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01-02/目覚めしは人形遣いの家

 ようやく主人公の名前が判明。(あらすじにとっくに書いてあるけどね)

 開きかけたドアが一度止まった。おそらく起こしては悪いと判断して躊躇ったのだろう。

 

 だがそれも束の間の逡巡、向こう側にいる人物はドアをゆっくりを開いて、ついに姿を見せ、俺と対面した。

 

 有り体に言ってしまえば、そこには女性が立っていた。ドアノブを握って俺の顔を見るや、「あら」とでも言ってるかのような、驚いた表情をしてみせたが、すぐに平然とした顔に戻る。

 

 対して俺は相手の変化した表情には目もくれず、その姿を上から下まで眺めた。

 

 確かに女性。女性には間違いない。……しかし、それならまだしも年齢が若すぎやしないだろうか? とまず思った。

 

 年齢はあくまで推測なのだが10代なのは瞭然で、何より目を惹いたのは肩口で切り揃えてウェーブがかかった金色の髪。

 

 その眩い髪を赤いヘアバンドで飾り、そして端正な顔立ちを更に美しく醸す青い瞳。

 

 水色を基調とした服を着、首と腰にはピンクのリボンを巻き、白いケープのような肩掛けと同色の、白い半袖から伸びるのは白磁のように白過ぎる腕。

 

 白い袖を除いて水色の、服と一体の長いスカートが覆う足が履くのは判別するからにして茶色のブーツ。

 

 スカートとヘアバンド、そして首と腰に巻かれたリボンにはフリルが付いていたことから、最初は着飾ってるのだろうかとも思ったが、彼女の目を見てそれは違うことがわかった。

 

 彼女の目はどうも面倒臭いという倦怠的な感情が読み取れ、彼女の身体全体がその雰囲気を纏っているということ。

 

 どうやらそれが彼女のスタイルであり、ファッションなのだろう。

 

 そしてこれが自分という存在だという意思表明と自身の誇示表現。

 

 それでも彼女の美しさは、少女という部類の中で秀でている存在だということは確かだ。

 

 ……だがその容姿は秀でているが故に、華奢すぎて、壊れやすそうで、

 

 その瞳はガラスのようで、世事には無関心なほどに何も映してなさそうで、

 

 それらを踏まえ見てみると、彼女の存在はまるで……、まるで──

 

 

「ようやく起きたのね」

 

 

 思考がその言葉を紡ごうとしたところで、投げやりな口調で彼女が言葉を発す。

 

 

「あ? あ、あぁ……」

「そう……。なら説明は必要かしら」

 

 

 言い淀んで俺が返事をすると、女……少女は部屋の中に入ると、俺の寝ているベッド脇に立ち止まり、俺を見つめる。

 

 その瞳はやはり『空っぽ』みたいで、空虚が漂っていた。

 

 

「……状況が全くわからないからな。頼む」

 

 

 昨日の記憶がごっそり抜け落ちている俺としては、彼女の言葉が有難かった。

 

 しかし口調は鋭く、どうやら俺は歓迎されてはいないようだ。

 

 

「まず簡単な状況説明ね。アナタは昨日の夜、私が家の前にくると茂みの中で横たわっていたのを見つけたの。

 死んでたら放置しようかなって思ってたけど、呼吸もしてたし、生きてたから家の中に運び込んでベッドに寝かせたのよ」

 

 

 淡々とした口調で彼女は俺がどのような状況下で、今こうなっているのかという経緯を簡単に説明をしてくれた。

 

 倦怠的な表情からしてみても、どうやら彼女は事実を述べているようだ。

 

 その瞳を見て、それがウソをだと告げている様子もない。

 

 しかし死んでたら放置っていうのはいささかひどい様な……。せめて供養するなりしてくれてもいいじゃないかという気もしたが、それよりも今の話を聞いて気になったのが……、

 

 

「茂み、だと?」

「そうよ」

 

「茂みということは、俺は森で倒れてたのか?」

「正確に言うならば森の中よ。そして今私達がいるのも森の中」

 

 

 茂みと聞いて街路なんかの端や道の真ん中で生えているあそこで寝てたのか……と思ったのだが、いくらなんでも馬鹿馬鹿すぎるのでそれ以外に茂みが溢れている場所といえば森林地帯だろう、という推測をして口にしててみたが、どうやら勘が当たったようだ。

 

 だが彼女は『森の中』と言った。そして今俺が寝ていて、また今彼女がいるの『森の中』だとも。

 

 

「ということは、ここは森の中の、君の家ということか」

「そういうこと。それで、もう名前を訊ねてもいいかしら?」

 

 

 肯定した途端、彼女は俺に質問してきた。俺が肯定の意味を含めた頷きをすると、

 

 

「私はアリス、アリス・マーガトロイド。マーガロイドじゃなくてマーガトロイドよ」

 

 

 ──と、己が名前を俺に告げた。

 

 

「……」

 

 

アリス・マーガトロイド……、か。聞く限りでは「アリス」が名前で、「マーガトロイド」が名字ということか。

 

 そして何故「マーガロイドじゃなくてマーガトロイド」なんて、改めて名字を強調したのだろうかと考えてみたが、恐らく周囲の人達によく間違われているからに違いない……という結論を心中で下す。

 

 

「それで、アナタの名前はなんていうの?」

 

 

 俺が無言で頭を垂らして目の前の少女──アリス──の名前に思考を巡らせていると、彼女が俺に名前を苛ただしげに訊ねてきた。

 

 顔を上げて、アリスの目を見つめると、「私が名乗ったんだから、早くお前も名乗れ」という意思がくっきりと汲み取れた。

 

 ……ふむ、ならばこちらも礼儀に則って名前を言わないといけないな。

 

 

「俺は怜治。荻成怜治……、気兼ねなくレイとでも呼んでくれ」

 

 

 久々に自分に名前を発すると、俺は介抱してくれてた彼女にまだ感謝の言葉を一つも言ってないことに気付いた。

 

 

「そうだ、それとミス・マーガトロイド──」

 

 

 ありがとう……と、言おうとしたところで、

 

 

「待った」

 

 

 彼女が俺の言葉を封じた。

 

 

 何だ? とふと思ったが、その理由はすぐに明らかにされた。

 

 

「私にミスをつけないで単にアリスって呼んで。それと普段の調子で喋っても充分よ。それでいいのなら、私もアナタのことをレイと呼ぶわ」

 

 

 どうやらミスはお気に召されなかったから待ったをかけたみたいだ。そもそも俺は礼儀的な会話をする、相手を気遣っての丁寧な言葉で喋るのは正直苦手だったので、彼女の提案は有難かった。

 

 自己主張が強い彼女だが、案外いい人かもしれん。しかしながら初対面の男に対して名前で呼ぶのを許すのもマーガトロイドならぬ、アリスもなんだか気さくな性格と言うべきか。

 

 

 「……そうか。なら俺も以後君のことをアリスと呼ぶ」

 

 

 今度はミスをつけずに、ただアリスと呼んで今一度感謝の言葉を述べようとしたところで、彼女が、

 

 

「あともう動けるのよね」

 

 

 俺よりも早く言い放ち、先ほどの面倒臭そうだが親密な態度を一転させ、冷たい目で俺を睨みつける。

 

 

「!? ま…………、まあ……な」

 

 

 なんかゴミを見るかのような目線で見つめられてるんだが……一体どういうことなんだ? と思ったところで、

 

 

 

 

「なら今すぐにお風呂に入ってきてくれないかしら? そしてその匂いを消しなさい。心身注いで絶対に消しなさい? 残ってたらやり直させるわよ」

 

 

 

 

 ……と、有無を言わせない強い口調で言われた。

 

 それに何やら背後からドス黒いオーラのようなモノが溢れてきているような……。

 

 久々に見たなぁ、見える殺気って。

 

 ……因みに、何故アリスがこのような事を言ったのかは、俺が纏っているアルコール臭が原因だと思う。

 

 それと4日間お風呂に入ってないから、むさ苦しい汗の匂いと、その匂いとアルコール臭を吸った、これまた4日間同じ服の匂いがそれに拍車をかけたかと。

 

 アリスの疑問と命令口調の理由にひとまず納得した俺は、本来ならば億劫だったのでこのまま横たわって寝ていたかったのだが、ここは初対面他所様アリスの家、そこの寝床を占領している俺がその家主の言葉に拒否なんて出来る筈もないんで、仕方なく、

 

 

「…………わかった。じゃあ風呂に案内してくれるか」

 

 

 久々に身体の洗濯をすることにしたのだった。

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