【第22話】帝国の会議
東京・銀座。
巨大なビルの最上階。
帝都ビューティー本社。
年商3000億。
日本最大級の化粧品メーカー。
重厚な会議室で、役員たちが資料を見ていた。
プロジェクターに映っているのは――
SNSトレンド分析
部長が言う。
「この商品です」
画面に映る。
花咲化粧品
モイストリペアクリーム
役員の一人が鼻で笑った。
「聞いたことない会社だな」
別の役員が言う。
「地方メーカーです」
「年商50億程度」
役員たちは興味なさそうだった。
だが。
会議室の奥に座る男だけは違った。
神崎玲司。
帝都ビューティー
マーケティング本部長。
業界で
天才マーケター
と呼ばれる男だった。
神崎は資料を見ながら言った。
「原宿」
ページをめくる。
「表参道」
またページをめくる。
「SNS」
そして小さく笑った。
「戦略がある」
部下が言う。
「偶然では?」
神崎は首を振った。
「違う」
「これは設計だ」
会議室が少し静かになる。
神崎は言う。
「原宿でバズ」
「数量限定」
「SNS拡散」
「表参道で信頼獲得」
「完全に順序を作っている」
部下が驚く。
「そんな…」
神崎は資料を指した。
営業担当
鈴木柚留
神崎は言った。
「この男」
「ただの営業じゃない」
役員が言う。
「小さな会社ですよ」
神崎は笑った。
「だから怖い」
部屋が静まる。
神崎は言った。
「小さい軍は」
少しの間をおいた後呟く。
「自由に動く」
そして椅子にもたれた。
「ナポレオンみたいにね」
誰も笑わなかった。
神崎は言う。
「調べてくれ」
部下が聞く。
「何をです?」
神崎は答えた。
「鈴木柚留」
そして小さく言う。
「誰が」
「この戦略を考えている」
同じ頃。
花咲化粧品。
商品開発室。
美咲が叫んだ。
「また売り切れました!」
柚留が振り向く。
「どこですか?」
「下北沢です!」
柚留は驚く。
「もう?」
ナポレオンが言う。
『当然だ』
柚留は心の中で言う。
(自慢ですか?)
『戦争とは』
ナポレオンが言う。
『兵力ではない』
『配置だ』
そして続ける。
『兵は神速を尊ぶ』
柚留は苦笑した。
(また格言ですか)
『意味がわかるか』
柚留は考える。
「……スピード」
ナポレオンが言う。
『違う』
『決断だ』
柚留は少し黙った。
そして言った。
「決断」
ナポレオンが言う。
『そうだ』
『戦争は迷った方が負ける』
柚留はホワイトボードに書いた。
次の街
美咲が聞く。
「どこですか?」
柚留は言った。
「渋谷」
ナポレオンが笑う。
『いいぞ』
そのとき。
黒田部長が部屋に入ってきた。
「鈴木」
柚留が振り向く。
「はい」
黒田は言った。
「ちょっと来い」
会議室。
黒田は腕を組んでいた。
そして言った。
「お前」
「何をやってる」
柚留は少し緊張する。
「え?」
黒田は資料を机に置いた。
そこには売上データがあった。
原宿。
表参道。
下北沢。
黒田は言う。
「全部売り切れ」」
柚留は黙る。
黒田は言った。
「本社が騒いでる」
「商品が足りないんだよ」
「しっかり手配しろ」
柚留の背中に冷たい汗が流れた。
「すみません……」
黒田は続けた。
「そんなことよりも」
資料をもう一枚置いた。
そこにはロゴがあった。
帝都ビューティー
黒田は言った。
「業界最大手」
「動き始めた」
柚留の心臓がドクンと鳴る。
ナポレオンが静かに言った。
『面白くなってきた』




