表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/32

02-07/幻想郷の賢者 Pt. 2

「それで、どんな関係なんだ?」

 

 

 あれから少し時間を置いて皆が落ち着くまで待つ事しばし、耳の痛みが和らいだ魔理沙が先刻と同様の質問を投げる。

 

 

「ああ、俺の知っている人にこの人が傍にいたんだ」

 

 

 それに俺は要約した言葉を呟く。

 

 あれは4年前位だったか、たまには茶でも飲まないかと師父から連絡を受けた。その提案に俺は快く承知して待ち合わせ場所の馴染みある喫茶店に向かうと、そこには1人の赤い服を着た男……師父と、今俺の前にいる女性が1つの席に腰掛けていた。女性は格好は違えど、顔は全く一緒だったので同一人物であることは確かだ。

 

 会話は交わさなかった。何故なら女性は俺が来ると同時にすぐに別の離れた席に移ってしまったのだ。理由は恐らく俺と師父との会話に干渉するつもりが無いからか、或いは気を利かせてくれただけか……。しかし印象的な風貌、そのすれ違いざまに見た横顔は今でも斬新に脳裏に焼き付いている。

 

 だがその雰囲気には胡散臭いという感じはしなかった。そんな臭いを漂わせずに彼女は穏やかに笑っていたのだ。

 

 店の外で師父の腕に、自分の腕を嬉しそうに絡めて──。

 

 

「へぇ~……」

 

 

 俺の一言に何かを汲み取ったのか、魔理沙は女性の顔を横目に見ながらニヤついている。

 

 

「師父ってことは、男よね?」

「勿論」

 

 

 博麗の言葉に頷き返す。その表情は魔理沙と同じくニヤニヤしている。

 

 

「………………なんでそんな事憶えてるのよ?」

 

 

 そんな視線を浴び続け、居心地悪げに半目で俺を睨んでくる女性。ちょっと頬がうっすらと朱に染まっているのは気のせいか?

 

 それと、あの目だらけの世界はいつの間にか消えていた。

 

 

「師父に女性がいるという話が聞いた事も、見た事もなかったんで」

 

 

 事実、師父にはそういった異性の噂が全然皆目。その時気になって思わず「誰ですか?」と訊いてはみたが、師父は「ちょっとした知り合い」と淡白とした口調でしか答えてくれず、その話題はそれっきりで有耶無耶のまま。

 

 だが……

 

 

「……何故ここにいる?」

 

 

 外にいた者が何故ここにいるのだ? 幻想郷は確か人が簡単に出入りすることは出来ないと聞いているが……。

 

 

「何故? それはここは私が住んでいる場所だからよ。そして外に行ったり来たり出来るのは、私自身の能力のお陰」

 

 

 俺の疑問に答える女性。ということは彼女は幻想郷の住人だということか? しかし能力とは、もしかしてあの目に関連しているのか?

 

 

「ああそうそう、私の名前は知らないでしょ? 私は八雲紫。呼び捨てで構わないわ」

「そうか。俺の名前は…………知っているか」

 

「ええ、そりゃもう」

 

 

 くすり、と微笑む女性こと八雲紫。その表情はやはり胡散臭い。尚且つ見透かしているかのようなその目も、どこか好きにはなれない。

 

 

「で、自己紹介はもういいわよね?」

 

 

 俺達のやり取りに博麗が割りに入る。それに俺は首肯し、八雲……紫も「ええ」と小さく頷き同意。

 

 

「じゃあ紫、単刀直入に訊くわ。アナタが彼を幻想郷に連れて来たの?」

「……ええ」

 

「な……!?」

 

 

 博麗の本当に単刀直入すぎる問い。それに紫は鷹揚と頷き、俺は唖然とした。

 

 連れて来た…………? 一体どうやって……?

 

 

「唐突に?」

「ええ」

 

「いつもの様に?」

「ええ」

 

「意思もなく?」

「ええ」

 

 

 俺の疑問を余所に、淡々とした口調での短くて明快な質疑が続く。だがそれも直ぐに終わり、博麗は大きく肩を竦め、紫を見据えると、

 

 

「今すぐ元の世界に帰しなさい」

 

 

 と怒りを混ぜて言った。

 

 そしてこれこそが……本題。

 

 

「……」

 

 

 成り行きを見守る。果たして俺は帰れるのだろうか?

 

 しかし沈黙も束の間、

 

 

「…………」

 

 

 紫は目を細めて、

 

 

 

 

「無理よ」

 

 

 

 

 流暢にたった一言。それだけを告げた。

 

 躊躇う事無く、願望を彼女は切り捨てた。

 

 躊躇う事無く、希望を彼女は切り捨てたのだった。

 

 

「……」

 

 

 声が出ない。……何故? と問おうとしても口が動かないのだ。一瞬にして潤っていた口腔が乾いた様な気がした。

 

 夢でもないし狂言でもないし嘘でもないし揶揄でもない。ただ紫は告げたのだ。

 

 帰らせることは出来ない……、と。

 

 

「無理よ……て、何でよ?」

 

「ちょっと……ね」

「ちょっとってどういう意味よ?」

 

 

 茶を濁すように言って博麗の追及から逃れると紫は、俺の方へ向き直る。

 

 

「ねぇ怜治?」

「……何だ」

 

「最近モグラが一杯いるのよ? それを探してくれないかしら?」

 

 

 何気なく紫は一言そう告げた。

 

 

「…………どういうつもりだ」

 

 

 それに俺は自分の内で微かに憤りが湧き上がるのを覚えた。人を勝手に連れてきて帰らせず、あまつさえ要求するなんていう紫の仰々しい態度に怒りも覚えた。

 

 

「どうもこうもモグラを探して欲しいのよ。ここの所、幻想郷で沢山見かけてるからちょっと困ってるのよねぇ……」

 

 

 だけど1人じゃ手が回らないからアナタを連れてきた。それだけよ? ──と、紫は呟く。

 

 

「意思もなく拉致か」

「それについては謝るわ。だけどね、これは私とある人のお願いなのよ」

 

「ある人? それは誰だ?」

 

 

 悪びれも無く言葉を返す紫に俺の憤りは募るばかりで、感情を隠さず問い詰める。

 

 もしかしてお願いをしたという輩は師父だろうか? しかし目の前の紫という得体の知れぬモノは、師父の願いをそうやすやすと聞き入れるような女ではない筈だ。その証拠に先程見せられた目だらけの世界がそれを物語っており、更にその雰囲気は信用に値していいのか判断を混乱させる。

 

 

「……」

 

 

 食卓の下の左手を握り、開き、握る。一指一指の関節を小指から人差し指までの順番にゆっくりほぐす。その動作を素早く4、5回繰り返してある程度ほぐすと、紫に悟られない様カバンに手を這わせ、中に左手を滑り込ませる。

 

 返答次第では実力行使をしてでも帰らせてもらおう。だが相手はあの目だらけの不気味な世界から現れた存在であり実力もわからない手前、勝てる見込みは無いかもしれん。それに隙がどこにも見当たらない。紫はのほほんとしているが、その一挙一動には全く無駄が無い。

 

 まるで、「来てみろ? 殺すぞ?」という空気を放ちつつ、区別がつかない殺意を放ち、わざと誘っているかのような気配。

 

 しかし紫は俺の胸中とは裏腹に目を細め、意識を貫くような鋭利な視線を送ると────

 

 

 

 

「“最後の魔女”」

 

 

 

 

 たったそれだけ。

 

 たったそれだけを俺に告げたのだった。

 

 

「…………な」

 

 

 思いもよらぬ存在。それが紫の口から出た途端、俺は絶句し、身体を震わせ慄然とし……恐怖した。

 

 

「な……? な──」

 

 

 何故? ……何故、あの人がここで出てくる……? そんな俺の言いたい事を察したのか、紫は見透かしたかのように言う。

 

 

「たまたま外に出かけた時に私がモグラの件を持ち掛けたら、“最後の魔女”がアナタを連れて行けばいい、と提案したのよ」

 

 

 ただそれだけ、それだけよ……と紫は茶を飲み終える。

 

 

「だからアナタを連れて来たのは私の意思でもあり“最後の魔女”の意思でもある。アナタはそれに逆らえるかしら?」

 

 

 愉快そうに微笑む。しかしその瞳にはうっすらと哀れみが垣間見えた。その目を見て、俺はやはり紫も……、と思った。

 

 

「……」

「……ま、時が来たら知らせるから、今はゆっくりしてなさい」

 

 

 てなわけで私寝直すわ、と紫は立ち上がる。そして何の動作も無くあの目だらけの世界を開くと、

 

 

「じゃあねっ♪」

 

 

 俺に向かって胡散臭げな笑顔を浮かべてウインクし、世界を閉ざして姿を消した。

 

 

「…………」

 

 

 残ったのは静謐に包まれた座敷、そしてその中に居る俺と博麗と魔理沙、上海。

 

 

「……えーと、だ。つまりレージはどうなるんだ?」

 

 

 そんな気まずく重い雰囲気の中、今まで静観していた魔理沙がゆっくりと口を開く。

 

 

「……残る羽目になった」

「そういうことね」

 

 

 苦々しく結論を述べると、博麗が同意するかのように頷く。

 

 

「にしてもモグラ探しって、霊夢は何か聞いてないか?」

「農作物の被害に見かねた人間達の駆除かしら? それだけだったら彼の手は必要ないわよね」

 

「だな。相変わらず紫の言う事はさっぱりだぜ」

 

 

 はあ、と肩を竦めると魔理沙は立ち上がる。

 

 

「帰るのか?」

 

 

 廊下に出ようとする魔理沙の背中に疑問を投げかける。それに魔理沙は振り返って「ああ」と頷く。

 

 

「目的はもう果たしたんだ。私はもうお役目御免だ。家に帰って研究でもしてるさ」

「そうか。なら……」

 

 

 と俺は頭上の上海の襟首を掴む。

 

 

「? ……ッ! ~ッ!!」

 

 

 目の前まで運ぶと突如、上海が暴れだす。手足を振って抵抗しているが、如何せん俺の手を振り払うには至極力不足。

 

 

「上海をアリスの家に送ってってくれないか?」

「いいぜ。けどレージはどうするんだ?」

 

「俺か? 俺は……」

 

 

 上海を魔理沙に渡し、今後の行動について考える。が、魔理沙と一緒に魔法の森に戻るとなると、またしても空を飛ぶ事になるので凄く避けたい。決意したばかりだし。それに片道だけでこの有様では道中、本当に落ちそうな気がしてならない。

 

 もし仮に何の問題もなく魔法の森に戻ったとしても、今度は泊まる場所が無いという問題が起きるのは必定。最悪魔法の森で野宿をすればいいのだが、いかんせん居心地が悪いあんな所で眠りたくは無い。となると、アリスの家にまた泊まらせて貰えばいいのだろうが、今朝のやり取りもあるので正直行き辛いのが本音だ。

 

 では魔理沙の家と森近の店は? ……いや無理か。場所は魔法の森だ。結局魔理沙に運ばれつつ空を飛ばざるを得ない。

 

 

「──神社に泊めてあげてもいいわよ?」

 

 

 そんな風に俺が宿泊先に悩んでいると、博麗がそんな言葉を投げてきた。俺は若干驚きながら訊ねる。

 

 

「……いいのか?」

「構わないわよ。部屋の1つや2つ位」

 

 

 それにお賽銭してくれたからその恩も兼ねてね、と博麗は湯飲みと急須をお盆の上に置く。どうやら片付けるつもりだ。

 

 ……それはあれか、『賽銭する人は神様』だからか? 俺が賽銭をしたから神様扱いするからか? なんという現金主義者だ博麗霊夢。

 

 

 だが願ったり叶ったりとは正にこのこと。ならば博麗の提案に甘えさせて貰うとしよう……。

 

 

「ならお願いする」

 

 

 膝に手を着いて博麗に頭を下げる。そんな俺の所作に何がおかしかったのか、博麗は「ええ」と微笑を浮かべ、今夜は博麗神社に世話になることにした。

 

 

 

 

       ◆

 

 

 

 

 魔理沙と上海が魔法の森に帰り、その後適当に呆然として博麗が用意してくれた夕食を食べ、現在夜に至る──。

 

 疲労も激しく、眠気も凄まじいのだが、紫に告げられた言葉の所為で目が完全に冴えてしまっている。

 

 

 

 

 帰れない……帰させない。

 

 モグラ探し……。

 

 そして“最後の魔女”。

 

 

 

 

「ふむ……」

 

 

 考えることが山積みである。そんな思うことが多いので寝ようにも眠れず、縁側に腰掛け夜空を見つめて眠気が訪れるのを待っていた。

 

 

「……」

 

 

 それにしても昼間と同じく物静かである。博麗はどうやら就寝してしまったようで、起きているのは俺1人だけ。

 

 空を見上げると月と夜空が随分と綺麗なものだ。こういう夜には酒を飲むのがいいのだが、生憎と手元にはアルコールの類は無い。かといって酒を探しに家屋を漁るのも恩を仇で返すも同然であり、至極無礼過ぎる。

 

 こうなると最初から博麗に酒でも頼んでおけばよかったかもな、と思っていると──、

 

 

「──飲む?」

 

 

 横から声を掛けられた。

 

 

「は? ……て、紫?」

 

 

 振り向いてみるとそこには俺の横に腰掛け、猪口と徳利を持った紫の姿。よりにもよって今現在あまり見たくない顔だ。

 

 

「月夜に美人と一緒にお酒を嗜むのは中々乙よ。そんな訳で参上したけどいかが?」

「……自分で美人という女性は自惚れ屋。或いは詐欺師だ」

 

「酷いわねぇ。そんな謂れは無いのに」

 

 

 俺の皮肉に美眉を顰めて嘆息すると、紫は俺に猪口を差し伸べる。渋々猪口を受け取ると紫は徳利の中身を、俺の猪口に酌をする。

 

 

「幻想郷のお米で作った純米酒よ。お試しあれ」

 

 

 自分の猪口にも酒を注ぐと紫は一気に中身を煽る。そして「うん美味いわ」と感嘆の声を漏らす。

 

 俺もその絵になる動作を見届けた後、猪口の酒をゆっくりと煽り、嚥下する。

 

 

「お味は?」

「……悪くない」

 

 

 香りが清々しくて、飲み心地が良い。更に口の中で豊饒な味が広がるもんだから、俺にはちょっとばかし贅沢過ぎる酒かもしれん。

 

 しかし解せないのが隣に腰掛けた紫の不可解な行動。気が変わって帰らせてくれる為に再来したのなら、俺としては本意。しかしあの時の態度と口調からして考察するにそれは有り得ない様子だったので、望みは希薄。

 

 とは言え、わざわざ丁寧に酒を持参してまで俺の前に現れたのだから、何かしら理由があると読んで静かに問い掛ける。

 

 

「……何故?」

「何故……って?」

 

「何故俺の所に来た? 見たところ酒飲みをしに来ただけではなさそうだが……」

 

 

 空になった猪口を片手で弄びながら紫の横顔を見つめる。答えは……敢えて期待しない方がいいだろう。

 

 だが紫は俺の考えとは裏腹に、猪口に酒を注げながら真摯に答えてくれた。

 

 

「……お酒を止められなくなったって聞いてね」

「……そうか」

 

 

 本当に俺の大まかな事情は知っているような素振り。誰かはわからないが師父ではなく、恐らくあの人が教えたのだろう。

 

 

「…………」

 

 

 全く……余計な事を……。

 

 

「アナタがそうなった理由もわかるわ」

「…………」

 

 

 ──微かに、手にする猪口が震えたような気がした。

 

 

「ほんと世の中、何が起こるかわからないから怖いわよね」

「…………だな」

 

 

 冷たく、憐憫の感情を籠めて言葉を続ける彼女の言葉を聞いた途端、暗澹とした気分になってきた。

 

 そもそも俺の口数はそんなに多くない。それでも自論はある程度唱えられるし思想家の妄言や馬鹿げた戯言じみた思索も口に出来る方だが、紫の台詞に対して精々返せたのがその短い返事だけだった。

 

 辛辣悪辣苛辣では無い筈なのに……ただ苦しかった。

 

 言葉の1つ1つが事実過ぎて、真意過ぎて、世の摂理過ぎて、俺には痛ましくて────辛かった。

 

 

「とっ……ところで、あの人は元気?」

 

 

 俺の様子を察してか、話題を変える紫。その頬はほんのり上気しているような……してないような。視界が少しぼやけているのでよくわからない。酒が回っているのか? まだ1口しか飲んでないのに、もう俺は酔ったのか?

 

 

「多分。会ってないのか」

「ええ。4年前を最後に……ね。アナタは?」

 

 

 呂律が回らない口で予想を呟き、首を横に振る。それに紫は「そう」と残念そうに呟き、顔を俯かせる。

 

 

「探しても滅多に会えないのは、女としてショックね」

 

 

 はあ、と重々しく嘆息。

 

 

「……惚れてるのか?」

 

 

 そんな彼女の態度に俺は気になっていた事を多少躊躇いながらも結局、単刀直入に訊ねてみた。すると紫は淀みなく、「ええ…………多分」と曖昧ながらも答えてくれた。

 

 

「……そうか」

 

 

 その曖昧な答えに俺はただ一言、それだけを言った。それ以上は俺が干渉してはいけない。これは本人達の問題。その人の恋路を邪魔する立場も権利も理由も俺には存在しない。ただ傍観して結末を見届けるだけ。

 

 だがわからないのが師父と紫の関係。紫は少なからず淡い感情を抱いているようだが、師父が紫に対してどう思っているのかが俺にはわからない。

 

 師父の心中では、紫はどんな存在なのだろうか? 仮にこの場にいて訊けたとしても、またあの時みたいにあやふやにしか答えてくれないだろう。

 

 だが俺は傍観者。

 

 歯牙を欠いた傍観者。

 

 そんな俺にはもう、訊く気力なんていう意思は存在しないのだ──。

 

 

 

 

       ◆

 

 

 

 

 それきり会話は打ち止められ、徳利の中身が空になると紫はいつの間にか姿を消していた。消えた方法は恐らく昼間の時と同様の手段だろう。

 

 

「……寝るか」

 

 

 1人縁側に残され、酒で身体を火照らせた俺はここにいても仕方ないので、博麗が用意してくれた部屋に覚束ない足取りで向かう。酔っているみたいだが、平衡感覚は問題無い。

 

 博麗に用意された部屋の前まで到着すると障子を開けて中に入り、中央に敷かれてあった布団の中にすかさず潜り込む。

 

 

「……」

 

 

 同時に眠気が押し寄せ、そのままされるがままに意識を暗澹とした闇の世界の中に沈ませつつ、

 

 

「…………アンタは俺に何をさせたいんだ」

 

 

 誰とも示さず、帰れない悲しみと憤りを籠めた悪態を虚空に吐いて、今日に別れを告げた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ