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1 コーストと王女
ある国に美しい一人の王女がいた。この国は海に面しており、先祖は代々人魚とかかわりのある一族であったとされ、妃には人魚の血が流れているとも言われていた。王女は言い伝えを半ば信じていた。彼女は海辺を歩くことが好きで、高揚感を覚えるのだった。そうして、よく月を眺めに海辺を彷徨うのが習慣になっていた。
この国の隣には大国があった。どちらの国も歴史は古く、昔から交流はあったものの特に深い関係というわけではなかった。けれども、この国の王子は六月の夜、十八になる彼の誕生日に隣国の浜へ訪れた。
その娘は薄い金髪に、鮮やかな青い目をしていた。髪は片耳の下にまとめ、シンプルなデザインに仕立てられた上質な布地の服を着ていた。ただぼんやりと、静かな海に浮かぶ月を眺めているのだった。
「…やっと見つけた。」
男はそう言って微笑するのだった。