7 幕間
侯爵がいなくなると、イザベラは趣味である刺繍に取りかかった。
「お嬢様、もうお休みになられたほうがよろしいかと。」
ドーラは心配そうに彼女を見るが、イザベラは首を振った。
「今日は疲れているけど、寝られそうにないの。それに披露宴のことをあまり思い出したくないから、こうやって何かに夢中になるのがいいのよ。」
「そうおっしゃるなら、ここにホットティーを置いておきますね。」
ドーラが温かいカップを置いて部屋を退室するなり、イザベラはベッドの上で姿勢を崩した。
「思っていたよりも自分は緊張していたようね。肩が痛いわ。…ここだけ縫ってからドーラも言うように休もうかしら。」
すぐに深い眠りに落ちて、翌朝、これほどよく眠れた人は自分以外いないのでは、とイザベラは思うほどであった。
春の温かい風が城内の草花を揺らしている。その様子をニコニコしながら見ているのは、ブリストル王国の宰相であるアルミロだ。
「もう春ですね、殿下。」
前国王の頃から長く務めている彼は、ランヴァルドを自分の子のように思っていた。
「あまり気が進まないがそろそろ陽炎祭だな。あれは、俺も出席しなきゃしけないのか?」
「当たり前です。即位する前も出ていたでしょう。」
「父上は出てないときもあったよな。」
「それは、国務で隣国に行かれていたときですよ。普通は参加するもんです。」
「…そうか。」
ランヴァルドは初めて城の庭に目を向けると、アルミロの言うとおり春が訪れていることを感じた。