表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷探偵の迷宮  作者: 双鶴


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/16

8話

十一月半ば、校舎の空気はさらに重くなっていた。女子生徒が負傷した事件は地域社会を揺るがし、テレビや新聞は連日「学校を舞台にした連続紙片事件」として報じていた。警察の捜査は進展を見せず、犯人は未だ捕まっていない。


ニュース番組ではキャスターが声を荒げた。

「生徒が負傷し、脅迫文まで届いているのに、警察は犯人を特定できていません。責任はどこにあるのでしょうか」


評論家はさらに追い打ちをかける。

「警察は学校に任せすぎた。校長に頼るのではなく、徹底的に捜査すべきだった」

「地域の安全を守る責任を果たしていない」


画面には校庭での騒ぎ、救急車の映像、保護者説明会の様子が繰り返し映し出される。社会の眼は警察に厳しく向けられていた。


---


だが、矛先は警察だけではなかった。保護者たちの間では「氷川校長だから事件が起こる」という噂が広がっていた。過去に幾度も事件に関わった経歴が、逆に「不吉な存在」として語られ始めたのだ。


ある保護者は電話で怒鳴った。

「校長がいるから子どもが巻き込まれるんだ!」

「事件を呼び寄せているのは校長自身だ!」


説明会の場でも、突き上げは激しかった。

「もう辞めてください。子どもたちを守るために」

「校長がいる限り、学校は安全にならない」


沙織は壇上に立ち、保護者たちの視線を受け止めた。胸の奥で何かが崩れていくのを感じた。教育者として生徒を守りたい。だが、社会はそれを許さない。


---


その夜、校長室に一人残った沙織は机の上の紙片を見つめた。理科室、体育館、図書室、職員室、そして校庭。すべての紙片が「学校を舞台にした犯人の意志」を示していた。


「私は校長。教育者。もうヒロインじゃない」

そう繰り返してきた。だが、現実は彼女を追い詰めていた。


窓の外には街灯の光がぼんやりと差し込み、校庭は静まり返っていた。子どもたちの笑い声は消え、沈黙だけが広がっていた。


沙織は深く息を吐き、決意を固めた。

「……辞めよう。私がいる限り、学校は事件に巻き込まれる」


その言葉は、呪いを断ち切るように重かった。


---


翌朝、職員室で沙織は教師たちに告げた。

「私は校長を辞任します。生徒を守るために、これ以上は続けられません」


教師たちは驚き、沈黙した。だが、誰も反論はしなかった。恐怖と不安が、すでに学校全体を覆っていたからだ。


刑事が校長室に現れた。

「先生、本当に辞めるのですか」

「はい。私がいる限り、事件は続くと保護者は信じています。生徒を守るためには、それしかありません」


刑事は目を細め、数秒沈黙した。

「……わかりました。ですが、犯人は必ず次の標的を狙います。先生が辞めても、事件は終わらないかもしれません」


沙織は静かに頷いた。

「それでも、私がいなくなることで、子どもたちが少しでも安心できるなら」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ