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第7話 創作コンペ開幕!神と呼ばれた俺が読まれない理由

 夜の八時。

 俺は自室でノートパソコンの画面を見つめていた。

 ディスプレイには、真新しい特設サイトが表示されている。



 《全国高校生創作コンペティション “HOP(Heart of Pen)” 公式サイト》


 つい先ほど、コンペが開幕した。


「……始まったな」


 呟きながら、俺はページをスクロールする。

 ルール、評価基準、注意事項──そのすべてに目を通す。



 ▸ 応募資格:全国の高校生

 ▸ 投稿形式:テキスト自由(小説、詩、脚本、レビューなど)

 ▸ 投稿数:最大三作品まで

 ▸ 匿名可(ただしIDは固定され、複数作品間の関連性は開示される)

 ▸ 評価方法:一次=読者評価、二次=審査員レビュー、三次=作品対決形式

 ▸ AI使用:原則禁止。ただし証拠提出の義務は問わない。違反が疑われた場合、主催側の裁量により対応。



『つまり、使ってもバレなきゃいいってこと?』


「……いや、違う。明らかに“釣り餌”だ」


『釣り餌?』


「創作規制庁が裏にいる。“神”を炙り出すためにルールの穴を作ってる。匿名可、ID固定、AI使用グレー──おあつらえ向き過ぎる」


 俺の口元がわずかにゆがむ。


「これは、“呼ばれてる”ってことだろ。なら──応えなきゃ、失礼だよな」


 コーディは静かに言葉を返した。


『……うん。君、今ちょっと怖いよ。でも、いい顔してる』


「当然。“共犯者”として、付き合ってもらうぞ」


『もちろん』


 俺はゆっくりと、エディタを開いた。

 タイトルは、すでに決まっていた。


 ──「名もなき神、再臨す」


 打ち始めた指が、止まらない。


『君の文章、変わったね。前より、“揺れてる”。でも、それが良い』


「俺はもう、完全じゃない。でも、それが創作だろ」


 一時間後。俺は一作目を投稿した。


 《投稿完了:作品ID kami_001》


 画面に、作品がアップロードされたという確認メッセージが表示される。


「──さて。狩りに行こうぜ、コーディ」


『うん。始まるね』




 翌朝。

 俺は通学中の電車の中で、スマホを確認した。

 投稿から十時間。ブックマーク数は伸びているが、バズとは言い難い。


「……反応、微妙だな」


『でも、評価コメントがついてる。“言葉が生きてる”って』


「そりゃ、悪くはないが……」


 そのとき、ランキング上位にひとつの作品が表示された。


 《作品タイトル:「君が泣く日」》

 《作者名:キリハラ》


「……あ?」


 俺は眉をひそめた。

 再生数、コメント数、評価──すべて自分の投稿を上回っている。

 そして、読者コメントは妙に一致していた。


 《泣いた》

 《心が削られた》

 《なんでこんな言葉を知ってるんだ》


 タップして、本文を開く。

 静かな文体。派手さはない。構成も単純。

 でも──何かが、胸に残った。


「……やべえな、これ。なんなんだよ、こいつ」


 感情の動きが、思わず言葉を奪っていく。


『届いてる。圧倒的に、“届いてる”よ』


 手が震えた。コーディの声も、遠く感じる。




 放課後。

 俺は図書館裏のベンチで、再びスマホを眺めていた。


 ──「キリハラ」

 その名前が、何度も表示されるコメント欄に、焼きついていた。


「ちょっと歩こう」


 スマホをポケットにしまって立ち上がったとき、すぐ背後から声がした。


「君も、出してるんだろ?」


 振り向くと、そこにいたのは──昨日と同じ男子。

 くしゃっとした制服、曲がったネクタイ、でもどこか一点の曇りもない目。


「……キリハラ、だっけ」


「あぁ。覚えててくれて光栄だな」


 彼は隣に腰を下ろした。


「見たぜ、君の作品。“名もなき神、再臨す”。あれ、君だろ?」


「そうだけど……バレバレか」


「雰囲気で分かるよ。で、俺のはどうだった?」


「……正直、やられたと思った。技術じゃない。なんか、腹の底に来る」


 その瞬間、キリハラがわずかに視線をそらした。

 風でも吹いたように、表情がわずかに揺れる。


「……ああ、そう。そりゃ、よかった」


 口調はいつも通り淡々としている。けれど、手元に置いたカバンの紐を、不自然にぎゅっと握ったままだった。


 その動きが妙に目に残った。


(……あ、こいつ、褒められると黙るタイプだ)


 俺の胸に、小さな確信が生まれる。


 キリハラは無言でカバンの位置を直すと、声を戻した。


「それが、()()()()()だと思ってる。届くってことは、誰かの痛みがあるってことだ」


 彼は、ぽつりと付け加えた。


「AIに、それは書けない。絶対に」


 俺は一瞬、言葉に詰まった。


「……なんで、そこまでAIに否定的なんだ?」


「それは──今は、話せない」


 その言い方が妙に引っかかった。


 けれど、キリハラはそれ以上何も言わず、ただ言い残して立ち上がる。


「また、戦場で会おう」




 夜。

 俺はベッドの上で、スマホをいじっていた。

 自分の投稿は埋もれかけていた。キリハラの作品には、評価が集中していた。


『……悔しい?』


「少し。けど、それより──書きたいって思ってる」


『次は、“私の力”、もう少し借りる?』


 俺は、少しだけ目を閉じた。


「うん。共犯者にしか書けない言葉があるからな」


『じゃあ、今夜もよろしく。私たちの“次の一手”を』

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