【第18話】原宿攻略戦
東京。
原宿。
休日の竹下通りは、人で溢れていた。
若者。
観光客。
美容ショップ。
カフェ。
東京のトレンドは、ここから生まれる。
柚留は人混みの中を歩いていた。
白石美咲も隣にいる。
「すごい人ですね」
美咲が少し驚いた声で言った。
柚留は頷いた。
「東京の戦場です」
ナポレオンが言う。
『戦場としては理想的だ』
柚留は小さく笑った。
「そうですね」
美咲が聞く。
「ここで何をするんですか?」
柚留は言った。
「偵察です」
ナポレオンが言う。
『戦争の基本だ』
柚留は店を見て回った。
ドラッグストア。
コスメショップ。
韓国コスメ。
プチプラブランド。
柚留は商品棚を見る。
価格。
パッケージ。
成分。
客の反応。
すべて観察する。
美咲が聞いた。
「何か分かりました?」
柚留は言った。
「はい」
美咲が期待した顔をする。
柚留は言った。
「強いブランドは」
「二つの特徴があります」
「何ですか?」
柚留は答えた。
「ストーリー」
「そして」
「共感です」
ナポレオンが言う。
『兵も同じだ』
柚留は続ける。
「人は」
「商品を買うんじゃない」
「意味を買います」
美咲は少し驚いた顔をした。
「意味…」
柚留は言った。
「例えば」
韓国コスメの棚を指さす。
「これは」
「肌がきれいになる」
だけじゃない。
「韓国アイドルの肌」
「トレンド」
「憧れ」
それを売っている。
美咲が言った。
「なるほど…」
柚留は笑った。
「だから」
「僕たちも作ります」
「ストーリーを」
ナポレオンが言う。
『戦争の大義だ』
そのとき。
スマホが震えた。
柚留は画面を見る。
美容インフルエンサー。
フォロワー12万人。
昨日、柚留がクリームを送った人物だった。
新しい投稿。
動画。
タイトル。
「この保湿クリーム、やばい」
美咲が驚く。
「えっ」
動画が再生される。
女性がクリームを手に取る。
そして言う。
「これ、花咲化粧品って会社の試作品らしいんだけど」
「めちゃくちゃいい」
「敏感肌でも全然大丈夫」
「最近の保湿クリームで一番かも」
再生数。
どんどん増えていく。
1000。
3000。
7000。
美咲が小さく叫ぶ。
「すごい…」
ナポレオンが言う。
『火がついたな』
柚留は静かに言った。
「はい」
そして言う。
「ここからです」
美咲が聞く。
「ここから?」
柚留はスマホを見せた。
コメント欄。
そこにはこう書かれていた。
「どこで買えるんですか?」
「商品名知りたい」
「欲しい」
柚留は言った。
「今」
「市場が動きました」
ナポレオンが言う。
『敵の隊列が乱れた』
柚留は笑った。
「そうですね」
そして言う。
「次は」
「店です」
美咲が聞く。
「店?」
柚留は前を指さした。
原宿のドラッグストア。
入口。
美容コーナー。
柚留は言った。
「ここに置いてもらいます」
美咲は驚く。
「もう?」
柚留は頷く。
「兵は神速を尊ぶ」
ナポレオンが笑う。
『いいぞ』
二人は店に入る。
数分後。
店長が現れた。
「営業?」
柚留は名刺を出す。
「花咲化粧品の鈴木です」
店長は言う。
「新商品?」
柚留は言った。
「まだ発売前です」
店長が首を傾げる。
「じゃあ何?」
柚留はスマホを見せた。
さっきの動画。
再生数。
2万
店長の目が少し変わる。
柚留は言った。
「この商品」
「今バズり始めています」
ナポレオンが言う。
『心理戦だ』
柚留は続けた。
「まだ市場にはありません」
「だから」
「最初に置いた店が」
少し間を置く。
「話題になります」
店長は少し黙った。
そして言う。
「サンプルある?」
柚留はクリームを差し出した。
店長は手に出す。
数秒。
そして言った。
「いいね」
柚留は静かに聞く。
「置いてもらえますか?」
店長は少し笑った。
「面白い」
そして言う。
「10個だけ置いてみる」
美咲が小さく息をのむ。
柚留は言った。
「ありがとうございます」
店を出たあと。
美咲が言った。
「本当に置いてもらえました」
柚留は笑った。
「戦争は」
ナポレオンが言う。
『小さな勝利から始まる』
柚留は言った。
「はい」
そのとき。
スマホがまた震えた。
新しい通知。
動画。
別の美容インフルエンサー。
フォロワー
30万人。
美咲が呟く。
「え…」
動画タイトル。
「このクリーム、どこにも売ってないのに神なんだけど」
ナポレオンが静かに言った。
『戦争が広がったな』
柚留はスマホを見ながら言った。
「はい」
しかし。
東京のどこかで。
一人の男がその動画を見ていた。
帝都ビューティー。
マーケティング本部。
男は画面を見て言った。
「花咲化粧品?」
その男の名前は。
神崎玲司。
美容業界のカリスマ。
そして―
柚留の最大の敵になる男だった。




