6 スチュアート邸宅にて
スチュアート侯爵は、邸宅に帰るとすぐに、娘の部屋へと向かった。
幼い頃に肺炎を起こしてからしばらく臥せっていた彼女が、晴れて今日、社交界に出たのだ。家で祝って二人で話でもしようと考えていたためである。
ところが、部屋の前にいた護衛が声をかけ、中から姿を現した彼の娘は、出かける前よりも病的に顔色が悪かった。
「おい、どうしたんだ!そこのお前、医者をすぐに…」
侯爵が入ってくるなり付き人を呼び寄せたので、イザベラは慌ててそれを止めた。
「お父様!私は大丈夫ですから、呼ぶ必要などありません!」
「しかしお前、随分元気がなさそうだが…」
「私は慣れていない社交界を知って、少し疲れただけです。人前も、陛下も苦手です。」
「そうか…。イザベラ…。では、今日はゆっくり寝るがいい。」
しょんぼりとした背中を見せて引き返す侯爵をよそに、イザベラはどこかホッとした様子で専属世話人であるドーラを見た。歳が近いこともあり、ドーラとは仲良く、こんなときにも目配せをしてみせている。
そんな侯爵親子のやりとりの中で、きっとイザベラの最後に言った言葉は侯爵に届いていないだろう、とドーラは思った。
侯爵は皇室を熱心に敬うよう教育していたためである…。