【第20話】皇帝は次の敵を見つけた
帝都ビューティー本社。
東京・六本木。
巨大な高層ビルの最上階。
そこにマーケティング本部があった。
壁一面のモニター。
SNSデータ。
市場分析。
売上グラフ。
社員たちが慌ただしく動いている。
その中心に一人の男がいた。
神崎玲司。
美容業界のカリスママーケター。
彼はモニターを見ていた。
SNSのトレンドグラフ。
あるキーワードが急上昇していた。
「花咲クリーム」
社員が言う。
「神崎さん」
神崎は視線を外さない。
「何だ」
「原宿で売り切れが出ています」
神崎は静かに言う。
「在庫は?」
「最初10個だけだったようです」
神崎は少し笑った。
「なるほど」
社員が続ける。
「インフルエンサー投稿から拡散しています」
「現在再生数は」
モニターを見る。
47万。
神崎は腕を組んだ。
「小さいな」
社員は少し困った顔をした。
「ですが」
「勢いはあります」
神崎はモニターを見続けた。
そして言う。
「戦略は悪くない」
社員が聞く。
「どういう意味ですか?」
神崎は言った。
「インフルエンサーに種を撒く」
「都市を限定する」
「在庫を絞る」
神崎は少し笑う。
「心理戦だ」
社員が言う。
「偶然では?」
神崎は首を振った。
「違う」
そして言う。
「これは」
少し間を置く。
「計算だ」
社員が驚く。
「そんな中小企業が?」
神崎は答えた。
「関係ない」
そしてモニターを見ながら言った。
「戦争は」
「規模じゃない」
「頭だ」
花咲化粧品 本社。
営業部。
フロアは騒然としていた。
社員たちがスマホを見ている。
「見たか?」
「SNS」
「再生数50万いってる」
「原宿売り切れ」
柚留は静かに席に座っていた。
ナポレオンが言う。
『小さな勝利だ』
柚留は頷いた。
「はい」
そのとき。
黒田が近づいてきた。
フロアが静かになる。
黒田は言った。
「鈴木」
柚留は顔を上げる。
「はい」
黒田はスマホを見せた。
動画。
再生数。
61万。
黒田が言う。
「これは」
少し間を置く。
「偶然じゃないな」
柚留は静かに答えた。
「戦略です」
黒田は小さく笑った。
「いいね」
そして言う。
「次は?」
柚留は答えた。
「表参道です」
黒田の眉が少し動く。
「早いな」
柚留は言った。
「兵は神速を尊ぶ」
ナポレオンが笑う。
『いいぞ』
黒田は少し考えたあと言った。
「鈴木」
「一つ教えてやる」
柚留は聞く。
「何でしょう」
黒田は言った。
「東京の美容市場」
「本当の王は」
少し間。
そして言う。
「帝都ビューティーだ」
柚留は答えた。
「知っています」
黒田が言う。
「その会社に」
「神崎玲司って男がいる」
柚留は静かに聞いた。
黒田は続ける。
「マーケティングの天才だ」
「そいつが動けば」
「市場が動く」
ナポレオンが言う。
『強敵だな』
柚留は少し笑った。
「面白いですね」
黒田が言う。
「面白い?」
柚留は答えた。
「強い敵がいた方が」
少し間。
そして言う。
「戦争は楽しいです」
黒田はしばらく柚留を見ていた。
そして笑った。
「本当に変わってる奴だ」
黒田は去っていく。
ナポレオンが言う。
『将軍の顔になったな』
柚留は窓の外を見る。
東京の街。
巨大な市場。
そして言った。
「次は」
「表参道です」
同じ頃。
帝都ビューティー本社。
神崎は一枚の資料を見ていた。
タイトル。
花咲化粧品
社員が言う。
「調べました」
「地方の中小メーカーです」
神崎は聞いた。
「営業は誰だ」
社員が答える。
「鈴木柚留」
神崎はその名前を見た。
少しだけ笑う。
「鈴木柚留…」
そして言った。
「面白い」
社員が聞く。
「どうします?」
神崎は答えた。
「何もしない」
社員が驚く。
「え?」
神崎は言った。
「まだ」
そしてモニターを見ながら呟いた。
「戦争は」
「敵が強くなってからの方が」
少し笑う。
「楽しい」
そのとき。
SNS再生数が表示された。
100万。
神崎の目が少し光った。
そして小さく言った。
「なるほど」
「これは」
少しの間。
「少し面白い戦争になるかもしれないな」
こうして―
柚留の小さな戦略は―
東京を動かし始めた。
しかし。
その先には。
美容業界最大の帝国。
帝都ビューティー。
そして。
天才マーケター。
神崎玲司。
柚留はまだ知らない。
この男との戦いが。
やがて―
日本の美容業界の歴史を変える戦争になることを。




