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腕斬りオレオン  作者: 山風勇太
第一章 英雄を探して
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美少女剣士シュタルテ

 読みやすい文章を心がけつつ、完結できるよう頑張ります。



 昼食には遅い時間だった。食堂の中には、シュタルテの他に、男が二人いるだけだった。

「ごちそうさま」

 シュタルテはそう言いながら、食事の代金をカウンターに置いた。

「おいしかったわ」

「どうも」

 鍋を洗っていた男がやってきて、銅貨を収める。

 と、店を出ようとしたシュタルテに、二人の男の客の一方が声をかけてきた。

「姉さん、見ない顔だね」

 シュタルテは立ち止まり、ちょっと迷うように間を置いてから、答えた。

「よそから来たのよ」

「どこから?」

 もう一方の男が訊いた。

「ドルストンから」

「へえ。この町へは何しに?」

「人を探しに」

「そうか、恋人を探しにね」

 二人組の男が、ニヤニヤと笑いだす。

「それじゃ、手始めに、おれ達と友達になろうぜ」

「別に、恋人探してるわけじゃないわよ」

 そう言って行こうとしたシュタルテの腕を、男達のひとりが掴んだ。シュタルテはその手を払い、数歩下がった。

「これが見えない?」

 シュタルテは言いながら、左の腰の長剣の柄を軽く叩いてみせた。右の腰には、短剣も差している。

「もう一度触ったら、抜くよ」

「おお、怖い」

「本当だ、怖い怖い」

 そう言いながら、しかし男達は、小馬鹿にするように笑うだけだった。

「あんたら、やめときなよ」

 そう声をかけながら、カウンターの中の男が困り顔で出てきた。

 だが、男達は椅子を立ち、シュタルテに歩み寄ろうとする。

 その時である。

「やめておけ、勝ち目はないぞ」

 そう言いつつ、開け放たれた入口から、ひとりの背の高い男が入ってきた。歳は二十五、六といったところ、引き締まった体躯に、精悍な顔立ちをしている。手には、身の丈よりやや短い棒を持っていた。

「それとも、おれが相手になろうか」

「ベイルの旦那……」

 二人組はその男の顔を見た途端、大慌てで財布を引っ張りだして代金をテーブルに置き、そそくさと店を後にした。

「やあ、ベイルさんか。助かりました」

 カウンターのそばに立っていた、店の男が言った。

「ああ、何やら揉めているようだったのでな。必要ないかとも思ったが」

 ベイルと呼ばれた男は、そう答えてから、シュタルテの方に顔を向けた。

 シュタルテはうっとりとした様子で、ベイルの顔に見入っていた。

(良い男……)

「……何か?」

「えっ!? いえ、別に」

「そうか。ところで、見ない顔だな」

 ベイルは何やら、先ほどの男達と同じようなことを言いだした。

「よそから来たのよ、ドルストンから」

「そうか。この町へは何をしに?」

「人を探しに――あ、恋人見付けに来たわけじゃないわよ!?」

「そうか」

(何言ってんだろ、わたし……!)

 シュタルテは顔を真っ赤にしたが、ベイルは平然としていた。

「それで、どこへ行くんだ。良ければ、案内してやろう」

「そう? サルト流剣術道場ってとこなんだけど」

「それなら、良く知っている」

 ベイルはそう言って、店を出た。シュタルテは慌てて後を追った。



「ところで、美少女剣士」

「なに……って、ちょっと待った!」

 通りを歩きながら声をかけてきたベイルに、シュタルテが噛みついた。

「何よ、それ!?」

「何って、何が」

「その呼び方! 『美少女剣士』!?」

「剣を使うらしい、美しい少女だから、美少女剣士と言った」

「美しいって、良くもまあ、いけしゃあしゃあと……」

 シュタルテは顔を赤くする。しかし、ベイルは相変わらず淡々としていた。

「本当のことだろう」

「まあ、本当のことだけどね!」

「それで――」

「待った! あともうひとつ!」

「何だ?」

「少女って何? あなた、わたしのこといくつだと思ってんの?」

「十四か五」

「十九歳です! 少女と呼べるか否かは、極めて微妙です!」

「まあ、呼べないだろうな、もはや」

「この野郎!」

 シュタルテは叫びながら、ベイルの背中に蹴りを入れた。しかし、見るからに屈強な長身の男は、いささかも動揺しなかった。

「悪かった。顔立ちから、てっきり、そのくらいかと」

「童顔なの、気にしてるのに……」

「体つきも、凹凸がないし」

「それはもっと気にしてんのよ!」

 シュタルテは再び、ベイルに蹴りを放った。やはり、効いている様子はなかった。

「まあ、気にするな。おれは気にしない」

 ベイルはやはり、平然とした調子で言った。

(やだ、こいつ……顔は良いけど、話してるとイライラしてくる……)

 シュタルテは考えながら、不機嫌そうな目で、隣を歩く男の顔を見上げた。

 二人はしばらく、黙って歩いていたが、ややあってからまた、ベイルが口を開いた。

「それで、美少女剣士」

「だから、やめろっつってんでしょ!」

「では、名前を訊いて良いか?」

「え? ああ、そうね、ごめんなさい。わたしはシュタルテ・ガーナー。ドルストンの生まれよ」

「そうか。おれはベイル・ソーンズ。北部の生まれで、三年ほど前にこのデンズへ来た」

「そうなんだ」

「ああ。それでシュタルテ、サルトの道場へは、誰に会いに行くんだ」

「師範をしている、オーレス先生という方に」

「オーレス先生か。知り合いか?」

「面識はないんだけどね。すごく強いっていうから、一度会ってみたくて」

「なるほど。確かに、あの人は強い」

「知ってるんだ?」

「ああ。少し苦手だけどな」

「あなたにも、苦手な人っているのね……」

「どういうことだ?」

「何でもないわよぉ?」

「そうか……着いたぞ」

 そう言って、ベイルは足を止めた。

 二人は、長い塀の途中に作られた立派な門の前に立っていた。門の上に、「サルト流剣術道場」という看板がかかっている。中を覗くと、大小二棟の建物があるのが分かった。

「ここまでで良いか? なんなら、紹介してやっても良いが」

「いえ、ひとりで行くわ。どうもありがとう」

「そうか。ではまたな、美少女剣士」

「おいこら!」

 シュタルテが腕を振り上げた時には、ベイルは背中を向けて歩き去っていた。

「変な奴……」

 そう呟いてから、シュタルテはもう一度、門の中を覗き込んだ。

「……ここにいるのね、〈腕斬りオレオン〉」




 前作『ほら吹き少年と司祭』と同じ国の物語です。



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