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第9話 雨降って地固まる

喧嘩&幽霊回完結編です!

幽霊が振り下ろした包丁の先端が、老人の胸へと向かうーーーーー!


「っ・・・!」


駄目だ!間に合わない・・・!





そう思った勇者だったが・・・


「ふんぬっ!」ガシッ


『何ッ!?』


なんと、老人は包丁の柄の部分を掴み、自分に刺さるのをしっかりと回避していた。


「ワシも舐められたモノだな?しばらく会わぬうちに力量を忘れたか?」


『グッ…!ドノ口ガ言ウカ!私ヲ見テ怖ガッテイタデハナイカ!』


論点をズラして言い返す幽霊。……正直、かなり情けない。


「少し驚いただけじゃわい。まさか幽霊になって現れるなど思わぬでな。」


『グゥ…』


そして幽霊、こんな老人にレスバ負けてるし。


「・・・あんな形でお前が死んで、もう()()()も経つのか…」


・・・んっ?20年?確か、幽霊は10年って言ってたような・・・


『・・・貴様モ老ケタナ。』


「もう80目前のジジイじゃからな。孫が出来たが、娘には先立たれた。この20年、色んな事があったよ。」


『・・・・・・』


えっ?なんか気になるのにスルーですか?それとも、気のせいだったかな・・・





「ユリエよ・・・すまんかった!」


『!!』


「えっ…?」


思わず驚く、俺と幽霊。

エイゾウ老人は、幽霊に向かって土下座した。


『オイ、ヤメヌカ。ソノ体勢ハ身体ニクルダロウ。』


「おい、空気読め!」


雰囲気を壊すなよ。

そうかもしれないけど、今はそうじゃないだろ…


「ワシの事は良い・・・それより、ユリエよ。謝らせて欲しい。ワシはずっと後悔していたんじゃ。…あの日、くだらない事で喧嘩をしてしまい、お前を出ていかせた挙げ句…そのせいでお前を死なせてしまった…!

この20年間、嬉しいこともそうでない事も沢山あったが…あの日の事を忘れた事は無かった…。あの日、ワシがお前を出ていかせたりしなければ…いや、そもそも喧嘩などしなければ…今頃、お前も…」


『・・・・・・』


「・・・・・・」


束の間の静寂。…そして幽霊が口を開く。


『グゥ…!ダ、ダガ!今更ソンナ事ヲ言ワレヨウト…!』


…今だ。

今こそ、手を打つ時。俺の考えを話す時だ。


「幽霊……いや、ユリエさんって呼ばれてたっけ?…アンタさ。もう、許しても良いんじゃないか?」


『ッ…!ワ、私ハ20年モ恨ミ続ケテキタノダゾ!?今更謝ラレヨウト…!』


「違うよ。俺が許しても良いって言ったのは、アンタの夫…エイゾウさんの事じゃない。」


『何ッ!?』


「……………」






「・・・20年前、仲直りする事も出来ずに、死んでしまった自分自身を、だよ…。」


『!!』


「……………」


「アンタ、恨んでるって割には今のエイゾウさんの事をよく知っているみたいだし…それに、アンタはユウナに関する俺との約束をキッチリ守ってくれている。そんなアンタが、人を20年も恨み続けるような奴には思えなくてさ。…アンタが本当に恨み続けていたのは、エイゾウさんと喧嘩したまま事故死しちまった、自分自身だったんじゃないのか?」


『グッ…!グアァ…!ソンナコトハナイ!私ハ……私ハ……!!』


頭を抱える幽霊。


「本気でエイゾウさんを殺すつもりがあったって言うのか!?20年も監視し続けて、今まで実行に移さなかったのにか?肝心の殺害方法を何も考えてなかったのにか?彼が土下座した時、真っ先に彼の身体を心配していたのにか!?」


『ヤメロ……ヤメロ……!』


膝をつく幽霊。


「極めつけには、アンタ言ってたよな?俺とその身体の持ち主…ユウナが喧嘩してるって話をした時に…!」



〜〜〜〜〜


(回想)


『……幸セ者ダナ、コノ女(ユウナ)ハ……』


「そうか?アイツ(ユウナ)は俺のこと、厄介者としか思ってなさそうだけど?いっつもクソボケ勇者様とかなんとか言ってさぁ…」


『ソウヤッテ言イ合イ出来ルダケデ、十分幸セデハナイカ…』


〜〜〜〜〜


「『言い合い出来るだけ幸せ』・・・あの言葉は、喧嘩して謝る事も出来ずに死んでしまった自分を、俺とユウナと比較して出た言葉だったんじゃないか?何度喧嘩しようと、言い合いしようと、生きてさえいればそのうち仲直りが出来る。だから、生きてそんなくだらない事が出来るだけ幸せだ。そういう意味で言ったんじゃないのか!?」


『ヤメテクレ…!私ハ…私ハソンナコト…!!』


「『思ってない』…なんて、言わせないぞ。今も殺意があるって言うなら・・・この俺の大剣を使ってみろ。それでエイゾウさんをぶった斬ってみろよ!!」


そう言って、幽霊の元に大剣を落とす勇者(ホムラ)


『グゥ…!私ハ……私ハ……!』


泣きながら、大剣に手を伸ばす幽霊。


「・・・」


エイゾウ老人は、呆然としたまま動かない。


『私ハ・・・!!』


大剣を握ろうとする幽霊。





・・・けれども、その手が大剣を掴む事は無かった。


『私ハ・・・ソンナコト出来ヌ・・・』


そう呟き、幽霊はガックリと項垂れた。


「・・・・・・」


「ユリエ・・・」


しばらく泣きじゃくる幽霊を、俺とエイゾウ老人は静かに見守り続けた・・・





ーーーーーそして。


『・・・エイゾウ。スマナカッタ。オ前ヲタ殺ソウトシタコト、オ前ノ余生ヲ監視ナドシテ、コノヨウニ邪魔スルヨウナコトヲシテシマッタコト…』


『……ソシテ、喧嘩シタママ、謝ル事モ出来ズ、死ンデシマッタコト…』


憑き物が落ちたかのように、幽霊は素直に謝罪を行った。


「・・・ワシこそ、すまなかった。あの日、喧嘩してお前を出ていかせたばかりに死なせてしまったこと…20年間、ずっと悔やみ続けておった……ずっと……」


『エイゾウ…』


見つめ合う2人。…幽霊の方はユウナの身体なワケで、かなり不自然な絵面ではあるが。


「…もういいんじゃないですか?仲直りで。お互い、言いたい事は、ようやく言えたでしょう?20年振りに。」


「勇者殿…」


『勇者様の言う通りです。お陰様で、20年間気付いていながらもしまいこんでいた気持ちに、ようやく決着をつけられました。』


「あれ、幽霊……じゃなくて、ユリエさん。喋り方が…」


突然、流暢に喋るようになった幽霊。


『…どうやら、憎しみのあまりおかしくなっていたようです。ですが、もう正気は取り戻しました。ですので、もう心配は要りません。ご迷惑をお掛けしました。』


「そ、そうですか……なら良かった……」


「これも勇者殿のお陰ですな。どうもありがとうございました。」


ユリエさんに続いて、お礼を述べるエイゾウさん。


「いや、俺は何も…」


謙遜するホムラ。


『…さて。当初の目的は果たせませんでしたが、結果的に20年越しのわだかまりも解けました。もうこの身体に取り憑いてる意味もありませんね。当初の約束通り、この身体はお返しします。』


続いて、ユリエさんがそう言う。


「…えっ?いいんですか?」


『……何かご不満でも?』


意外な反応を示す勇者に、疑問符を浮かべるユリエさん。


「いや…勿論、ユウナの身体を返してもらえるのは有難いんですけど…ユリエさんは、どうなるのかなって…」


『…そうですね。現世への恨みも消えましたし、そのうち成仏するかもしれません。』


「そんな…」


悲しそうな表情をするホムラに、ユリエさんは微笑んで返す。


『良いのです。私は既に死人なのですから。実体の無い私より、生きてるお友達を大事にしてあげてください。』


「ユリエさん…」


「心配は要らんよ、勇者殿。どうせ、ワシもすぐにユリエの元に行く事になる。」


『もう…そんなこと言わず、私の分まで天寿をまっとうしてきてください。』


ブラックジョークを言うエイゾウ老人に、困り顔のユリエさん。


「まぁ、反射神経とか全然衰えてないみたいでしたし、まだまだ生きそうな気がしますけどね。」


「おお、これは一本取られたわい!」


ははは、と笑い合う2人と一体。




ーーーーー数時間後。ホムラはエイゾウ老人に別れを告げ、ユリエさんの案内の元、野宿のテントへと戻ってきた。


『……さて。ではそろそろ…勇者様、本当にお世話になりました。』


「こちらこそ。最初は戸惑ったけど、中々良い経験だった気がします。」


お互いにお礼の言葉を交わす、ホムラとユリエ。


『それでは、この身体から出て行きます。…しばらくは眠ったままだと思いますが、じきに目を覚ますと思います。どうかご心配なく。』


「色々ありがとうございます。」


『えぇ。…それでは、勇者様方の健闘をお祈りしています。さようなら…!』


「さようなら・・・!」


言葉を交わし終えると、ユウナの身体から何やらオーラが出て来て、天に昇っていく。

ハッキリとは見えないが、ユリエさんがユウナの身体から出ていったということだろう。



「・・・・・・えっ?」


やがて、オーラのようなものも見えなくなった・・・


その直前、勇者(ホムラ)は聴こえた気がした。

『ユウナをよろしくお願いします』という、ユリエさんの声を・・・


「……気のせい、かな…。」






そして、更に数時間経った朝。


「……う、うぅん…」


「ユウナ!」


ようやく、ユウナが目を覚ます。ユリエさんに取り憑かれた状態ではなく、ユウナ自身の意識を持って。


「……あれ?勇者様?おはよう……ございます……?すいません、なんか、寝る前の記憶が……」


当然だが、ユウナは幽霊騒動を何も知らない。騒動を通して、勇者(ホムラ)がちょっぴり成長したことも。


「ユウナ、昨日はごめんな。ちょっとデリカシーが無さすぎた。いくら仲良くても、何言っても良いワケじゃないのに…俺はそんな事にも気付かなかった。本当に、すまなかった。」


「えっ?あっ、そっか…そういえば喧嘩しちゃったんでしたっけ…」


昨日の、取り憑かれる直前までの事を思い出したユウナ。


「……えーっと、昨日の事はあんまり覚えてないんですけど……思えば、私もちょっとキツく当たり過ぎた気がします。ご飯抜きとか、流石にやり過ぎでしたよね。…すいませんでした。」


「ご飯抜き?…そういや俺…結局、昨日の夜から何も食べてな・・・・・・あっ。」


言うや否や、勇者(ホムラ)の腹が音を立てた。


「…ぷっ!あははっ!勇者様のお腹が…!」


「おい!笑うなよ!誰のせいだと思って…!」


笑うユウナに不満気なホムラ。


「うふふっ、ごめんなさい。朝食、すぐにお作りしますね。」


「ユウナ…」


ユウナがご飯を作ってくれる。

ホムラにとって当たり前の事だったのに、昨日の事があったからか、何故か凄く嬉しく思えた。


「ちゃんと心を込めて作るので、それで昨日の事は水に流しましょう。」


「ユウナ…」


それは、いわゆる「仲直りの合図」だった。


「勇者様には魔王を倒してもらわないとなんですから、しっかり力を付けてもらわないとですもんね。

私も、その時までは何処までもお供するので……改めて、よろしくお願いしますね。勇者様っ!」


「・・・あぁ!よろしくな!!」



ーーーーーこうしてまた、ホムラとユウナの「いつもの日常」が始まるのだった・・・。

ということで、3回に渡ってお送りした喧嘩&幽霊回は以上となります。


ですが、ホムラとユウナの物語はまだまだ始まったばかり!そろそろパト村にも行けそうな予感です!


そんなわけで、次回もお楽しみに!

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