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短編詰め合わせ

ノイズ

作者: 長滝凌埜

 この世界は実にノイジーだ。

 町を歩けば忙しく働く、蟻のような奴らが携帯電話を片手に大きく足音をたてている。更には、若者達が我が物顔で大声で喚きながら、そこら中を闊歩する。

 家の中に居たら家の中に居たで、絶え間なく動き続ける時計の秒針の音や、自分の主張を押し付けがましく聞かしてくる電化製品なんかが、五月蝿くて仕方が無い。

 僕は一番騒がしかった真っ暗な画面を映し出すテレビのコンセントを抜いた。少しは静かになるかと思ったが、どうやら逆効果だったみたいだ。今まで静かだった電球までもが不満を露わにして、小言を連ね始めた。僕は両耳を塞ぎ、頭を抱えた。

 こんなの一体どうしたらいいんだ? まったく誰が望んで、他人の声が聞きたいと思う。ましてや、物の声なんて聞こえたって何もいいことなんて有りやしない。

 僕は仕方無くテレビに電気を供給してやる事にした。にも関わらずに、だ。こいつらは感謝の言葉の一つも言いやしない。しかも、さっきにも増してレコーダーとの間で僕に対する不満について花を咲かせている。

 これだから嫌なんだ。僕には一切の非がないというのに、垂れ流しにされる不満を、意識のある内は聞き続けなければならない。

 父方の叔父は僕と同じように物の声を聴くことが出来るらしい。けど、その声は僕の聞くものとはまったく違う。きっととても都合のいい耳をしているのだ。叔父は奴らが賛辞や仲睦まじい世間話をするという。僕には罵詈雑言と、仲睦まじく僕を批判する話しか聞いたことがない。叔父はそれを被害妄想だと言う。

 話は変わるが、僕はこの季節が一番嫌いだ。寒いし、年末だからとみんな忙しくなり、少しよそよそしくなるし、雪は僕の好きな靴を土と共謀して汚してくる。炬燵に入りながらミカンを食べるのは好きだし、冷え切った体を熱いお風呂に入って暖めるのも大好きだ。

 だけど、やっぱりこの季節は嫌いだ。何てったって、僕の誕生日がある。十二月二十三日だ。僕の家系はとにかく人数が多い。その中で若いのが僕しかいないからかどうかは知らないが、誕生日プレゼントがとにかく多い。それこそ文字通り山のように。いや、山じゃ物足りないくらいだ。とにかくたくさん贈られてくる。羨ましいと思う奴もいるだろう。だけど考えてみてほしい。その山となるくらい大量の物が開けてもいないのに、不満を口にし始めるのだ。誰が開けるか、まるで最初から分かっているように、僕に声を掛けてくる。うるさくって仕方がない。

 声から逃げ出そうと外に出れば、年末だからとの理由で無駄に人が多い。家族連れは特にうるさくてかなわない。子供はクリスマスに欲しい物を次々と羅列していくし、両親はお金の心配しかしていない。かたや愛人にあげる物の勘定、かたや年を越した後に控える出費に頭を抱えている。

 これだから僕はこの季節が大嫌いだ。そして今日が嫌いだ。

 僕の部屋に叔父が親戚から集まってきたプレゼントを持ってやってきた。僕の事を知っているくせに持ってくる、嫌がらせが好きなんだ。これから二十四時間僕の身体的自由は、誕生日パーティー兼忘年会という名の下に拘束される。僕の頭に赤いパーティー用の帽子が乗せられた。




   ¢




 現在十二月二十四日、夜九時。

 これから僕は精神的苦痛から解放されるために、プレゼント廃棄作戦(毎年恒例)を開始する。とりあえず、街中で聞いた欲しい物がプレゼントの山の中にある子供の所へと行く。プレゼントだって欲しい子供のところにいった方が良いはずだ。と言う建前で不満を連ねる奴らを一掃する。

 まず一人目。こぢんまりとした佇まいの家だ。窓に語り掛け、開くように命令する。この命令のせいでまた不満を漏らす奴が増えたが、僕はそんなことを気にしてる余裕はない。さっきからうるさいそりの上の荷物をさっさと処分しなければ身が持たない。ぐっすりと眠る子供の枕元に箱を置いて、さっさとおさらばする。まだまだたくさんあるのだ。僕はそりを引いて走り出した。




   ¢




 翌日、昼過ぎ。昨夜の蛮行のせいで起きる時間が遅くなった。共働きの両親は既に出社したために、朝ご飯を食べに外へと出る。

 途中、何組かの家族連れとすれ違ったが、その子供たち全員に言いたいことがある。

 僕の名前を知っている事は、まぁこんな時代だしインターネットやらで知ることが出来るだろうからまぁいい。そんなことより、僕はおじいさんなんて呼ばれる年齢ではない。だからお兄さんと呼びなさい。解ったら、ウィキペディアとかでサンタクロースをお兄さんにしなさい。


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