにびっくりしたのがシュタルテである。

「何やってんのよ、わたしが出すわよ!」

「いや、おれが出す」

「なんで?」

「神官殿は金を取る気がなかった。あんたも出す気がなかった。金のことを言い出したのは、おれだからな」

「何、その理屈!」

「それに、二人で出かけたからには、金は全部出すのが男の甲斐性だ」

「これ、デートだったの!?」

 二人がああだこうだと言い合っているところへ、中年の婦人がひとり、通りかかった。足を止めて、布の上に並べられた着火石をちらっと見る。

 しかし、いつまでも言い争っている男女に目をやると、そのまま行ってしまった。

「……あなた達の仲が良いのは分かったから、よそでやってくれないか?」

 名残惜しそうに婦人を見送りながら、タウロンが言った。

「仲良くないっつーの!」

 声を上げたシュタルテの隙を突くように、ベイルがタウロンの前へさっと金貨を置いた。そして、「あっ!?」と言ったシュタルテを引きずっていく。

 二人は並んで歩きながら、なおも噛み合わない応酬を続けているようだった。タウロンには、ベイルが何やら言い争いを楽しんでいるようにも見えた。

 それはともかく、と旅の神官は通りを見回した。

「さっきのお客、戻ってこないかな……」




バスコフ

 四十四歳男性。サルト流剣術道場の師範のひとり。カイムやソーラを上回る実力を誇るが、オーレスとどちらが強いかは門弟達には明かされていない。いかつい顔をして厳しい指導を行うが、とても弟子思いな人。釣りに目がない。



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