第5話 そして日が昇る~出会いの日 後編~
勇者とユウナが出会って、それから。
「わたしはユウナ・・・鳴神悠菜といいます…!」
「!」
〜〜〜〜〜
(時間:現在)
「そういや、あの時は普通にフルネーム名乗ってたよな。」
「当時は、攻撃力がクソ雑魚過ぎて名前負けしてるなんて知らなかったので…」
「それもそうか…」
〜〜〜〜〜
(時間:出会いの日)
「そっか……ユウナっていうのか。俺は……名乗るまでもないか。」
「はいっ…!勇者様ですよね?存じています。」
「あぁ。壮行会、見に来てくれてたのかな?」
まぁ、だからこそ宿に泊まってるんだろうけど。今考えると、中々にアホな質問だ。
「は、はいっ…!あのっ…!」
俺の質問に応えた上で、何か言いたけげな様子の少女・・・ユウナ。
「何だ?」
「……先程は、ありがとうございましたっ…!わたし、勇者様がいなかったらどうなっていたか…!」
「あぁ……さっきは大変だったな。困るよな。大人って頑固な人が多くて。」
「い、いえ……その…それで、お礼がしたいんですけど…わたし、エクルの方から来ていて、今は大したものは持っていなくて・・・」
エクルとは、ユウナの家がある街のことである。王宮のあるボーベル程ではないが、中々に賑わっている街なんだそうだ。
…まぁ、この頃は訪れたことがなかったわけだが。
「いいよ、お礼なんて。今日のことは、宿でゆっくり眠って忘れちゃいな。」
「えっ?で、でも…!」
「じゃあ、俺は明日に備えて早く寝たいから。」
そう言い残して、ホムラは宿の中に消えていった。
「あっ・・・」
その場に残されたユウナは、1人立ち尽くす。
「勇者様・・・」
〜〜〜〜〜
(時間:現在)
「あの頃の勇者様は、本当にカッコよかったんですけどねぇ〜…」
「…おい。どういう意味だよ。」
「どういうって…そりゃもう、勇者様を深く知る程にクソボケだって分かって、もうどれだけ幻滅したことか…」
「お前、たまに本当に俺の事慕ってんのかってくらい酷いこと言うよな。」
酷いのは勇者様のクソボケっぷりです。
そう言いかけたが、怒られるのが目に見えているので、ユウナはグッと発言を堪えた。
「何だよ」
「何でもないです。」
ジト目で勇者様を見ていたユウナだが、ぷいっと目線を逸らす。
~~~~~
(時間:出会いの日…の次の日)
盗っ人騒動の翌日・・・
「さて、朝食も食べ終わったし、そろそろ・・・」
「勇者様!」
宿を出ようとしたホムラだが、ふと誰かに呼び止められる。
「君は、昨日の……確か、ユウナ…だっけ?」
「はい、ユウナです。良かった…まだ出発される前だったんですね。」
それは、昨日助けた少女・・・ユウナだった。
「俺に何か?」
「お父さんが、一言お礼を言いたいと・・・」
「お父さん?」
そういえば、昨日部屋で酔いつぶれてるとか言ってたっけ。
「はい。お父さん、勇者様いたよ!」
ユウナが部屋の外に声を掛ける。
すると、すぐに優しそうな風貌のおじさんが部屋に入ってきた。
「おぉ、勇者様!わざわざ引き留めてしまって申し訳ありません。」
「あ、いえ・・・あなたがユウナの?」
「えぇ。ユウナの父で鳴神光久といいます。よろしくお願いします。」
ミツヒサと名乗ったユウナの父は、丁寧にお辞儀をして、続ける。
「昨日は、娘を助けてくださったそうで…今朝、娘から話を聞いて、是非一言お礼をと思いましてね。大切な娘を守ってくださり、本当にありがとうございました。」
再度、深くお辞儀をするミツヒサさん。
「そんな…大袈裟ですよ。俺はただ、彼女が盗っ人扱いされてたのを見逃せなかっただけで…」
「大袈裟なんてことはありません。親にとって、我が子程大切なものはありませんから…勇者様はお若いですし、今は分からないかもしれませんが・・・」
謙遜するホムラに対し、にこやかに答えるユウナのお父さん。
「そう…ですか。じゃあ、お礼の言葉は素直に受け取っておきます。」
ホムラはそう返し、ちらっと窓の方を見やる。
「大分、日が昇ってきたみたいですね。俺、そろそろいこうと思います。」
「おぉ、そうですか。引き留めてしまって申し訳ありませんでした。国の救世主として、ご武運を祈っていますよ。」
「ありがとうございます。」
今度はホムラがミツヒサさんに頭を下げると、ユウナの方に目を向ける。
ユウナはお父さんが来た辺りから、ずっと黙っているのだ。
「………………」
「どうした?ユウナも勇者様に何か一言無いのかい?」
「………………」
何か言いたそうにはしているが、ユウナは中々口を開かない。
「ユウナ。」
「いいですよ。そんな無理に言わせなくても。気持ちだけで十分です。それじゃあ・・・」
あまり長居してもいられない。
そう思って部屋から出ようとするホムラだったが・・・
「ま、待ってください…!」
「!」
ユウナが両手でホムラの手を掴むと同時に、ようやく重い口を開いた。
「ユウナ…?」
「あの、昨日も言いましたけど…わたしの家、エクルにあるんです。…その、やっぱり何かお礼がしたいので……近くに来たらで構いません。是非、エクルに立ち寄って頂けたら…!」
「こら、ユウナ。そんなお願い、勇者様が困るだろう?」
それは、一人の少女のわがままだった。
助けてもらった勇者様にどうしてもお礼がしたい。そんな乙女のわがまま・・・
お父さんは、そんな娘を止めようとしているが…ホムラの答えは、既に決まっていた。
「良いよ。ユウナ。」
「勇者様…!」
「えっ…?勇者様、しかし…」
「別に、魔王が復活したからといって、今すぐ国がどうこうなるわけじゃないですし…ちょっと寄り道するくらい許されるでしょう。それにーーーーー」
ホムラは手に目線を下げ、続ける。
「ーーーーーこんな、健気なことされたら……断れないじゃないですか…。」
「あっ……///」
自分が勇者様の手を掴み続けていたことに気付いたユウナ。
「す、すいませんっ……!」
慌てて手を離し、顔を赤らめながら彼女は言った。
「いいよいいよ。ユウナみたいな可愛い娘にこんなことしてもらえるなら、勇者冥利に尽きるってもんだ。」
「や、やめてくださいよ……!///」
ユウナの顔がさらに真っ赤になった。
本当に可愛いな。こんなに可愛い娘さんなら、ミツヒサさんが俺が彼女を助けたことに深く感謝するのも分かるってものだ。
~~~~~
(時間:現在)
「いやー……あの時のユウナは本当に可愛かったよなぁ……」
「だから、やめてくださいよぉ〜…///」
ユウナの顔が赤くなった。
いっつもこうだったら、本当に可愛いやつなんだけどなぁ…
「……どういう意味ですか、勇者様。」
頬を紅潮させたまま、ジト目でこちらを睨みつけるユウナ。
「いや、何かと俺に容赦ない言葉浴びせてくるし、すぐ暴力に頼るし……まぁ、痛くないけど。」
「もうっ!またそんなことを…!いっつも一言余計なんですよ、勇者様〜!」
ぽかぽか!
ほら、すぐ暴力に頼る。もちろん痛くないけど。
どうしてこうなったんだか……っていうのは、「勇者様が言わないでください」と返されるのが目に見えてるので、声には出さなかったが。
〜〜〜〜〜
(時間:出会いの日の次の日)
「……それじゃあ、今度こそ俺行きますんで。」
「えぇ。娘が色々お世話になりました。どうかお気を付けて。」
「勇者様!お怪我のないよう、お気を付けくださいね。」
ユウナの故郷にいく約束を交わしたのち、ホムラは鳴神親子に見送られ、旅立とうとしていた。
「ありがとうございます。必ず魔王軍……そして魔王をこの手で倒してやりますよ。」
「えぇ。ご武運をお祈りしています。」
「頑張ってくださいね。勇者様。それと・・・」
不安そうな顔をみせるユウナ。
「分かってる。近くまで行ったら、必ず立ち寄るよ。エクルに…ね。」
ホムラがそう宣言すると、ユウナの顔がぱあっと明るくなる。
「きっとですよ!勇者様!」
「あぁ。きっと。・・・じゃあ、そろそろ…」
「えぇ。勇者様の旅路が良きものになるよう、祈っています。」
「エクルでお待ちしています。またお会いしましょうね。勇者様!」
ホムラは名残惜しむように2人の顔をそれぞれ見ると、背中を向けて、言った。
「えぇ。ーーーーーまた、エクルで・・・!」
〜〜〜〜〜
(時間:現在)
「・・・というのが、わたしと勇者様が初めてお会いした時のお話で……あれ?勇者様?」
ふと気付くと、焚き火の向こう側に座っていたハズの勇者様がいなくなっていた。ついさっきまではいたのに・・・
「ちょっ、勇者様!いつの間にテントに入ったんですか!?後ちょっとで話が終わるところだったのに、何故待てないんですか~!」
勇者様のテントに向かって文句を言うが、返事が返ってくる訳もなく。
「はぁ、もう…いいや。わたしも寝よう…」
疲れた様子で焚き火を消し、寝る準備を始めるユウナだった・・・
「・・・・・・」
ところ変わって、テントの中の勇者様・・・
寝袋の中のホムラは、一人考えていた・・・
(初めて会った時のこと・・・一見すると、どこにでもありそうな、男が女を助けたエピソード・・・)
(……でも、今でもどうしても分からない、不可解な謎が残っている・・・)
(……あの夜、ユウナはどうして貯蔵庫にいたのか・・・)
(酒しかないあの場所に、ユウナが行く理由なんて無かったハズだ・・・)
(ーーーーーそれに、ユウナだけじゃない。ユウナの親父さんも不可解だ。)
(彼は娘のユウナの事をかなり大切に思っている様子だった。…にも関わらず、あの夜は酔いつぶれてしまって、ユウナを一人にした挙句、騒ぎが起きても姿を現すことはなかった…。)
(彼が本当に酔いつぶれていたならそれも仕方ないのかもしれない。でも・・・)
(その割には、翌日…俺と会った時は普通に会話が出来てたし、酔いつぶれてたって割には二日酔いをしている様子は無かったし、酒臭さもまったく無かった。)
(少なくとも、昨日酔いつぶれたハズの人には思えなかった・・・)
一体何故なのか…。
実は、鳴神親子は何か隠している事があるんじゃないか。
あの日、俺がエクルに寄るのを決めたのも、それらを探ることこそが本当の理由だった。
そして、一度エクルに行った時…俺は疑問点を親子に直接ぶつけてみたワケだが・・・
その結果どうなったかは、またおいおい話していくことにしよう。
今はまだ、話せない。今はまだ、これからの為に、力を蓄える時間だから…。
とりあえずここまで。
ここまで読んでくださった方なら分かると思いますが、これはまだ「はじまり」に過ぎません(まだ5話だしそれはそう)
この話の続きは、エクルでの再会をホムラが語ってくれる時に、また。
次回はコメディ感が若干帰ってきます(若干かい)
ということで、また次回。