【第24話】補給線を作れ
花咲化粧品、本社。
商品部のフロアは、さっきまでの騒ぎが嘘のように静まり返っていた。
柚留は椅子に座ったまま動けなかった。
(出荷停止……)
店では売れている。
だが商品が届かない。
それはつまり——
終わりだ。
柚留はつぶやく。
「どうすれば……」
そのときだった。
頭の奥で、あの声がした。
『愚かだな』
ナポレオンだ。
柚留は反発する。
(愚かって……)
(流通止められたんですよ)
(商品出せないんですよ)
ナポレオンは静かに言う。
『戦争とは何だ』
柚留は答えられない。
ナポレオンは言った。
『補給線だ』
柚留の頭に、さっきの言葉がよみがえる。
補給線。
『敵はお前の補給線を断った』
『ならば』
『新しい補給線を作れ』
柚留は苦笑した。
(そんな簡単に……)
そのとき、スマホが震えた。
相沢店長からだ。
柚留は電話に出る。
「もしもし」
相手の声は少し早口だった。
「もしもし、コスメプラザ吉祥寺店の相沢葵です」
「鈴木さん、大変です!」
「お客様がずっと聞いてきます!」
「次いつ入るんですかって!」
柚留は目を閉じた。
(売れてる)
(本当に)
ナポレオンが言う。
『聞いたか』
『需要はある』
『ならば戦え』
柚留は言う。
「すみません」
「実は……」
「卸が止まりました」
電話の向こうで、一瞬だけ沈黙が落ちる。
そして——
「……帝都ですか」
柚留は驚く。
「知ってるんですか?」
相沢は少しだけ間を置いて言う
「……この業界、長いので」
その一言で、空気が変わる。
ただの店長じゃない。
現場で戦ってきた人間だ。
葵は続ける。
「でも」
「お客様は待ってます」
柚留の胸が熱くなる。
ナポレオンが静かに言った。
『決断の時だ』
柚留は立ち上がった。
(補給線を作れ)
(新しい補給線)
その瞬間。
ひらめいた。
柚留は言う。
「相沢さん」
「もし商品を」
「直接持っていったら」
葵が息をのむ。
「……え?」
「卸を通さず」
「店に直接」
「納品します」
葵は一瞬黙る。
そして——
「やりましょう」
即答だった。
柚留は目を見開く。
「え……」
葵は続ける。
「お客様が待ってるんです」
「やる理由は、それで十分です」
その言葉に、迷いはなかった。
ナポレオンが低く笑う。
『いい女だ』
柚留は苦笑する。
(そこですか)
ナポレオンは言う。
『戦場を知っている者は強い』
柚留はうなずいた。
「わかりました」
「今日、持っていきます」
「必ず」
電話を切る。
黒田がこちらを見ていた。
「何か決めた顔だな」
柚留は言う。
「部長」
「卸を通しません」
黒田の眉が動く。
「……は?」
柚留は言った。
「直で店に入れます」
「僕が」
黒田は数秒、柚留を見つめる。
そして——
笑った。
「はは」
「いいな」
「それ」
一歩近づく。
「責任は俺が取る」
「やれ」
柚留の胸が熱くなる。
「はい!」
ナポレオンが言う。
『いい流れだ』
『戦争とは』
『決断の速さだ』
柚留は資料を掴む。
走り出す。
夕焼けがビルの間に沈んでいく。
だが——
柚留の戦いは、これからだ。




