6話
十一月の冷たい風が校舎の窓を揺らしていた。事件から二週間が経ち、学校は表面上は平穏を取り戻しているように見えた。だが、氷川沙織の胸の奥には重い影が残っていた。机の上には、これまでに見つかった紙片が並んでいる。理科室、体育館、図書室、そして校長室に届いた脅迫文。どれも同じ質感、同じ滲み方。偶然ではない。
「次は学校の中で血を見る」
その言葉が、夜ごとに彼女の耳に残響していた。
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昼休み、校庭で生徒たちが遊んでいる最中に、突然の悲鳴が響いた。沙織は校長室から飛び出し、校庭の隅へ駆け寄った。そこには、倒れ込む女子生徒の姿。腕に深い切り傷が走り、血が制服を濡らしていた。周囲の生徒たちは泣き叫び、教師が必死に応急処置を施していた。
「救急車を!」
沙織は声を張り上げ、携帯を取り出した。指先が震えていた。――脅迫は現実になった。
数分後、救急車が到着し、生徒は搬送された。命に別状はないと告げられたが、傷は鋭利な刃物によるものだった。校庭の地面には、また白い紙片が落ちていた。そこには短い文字が記されていた。
――「最初の犠牲」
沙織は息を呑んだ。犯人は確実に学校を舞台にしている。
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午後、刑事が校長室に現れた。机の上の紙片を手袋越しに拾い上げ、低い声で言った。
「先生、これは偶然ではありません。犯人は学校を狙い、計画的に行動しています。生徒が傷ついた以上、もう協力を拒むことはできないでしょう」
沙織は唇を噛んだ。校長として、生徒を守る責任がある。だが、過去の経験を持ち出されることには耐えられなかった。
「私は校長です。推理や捜査には関わりません。ただ、生徒を守るために必要なことはします」
刑事は目を細め、数秒沈黙した。
「では、最低限の協力を。犯人は必ず次の標的を狙います。学校の内部に詳しい人間である可能性が高い。先生の目が必要です」
沙織は深く息を吐いた。拒絶しても、事件は確実に進展している。校長として、逃げ場はない。
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放課後、職員室は騒然としていた。教師たちは「次は自分が狙われるのでは」と怯え、生徒たちは「犯人は学校にいる」と噂を広げていた。保護者からの電話は鳴り止まず、地域の掲示板には「学校で刃物事件が起きた」と書き込みが並んだ。
沙織は窓の外を見つめた。校庭には夕暮れの光が差し込み、血の跡がまだ残っていた。子どもたちの笑い声は消え、沈黙が校舎を覆っていた。
「……これは、学校を舞台にした犯人のゲームだ」
彼女は心の中で呟いた。拒絶しても、事件は確実に進んでいる。校長として、生徒を守るために、もう一歩踏み込まざるを




