【第7話】営業部の尋問
営業部長の部屋。
ドアが閉まる音がした。
ガチャ。
鈴木柚留は椅子の前に立った。
部長はデスクの向こうで腕を組んでいる。
机の上には一枚の紙。
売上データだった。
部長が言う。
「座れ」
柚留は静かに椅子に座った。
部長は紙を指で叩いた。
「説明しろ」
柚留はその紙を見る。
そこに書かれていたのは
花咲クリームの売上。
先週 4個
今週 32個
その横にある名前。
担当 鈴木柚留
部長は低い声で言った。
「この商品はな」
「月に二十個売れればいい方だ」
「人気商品じゃない」
「どの営業も強くは押してない」
部長の視線が鋭くなる。
「なのに」
「お前が三日で三十個以上売った」
「どういうことだ?」
柚留は少しだけ息を吐いた。
そのとき。
頭の中でナポレオンが笑う。
『いい質問だ』
柚留は心の中で答える。
「どうします?」
ナポレオンは言った。
『堂々と話せ』
『戦場では自信が武器だ』
柚留は顔を上げた。
「戦略です」
部長の眉が動いた。
「戦略?」
柚留は言う。
「売り込んでいません」
「売れる状況を作りました」
部長は黙っている。
柚留は続けた。
「店主が売りたい商品にする」
「お客さんが興味を持つ理由を作る」
「話題を作る」
部長が腕を組み直した。
「話題?」
柚留は言う。
「はい」
「SNSです」
その瞬間。
部長が机を叩いた。
バン。
「それだ」
「それを聞いてる」
部長はスマホを見せた。
例の投稿だった。
商店街の小さな店。
ビューティーさくら。
店の窓に貼られている
手書きのPOP。
「利益率が高いので
店主が売りたいクリーム」
投稿のタイトル。
「正直すぎるPOP」
いいねの数。
7,800
部長が言う。
「これ」
「お前がやったのか?」
部屋の空気が凍った。
柚留は一瞬だけ黙った。
そのとき。
ナポレオンが言う。
『鈴木柚留』
「はい」
『戦場では』
『すべてを語るな』
柚留は小さく息を吐いた。
そして言った。
「偶然です」
部長の目が鋭くなる。
「偶然?」
柚留は答える。
「でも」
「偶然が起きる状況は作りました」
沈黙。
数秒。
部長は椅子に背を預けた。
「……なるほどな」
そして小さく笑った。
「面白い」
柚留は少し驚いた。
部長は続ける。
「だがな鈴木」
「問題がある」
柚留は聞いた。
「何ですか?」
部長は言った。
「本社が気づいた」
柚留の心臓が跳ねる。
部長は続けた。
「マーケ部」
「商品部」
「役員」
「全員が言ってる」
部長はゆっくり言った。
「誰だ」
「この売り方を考えたのは」
柚留の背中に汗が流れる。
ナポレオンが笑った。
『楽しくなってきた』
部長は机の上の紙をもう一枚出した。
そこには
昨日のデータ。
花咲クリームの売上。
昨日 78個
柚留は固まった。
「……え?」
部長が言う。
「昨日だけで」
「全国の店でこれだけ売れた」
柚留はデータを見つめる。
信じられない数字だった。
部長の目が光る。
「鈴木」
「お前」
「何をした?」
柚留は答えられない。
そのとき。
ナポレオンが静かに言った。
『覚えておけ』
柚留は聞く。
「何をです?」
ナポレオンは言った。
『勝利は』
『隠せなくなる』
柚留は紙を見つめた。
そのとき。
営業部長の電話が鳴った。
部長が出る。
「はい」
数秒。
そして。
部長の顔が変わった。
「……はい」
「今ですか?」
沈黙。
電話が切れる。
部長はゆっくり言った。
「鈴木」
柚留は顔を上げた。
部長は言う。
「社長が呼んでる」
部屋の空気が止まる。
柚留の胸が高鳴る。
ナポレオンが笑った。
『いいぞ』
『次の戦場だ』




