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物書の短編シリーズ

月の女神と癒やしの吸血鬼

作者: 物書 翠
掲載日:2026/09/02

     一


 ある夜のことでございます。月の女神ルナーナ様は地上に降り立ち、独りふらふらと彷徨っていらっしゃいました。その頃の天界では多くの神々が自らの力を誇示する為に酷く争って居りますから、嫌気がさしたルナーナ様は少しでも身体を休めようと天界をお離れになりました。

 ちょうど降り立った場所はそれこそ月の表面のように広がった荒野で、そこには人の頭程の生き物が幾つか居りました。その生き物は動物の生き血を吸い、白銀の絹のような髪がよく似合う愛くるしい夜の眷属、吸血鬼でありました。

 その生き様をお知りになっているルナーナ様は御目を止めると、その小さな生き物に近づいて御手をお出しになりました。しかし吸血鬼はその御手を噛もうとは致しません。ルナーナ様の神聖なる気配に怖気付いたのでありましょう。するとルナーナ様は取り出した懐刀で、指の先を少し切り血を滲ませました。その様子を見た吸血鬼は恐る恐るではありますが、その血を舐め取りました。

 神々というのはこの世で最も崇高なもので、その生き血というのはそれはもう大変な御馳走でありました。その魅力に気付いた吸血鬼は口を綻ばせ、その様子にルナーナ様は大層お気に召しました。そしてこの吸血鬼により、堰を切ったように多くの吸血鬼が押し寄せ三日三晩ルナーナ様は立て続けに血を吸われ続けました。荒野にいる吸血鬼の吸血欲を満たした所で、ルナーナ様はこの荒野に身を置こうとお考えになりました。


     二


 まずルナーナ様は幾らでも血を吸われても良いように、魔力を血に変える魔法を御作りになられました。神なんていうものは無限の魔力の塊のような存在でありますから、幾ら効率が悪かろうともルナーナ様はあまり悲観なさりませんでした。自らの力が削がれるよりも、この愛くるしい眷属たちの顔を曇らせてしまうことのほうが大変心を痛めてしまうからでありましょう。

 次にルナーナ様はこの月の表面のような荒野をどうにかしようと、昔から交流のあった実りの神ナトゥロに協力をお求めになりました。ナトゥロなら過去、神々の間で禁止されていた植物の栽培をしていた誤ちを悔い、協力してくれるとお考えになったからです。実際に実りの神ナトゥロはこの高原を豊かな高原に変えました。やはりどんな神というものでも悔改めるのでしょう。


     三


 それからというもの、吸血鬼はその豊かな高原に固有種としての生存権を獲得し、月の女神ルナーナ様は神殿を構え長らくの間お休みになられました。ルナーナ様が地上に降り立ったことを知った神々は、自らで行っている争いが馬鹿馬鹿しくなり、其々地上に自らの神殿を構え地上を見守ることに致しました。

 それは丁度暗く満月の日でありました。

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