■-04/心的外傷光景
世界が赤い。
何もかもが赤かった。
真っ赤な世界はぐるぐると回転し、俺の視界を真っ直ぐ定めさせようとしない。
閉じ込められている鉄の箱の中は凄まじい遠心力が働き、視線の先には振り解かれまいとしがみついている数人の男と、煙で見え隠れする広大で鬱蒼とした森の景色が見えた。
まるで、洗濯機の中に閉じ込められているような気分。回っているので気分も酔いが回り悪くなってくる。吐かないだけまだマシだ。
「く……ぅっ!」
俺は身体を支え、その森の中に投げ飛ばされまいと座席に必死にしがみつく。しがみついていないと眼下の森に投げ落とされ、運が良くて骨折や内臓損傷といった重度の負傷、運が悪ければ斜めに切れた太い枝に串刺しになって即死するのは必須。
だから耐えるしかない。耐えて無事に降り立てるのを祈るしか、俺には出来ない。
「…………! ……!! …………、……っ! ……──……!」
黒煙が舞い、ビービー! とけたたましい音が鳴り響く中、どこからかそんな叫びのような声が聞こえてきた。赤に染まった視界を動かしてみると、座席の少し離れた場所に、1人の男が機械に向かって何やら叫んでいた。
「──……──、……──……──……! ……──! ──……──!!」
その傍らで似たような格好をした男が、目の前の何が何なのかさっぱりわからない計器を見ながら悲鳴を上げていた。
そして鉄の箱は更にぐるぐると回り、徐々に高度を失い、段々と森へと向かって落ちていく。
「…………っ!? ──っ!!」
鉄の箱が大きく揺れて斜めに傾いたその時、俺の横を大きな何かが通った。それを追って視線を這わせると、人が斜めに滑りながら森に今にも落ちようとしていた。
「ち……ッ」
咄嗟に手を差し伸べ、すんでの所でその人……オリーブ色のジャングルハットを被った男の手を掴み、自分の元に引き寄せるようにして持ち上げてやる。
「大丈夫か……?」
「──っ!」
座席に手が伸びる所まで持ち上げてやると、俺は無事か否かを問う。男はそれに答えて感謝の言葉を述べたのと同時に、
爆発が起き、鉄の箱を揺さぶった。
「──っ!?」
不意打ち同然の爆発に俺は驚きを隠せず、身体を竦めた。だがその反応が悪かったのだろう、座席にかけていた指先の力が爆発の衝撃で緩んでしまい、
「っ!? しま……っ!」
鉄の箱の中を滑るようにして落ち、
鉄の箱の外へと投げ出されるようにして、俺は森の中に落ちていった。
なすすべも無く、
抗うことも無く、
ただ朝日が見え隠れし、
その地平線から太陽が顔を覗かせ始めた空の中、俺は導かれるようにして落ちていった。
「っ……」
そして慣性の勢いで横に投げ出される形で森へ落下していく中、俺は自分が乗っていた鉄の箱がぐるぐると回りながら、燃えている様を見つめながら、
「ぐ……あ………………っ!」
足に小気味よい音と、背中に強い衝撃を受けると同時に、そのまま意識を手放した────。