これはよくある異世界転生か!ってなるわけねぇだろ!
「異世界に転生して、目が覚めてすぐに「これはよくある異世界転生か!」ってならなくね?」
「ソイツ絶対人生2回目だな」
そんなくだらない会話をしてるのは、俺『山田』と、幼馴染の『美琴』だ。
「いや待て、山田よ。異世界転生の漫画から小説を集めているお前ならばすぐに受け入れるかもしれないぞ?」
幼馴染の美琴は見た目は美人で、あとは残念な女だ。こうやってセリフを聞いてるだけだと男にしか思えない。
それが俺の幼馴染だ。
俺たちは今、ベッドの上に寝転がりながら異世界転生の漫画を読んでいる。恋愛感情などない、ドキドキもしない。俺はコイツを女だと思っていないからだ。
「え~、そうかなぁ」
異世界転生先はほとんどファンタジーの世界やゲーム、小説内といった場所が多く、ほとんどが髪の色がカラフルだ。
「俺、自宅に知らないおっさん来るだけでも、ビビるんだけど」
「まず、どういう状況だよ、ソレ」
「あ、水道の点検。母さんなにも話してくれなくてさ「ただいま~」って帰ってきたら、キッチンにガタイのいいおじさんいて、ちょっとスマホに手をかけるとこだった」
「女子か!なんですぐに通報できるようにスマホ持ってんだよ」
「なにかあったら怖いだろ?」
「私なら腹に一発だな」
「お前が通報されるわ」
美琴は空手部主将である。
華奢な体型してるのに強いとか、バグ?お前のほうが異世界転生してきたってレベル。コイツは地球外生命体だと思う。
あと、コイツの一発はマジで痛い。骨が折れるかと思った。
「私は異世界転生よりも、少年漫画が好きだな~」
「とか言いながら、なんで毎日俺の漫画読みに来てんだよ」
コイツは根っからの少年漫画好きである。
美琴の自宅の本棚には俺TUEEE!もハーレムもいない。夢と汗と友情とロマンが詰まった漫画ばかりが並んでいる。
「最近の少年漫画はつまらん!もっと、こう全員海に出ればいい」
「それ、海賊王じゃん」
美琴が一番好きな漫画は『海賊王』だ。
「なぁ、山田よ。」
「ん~、なに?」
呼ばれて俺は目線だけを美琴に向ける。
「なぜ異世界転生して強い力を手に入れたのに主人公は女に囲われたがる?もし、私が同じように力を手に入れたら冒険に出るけどな!」
「それ仕事放棄してんじゃん。」
「転生は仕事なのか?」
「えっ、聖女とかそうなんじゃね?転生される理由って、あれだよ。きっと神様かなんかが「面白ことやって!」って神様の暇つぶしのゲームやってるようなもんだろ」
「え?異世界転生ってデスゲーム?」
「神様ゲームだよ」
「地獄のエンジェルゲーム?」
「地獄いらん」
「眠い」
「会話途中で切るのやめて」
とか言いつつ、俺も正直言って眠い。なんせ、俺たちはつい数時間前まで期末テストをやっていたからだ。
「眠い。私はBL読んだら寝るぞ」
「眠りよりBL優先すんなよ。あとBL本紙袋で持ってくんのやめて?おみやげだと思って紙袋見た母さん固まってたから」
「お母さんには世話になってるからな、おすすめのBL厳選して渡しておくわ」
「絶対やめろ。……ふわぁ、俺は眠いから寝るわ」
「この漫画に出てくる間男モブ、山田に見た目が似てる」
「寝る前にいらん情報だわ、ソレ」
おやすみ~そう言って俺は美琴の隣に寝転がった――。
◇◇◇
「……やった……!成功だ!!」
「神のご加護を…聖女様…!」
「この黒髪の者は?…もしや護衛か?」
――ん?なんだ?なんか騒がしいな。
「美琴?」
俺は周りの騒がしい音に目を覚ました。
「おぉ!お目覚めになりましたか!」
……は?
目の前にアニメや漫画で見るような金髪エルフ美女がいた。
「勇者様、聖女様の護衛の者が先にお目覚めになりましたよ」
「おぉ、それはよかった」
そして、続くように中世の騎士のような衣装を着た金髪イケメンが俺の顔を覗き込んでくる。
「聖女様の方は?」
「何度声をかけても目覚めません。深く眠っておられるようです」
「そうですか…」
金髪美人に金髪イケメン、そのイケメンの後ろに立つ体格のいい青髪もイケメンだ。
(イケメンばっかでゲシュタルト崩壊しそう)
「護衛の方ですよね?…私の言葉、わかりますか?」
再び金髪美女が俺の近くに膝をつき顔を覗き込んでくる。
そうか、これは……これが?たぶん異世界転生?ってやつなのか??
頭でわかっていても、俺は目に見える情報を処理できない。
「…ぁ」
「!みなさん静かに!!護衛の方がお話になります」
俺の声に反応して金髪美女が周りに声をかける。
(そうだ、これは異世界転生ってやつなんだ!)
『異世界に転生して、目が覚めてすぐに「これはよくある異世界転生か!」ってならなくね?』
『いや待て、山田よ。異世界転生の漫画から小説を集めているお前ならばすぐに受け入れるかもしれないぞ?』
俺の脳裏に、つい数分前にした幼馴染との会話が蘇る。
この世界が俺の100冊以上ある異世界転生漫画のどの世界なのかはわからない。だけど、転生される前に幼馴染とくだらない会話をしていたおかげで意外と冷静に、状況は理解できている。
あとは、異世界転生された主人公が良く言うテンプレの台詞を言えばいいだけだ…!
俺は、顔を上げて金髪美女に目線を向けてこう言ったー
「あっ…あ、えっと…あ、あ、ぁ」
異世界に転生して、目が覚めてすぐに「これはよくある異世界転生か!」って――
なるわけねぇだろうがっ!!!
某映画のカ〇ナシになったわ!当たり前だわ!俺人生一回目だもん!!ただの高校生だもん!!
知らない場所、知らない金髪イケメンに金髪美女!えっ、普通に怖いですけど?キッチンにいたおっさんと変わらねーよ!
後ろにはゲームでしか見たことないような小さい爺さん複数、え?なに白雪姫の小人たち?
あと周りの建物もなに??すごいピカピカして、目が痛い!!
目の前にいきなり、見たこともねぇ金髪美女と金髪イケメンがただのモブの俺を「護衛のかたですか?」って聞かれて「ここはどこですか?」って俺だって即答したかったよ!!
でも、英語の成績アヒルさんだもん!!
英語の成績『2』の男だぞ!?舐めるんじゃねぇぞ!?
目の前に自分の知り合いでもねぇ、味方かもわかんない外国人いたら、そりゃあ怖いでしょ!?警戒するでしょ!?
日本語だってしゃべれねぇわ!!
以上!心の声でした!!!
「あの、護衛の方は一体どうしたのでしょうか?」
「あちらの世界は文明が進んでいると言われいますからね、我々の古き言葉が伝わっていないのかもしれません」
(いや、ちゃんと伝わってます。綺麗な日本語ですね)
「聖女の方は…あ!聖女の方がお目覚めになられたようです!」
「!?」
おい待て。聖女ってもしかして、あの地球外生命体じゃないよな!?
金髪美女さん!金髪イケメンさん!!ソイツ聖女とは真逆の存在です!!
「ん…ここは?…山田?」
俺の隣で聖女とは程遠い、大の字で寝転がっていた幼馴染はむくっと体を起こすと目をこすり、すぐ近くにいた金髪イケメンの顔を凝視した。
「おぉ、噂に聞いていたが。なんと美しい聖女なのだろうか!」
「あん?」
(あん?やめろ、ヤンキーか)
「お前、なんか……
私が寝る前に読んでたBLに出てくる攻めキャラの執着系ドS絶〇イケメンの黒川君に似てんな」
「は?しゅう、いけめん、?ぜ…りん??は?」
(起きて早々にこいつは何言ってんだよ!!?イケメンがさっきの俺みたいに言葉を忘れている!!)
「あーでもごめん。私が好きな攻めは、執着系よりお世話系のワンコ攻めなんだわ。ほら、後ろにいる青髪みたいなやつ」
「は?お世話系ワンコ?お、おれのこと言ってんのか???」
「お前は転生先のイケメンをBLの攻めに当てはめてんじゃねぇよっ!!」
俺の悲しい叫びが建物に響き渡った。
「あ、護衛の方、喋れたんですね」
これから俺はどうなるのでしょうか?
◆◆◆
『聖女さま!異世界でラノベのタイトルを言うと詠唱に聞こえるみたいです‼︎ 』
◆◆◆
「いい大人が雁首揃えて、いたいけな普通の女の子に魔王を倒してくださいって本気で言ってんのか?恥を知れ!」
「いたいけな普通の女の子は異世界の住人集めて目の前で正座させねぇよ」
どうもこんにちは。最弱モブの山田です。ゴーレムの角にぶつかったら即死するタイプです。
目が覚めて早々に異世界の住人の目の前でBL話をぶっ込んで来た聖女さまこと俺の幼馴染の美琴は、住人から話を聞くなり村の人たちを集めて説教をしてます。
異世界の住人は見た目からして西洋人っぽいとは思っていたが、俺の予想は合っていたようで――
「うぅ……足がっ、聖女さまっ。何か、お気に触るようなことを言ってしまったなら謝りますっ…」
金髪エルフが涙目で正座した状態のまま悲痛な声をあげる。
……いや、正座してるだけなんだよ。
「なんて、酷い魔法なんだ…っ!」
正座のせいです。
「おかぁさん!足、痛いよぉ」
「我慢しなさい。きっと気づかない間に聖女さまに粗相をしてしまったんだわ……でなければ、こんな拷問…うぅ、痛い」
いや、正座です。拷問じゃない。痺れてるだけ。
「聖女さまのおっしゃる通りです……っしかし、我々にはもう聖女さまのお力に頼るしかないのです…‼︎」
恐らくこの村で1番権力があるのは最初に出会った金髪エルフなのだろう。
彼女は正座で痺れた足をガクガク振るわせながら、立ち上がり美琴の前に立った。
「戦えそうな攻めがそこにいるだろ」
「攻め言うな」
美琴が顎でさしたのは金髪甲冑イケメンと青髪イケメンだ。
確かに、見るからに金髪イケメンの方は勇者って感じだな。
「この村のために戦えるなら、戦いたいっ……しかし、援軍救出の際にほとんど魔力を使ってしまって……ほとんど残っていないんだ。魔王と戦っても、惨たらしく遊ばれて、殺されるだけ……っ」
金髪イケメンが悔しいとばかりに拳で太ももを叩きつけた。
「俺もだ、多少の魔力は残ってるが……たぶん、今の俺はレベル1のゴーレムすら倒せねぇ…っ」
青髪のイケメンも唇を強く噛み締め、眉間に皺を寄せて強く目を瞑った。
「魔王の力は強大なのです!少し離れた場所に栄えた街がありましたが……っその街も、もう…魔王に侵略されてしまいました……それだけではありません。この村から送った援軍も拷問された後に全員……っ」
「……」
異世界転移ではよくある台詞も実際に聞くと感じ方も違う。
仲間の死を悲しむエルフの表情は漫画では表現できないだろう……見てるだけで胸が苦しくなった。
「なぁ、美琴……」
声をかけようと隣を見た。
エルフの心から訴えが幼馴染にも通じたのが、アイツにしては珍しく真剣な表情でエルフを見下ろしている。
「事情はわかった…。でも、私は、あっちの世界でやらなきゃいけない事があるんだ」
「や、やらなければいけないこととは、一体なんですか?」
エルフが不安そうな表情で美琴に聞き返した。
(命よりも大事なことあったか?)
「テスト勉強だ」
「軽い‼︎命よりも軽いっ!」
確かにテスト勉強も大事だけど、あの話を聞いた後によくもまぁ、アホみたいな台詞吐けるな。
「山田お前、軽いと言ったか?テスト勉強だぞ?」
「いや、どう考えても命の方が大事だろうが」
「私にとっては大事なんだよ。私は早く学校を卒業して社会人となり、親や時間を気にすることなく自分の稼いだ金でBL本やサブスクでBLアニメを見る一人暮らしがしたい‼︎」
「煩悩の塊じゃねーか!」
おい、誰だコイツを聖女に選んだやつ。
聖女という言葉を一回辞書で調べてこいや。
「あと、正座解除しろよ」
「私は別に強制しとらんぞ」
「わかった、俺が解除するわ。皆さーん‼︎もう、足伸ばして大丈夫ですよー‼︎」
俺の声を聞いた村人たちは「助かった‼︎」とか「神よっ」と言いながら正座を解いて、全員足の痺れに悶絶して倒れ込んでいる。
……魔王襲撃後?
「あぁっ……足がっ…な、なんて恐ろしい魔法なんだっ」
いや、足痺れただけです。
「足の中がっ、こ、これはもしや…あ、足の中に雷を起こす、ま、魔法⁉︎」
痺れただけです。
「すげーな。足痺れたら、あんな反応すんのか」
知らないって怖いな。あと一周回ってちょっと面白い。
「そんなことより、山田聞いてもいいか?」
「テスト大事って言ってすぐにそんなことって言うなよ」
「今の私の状態……ラノベのタイトルにするなら、なんだと思う?」
「命よりもテストよりも1番どうでもいいやつだな」
いや、ラノベは好きだけど比べるものが月とスッポンくらい違う。
ちなみにスッポンはテストとラノベだ。
「お前が私の納得できるラノベタイトルを考えることができたら、コイツらの命を救ってやる」
「それ悪役が使う台詞なんだよ」
聖女とは?
「お付きの方、いえっ…山田様‼︎どうか、我々をお救いください‼︎」
「いやいや、ちょっと待って?おかしい、おかしい構図になってるから!」
( 俺は幼馴染の転移に巻き込まれた最弱モブなんだよ!)
「おい、早くしろよ。コイツらの命がどうなってもいいのか?」
コイツの方が魔王なのでは?
「なんで俺が考えるラノベのタイトルに人の命がかかってんだよ‼︎」
「山田様っ、どうか、ら、らのべ?のたいとるで我々をお救いください!!」
「ラノベは魔法ではありません」
とはいえ、コイツの性格上、俺がアイツの納得のゆくラノベタイトルを考えない限り、村人を救うつもりはないだろう。……あと、チート嫌いだしな。
「……はぁ、ちょっと待てよ。今考えるから
――普通の女子高生が異世界転移、聖女として村人を救います!とか?」
「短い、ラノベを舐めてんのか?」
「え~……じゃあ、普通のJK、異世界で召喚!選ばれし少女は、聖女となり村人を救います!?は、どうだ!」
「テスト勉強が抜けてるぞ」
「それ必要?……うーん、じゃあ……普通のJKがテスト勉強してたら異世界召喚されて、聖女にされました!選ばれし少女は、聖女となり村人を救います!?は、どうだ!」
「ざまぁしたい」
聖女が「ざまぁ」って聞いたことありませんけど?
「わかった。これで、どうだ……普通のJKがテスト勉強してたら異世界召喚されて、聖女にされました!~選ばれし少女は、正座と説教とざまぁで魔王になります!?で、どうだ!」
「なんで最終的に魔王を目指してんだよ。聖女だぞ、私は」
「聖女は「ざまぁ」使わねぇんだよ」
「あの、山田様。先ほどの言葉は『詠唱』でしょうか?」
「違います。ラノベのタイトルです」
驚いた。異世界の住人からするとラノベの長文のタイトルは詠唱に聞こえるようだ。
「ざまぁとは、炎系の魔法か?」
「いえ、悪行を重ねた者が報いを受ける状況を略して「ざまぁ」と言います」
足の痺れにより小鹿のように足をプルプルと震わせた金髪勇者に答えると、隣で美琴が「おい、山田」と俺を呼んだ。
「違うだろ?」
そう言う美琴は悪魔のように悪い笑みを浮かべていた。
(コイツ絶対、ロクなこと考えてねぇだろ)
「ざまぁは呪文だ。悪を燃やす『正義の審判』だ……!」
美琴はまるで舞台役者のように両手を広げると、地にひれ伏す村人の前に立った。
コイツ何言ってんの?
「!せ、正義の炎……!!」
美琴の言葉に村人たちの瞳に希望の光が宿る。
「おい、山田。万が一にでも私から逸れて迷子になって敵に囲まれたときは、ラノベのタイトルを永遠唱えろよ」
「唱えるわけねぇだろ!?恥ずかしいわ!!!」
どんな状況だよ!
「聖女様!私たちにも、正義の魔法!「ざまぁ」を教えてくださいっ!!」
「呪文みたいに言うのやめて!意味知ってる俺からしてみれば、すごく恥ずかしいから!!それ呪文じゃないから!」
まるでライブ会場のように聖女様コールが鳴り響く。
これから俺は、どうなるのでしょうか……?




