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迷探偵の迷宮  作者: 双鶴


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プロローグ

私は氷川沙織、三十四歳。来月の誕生日を迎えれば、四捨五入で四十歳になる。

殺人事件には何度も遭遇してきたのに、肝心の「運命の出会い」には一度も遭遇しない。事件ばかりで恋愛はゼロ。ヒロインなのに結婚どころか恋人すらいない。高齢出産の年齢に差しかかる前に、せめて結婚くらいはしたい――そんな願いを胸に抱きながら、私は今日も生きている。


かつて私は「美人教授探偵の殺人事件シリーズ」のヒロインだった。

タイトルに「美人教授」とついてしまったばかりに、食べすぎないように必死で我慢し、太らないようにエステに通い、維持するのにどれほど苦労したことか。小学生からは「疫病神」と呼ばれ、ヒロインなのに「オバさん」とからかわれる始末。


死体を発見するのも日常茶飯事で、もう驚きもしなくなっていたのに、台本通りに尻餅をつく描写を強要されるから服は汚れるし、濡れたときは最悪だった。温泉シーンでは湯気で顔が隠れて「誰だかわからない」と言われ、崖で犯人と対峙するときはヒール靴で滑りそうになり、観光地では「また事件か」と地元の人に白い目で見られる。あれほど「ヒロインらしく」見せるための演出に振り回されるのは、正直もううんざりだった。


だから私は考えた。教授じゃなければ、ただの美人。肩書きがなければ平和な生活が訪れるはずだ、と。

そうして私は教授を辞め、中学校の校長に就任した。これでようやく、事件に巻き込まれない穏やかな日々が始まる――そう信じていた。


就任式で「これで平穏な日々が…」と宣言した直後、生徒から「校長先生、また事件に巻き込まれるんでしょ?」と茶化され、私は苦笑いするしかなかった。だが、心のどこかで「いや、もうそんなことはない」と強がっていた。


だが、私は知っている。

この世界には“見えない大人の事情”が存在することを。作者の都合という名の力が、私の人生を何度もねじ曲げてきたことを。


「ヒロインは事件に巻き込まれるもの」

その呪いのような言葉が、私の背後で囁かれている気がする。


校長室の窓から見える校庭は、まだ朝の光に包まれていた。子どもたちの笑い声が響き、私は胸の奥で小さな希望を抱く。――どうか、この日常が続きますように。


しかし、チャイムが鳴り響いた瞬間、職員室の扉が乱暴に開かれた。

「校長先生! 大変です、事故が――いえ、事件かもしれません!」


私は目を閉じ、深く息を吐いた。

やはり逃れられないのか。私はこの世界のヒロインである以上、事件は必ず私を見つけ出す。婚活パーティには遭遇しないのに、事件には必ず遭遇する――これが私の運命なのだ。


「……迷宮は、まだ続いているのね」


そう呟いたとき、私の新しい物語が始まった。


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