第4話 月明かりの夜に〜出会いの日 前編〜
ということで(?)出会いのお話。
「はい、勇者様。ご飯出来ましたよ。」
わたしは小鍋で作ったシチューを器に分けて、勇者様に渡す。
「あぁ、ユウナ。いつもありがとうな。」
「いいですよ、お礼なんて。勇者様だっていつも火起こししてくれてるじゃないですか。」
「まぁ、料理に比べればなんてことないし。これくらいはな…」
わたしがお供する前は一人旅だっただけあって、勇者様も少しは料理が出来るそうです。
わたしには「自信ないから」とか言って作ってくれないんですけどね。1回くらい食べてみたいんだけどなぁ…
「まぁ、大剣使えたら火起こしももっと楽なんだけどなぁ…」
「…大惨事になりますよ?」
ブラックジョークのつもりなんでしょうか。テントとかの道具諸共全部燃えそうなので、本当にやめてくださいよ?勇者様。
「いや、流石に冗談だけど……おっ!今日のも上手い!」
シチューを一口食べて、勇者様がそう言いました。
「うふふっ…ありがとうございます。」
勇者様は思ったことをそのまま口に出すタイプなので、料理の感想も嘘偽りの無い純粋なもの。なので、勇者様に褒めて頂けると自信になりますね。
「本当にユウナって料理上手いよな。俺と年変わらないのに…」
「……小さい頃から、身体の弱いお母さんの代わりに作ってたので…」
「……あっ、すまん…。」
「…大丈夫ですよ。もう亡くなったのは10年も前の話ですから。」
そう。お母さんは昔からあまり身体が丈夫では無かったそうですけど、わたしを産んだ直後に体調がかなり悪化して・・・
わたしが7才くらいの時。ようやく料理のスキルも上がってきたってところで亡くなってしまったんです。
それから10年程が経ちましたけど、家のことはずっとわたしがやってたので…だから料理をはじめ、家事全般をこなせるワケですね。
「……そっか。初めて会った時も、お父さんしかいないのが気になってたんだけど…あの時は、もう…?」
「……はい。もうとっくに…」
「そっか…」
ばつの悪そうな顔をする勇者様。
別に、気にしなくていいんですけど……こういう時は、話題を転換させましょうか。
「……初めて会った時、ですか…」
物思いにふけるってこんな感じなんでしょうか。何となく夜空を見上げるわたし。
「……あっ!満月ですよ。勇者様!」
「満月か……そういや、初めて会ったあの時も、満月の綺麗な夜だったよな。」
「そうですね…お父さんは酔い潰れてたので、たまたま勇者様が来て下さらなかったら、どうなってたか…」
「ははっ、確かに。ちょっとでも俺が来るの遅かったら大騒ぎになってたよな。」
そう言って笑う勇者様。
「笑わないでくださいよ〜!こっちは本気で大変なことになるところだったんですからね!」
「分かってるよ。…でも、運命的だよな。あの日は、俺にとっても『はじまり』の日だったワケで…」
「そうですね。わたしも勇者様達の壮行会が無かったらボーベルに行ったりしませんでしたから。」
・・・そう。それは勇者様が国王様から招集を受けて、勇者様になった、その日の夜のことでした…。
「ふー・・・大分食べたり飲んだり騒いだりで、流石に疲れたな…」
「にしても俺が勇者なんて、未だに実感湧かないな…」
「…いや。任命されたからには魔王の討伐目指して頑張らないとだよな!よし、今日は宿で早く寝て、明日に備えるか!」
「こら!待て!!」
「あっ!おい!宿の外に出るぞ!!」
「早く捕まえろ!!」
「・・・んっ?何だ?」
「はぁ、はぁ・・・きゃっ!?」
「うわっ!?」
ドシーン!とSEが出そうな勢いで、ホムラは突然宿から飛び出してきた少女とぶつかった。
「いたた…」
「なんだよ、いきなり…」
「いたぞ!そこで倒れてる!」
「あっ…!」
「えっ…?」
「よし!捕まえたぞ!」
少女は、宿から出てきた3人の男に囲まれ、腕を掴まれる。
「きゃっ…!は、離してください!」
「離すもんか!もう逃がさんぞ!盗っ人め!」
「で、ですから!それは勘違いで…!」
「言い訳をするな!」
盗っ人?
よく分からないが、突然少女が飛び出してきたのには何か事情がありそうだ。
そう思ったホムラは、男達に話し掛ける。
「あの、何かあったんですか?」
「んっ?……おおっ!もしや、今日国王様に任命された勇者様ではないか?」
「えぇ、まぁ…」
幸か不幸か、ホムラの知名度は今日一日で急上昇していた。国を救うかもしれない勇者になったのだから、当然といえば当然なのだが。
「おおっ!やっぱりか!聞いてくれよ勇者様!コイツはな、宿にある酒を盗んだんだよ!」
「盗っ人を捕まえてくれるなんて、流石は勇者様だ!」
「いや、たまたま飛び出してきたその子とぶつかっただけなんですけど……それより、酒って?」
見たところ少女は手ぶらだし、酒瓶を隠し持っている感じはしない。気になった勇者はさらに問う。
「この宿には酒の貯蔵庫があるんだがな。先程確認したら、あるハズの数より酒が一本少なかったんだ!」
「何処かに落ちたのかと探していたら、貯蔵庫の入り口にコイツがいてな!」
「我々をみるなり逃げ出したから、きっとコイツが盗んだに違いないと思ってな!」
「……いや、突然目の前に3人も大の男が現れたら、普通女の子は怖くて逃げ出すと思いますけど……」
冷静に意見をするホムラ。…実際のところ、思ったままを口にしてるだけだったりするのだが。
「それに、見たところ彼女は酒瓶どころか何も持っていませんよ?」
「どうせ隠し持っているんだろう?んっ?しっかり『身体検査』しないとなぁ!?」
「ひっ…!?や、やめてください…!」
はぁ…と内心ため息をつくホムラ。どう見ても、『身体検査』にかこつけてやらしいことしようって手つきじゃないか。
流石に傍観するわけにもいかないので、ホムラは再び意見する。
「あの、それは流石にやめといた方が良いですよ?冤罪だった時に大変なことになりますから。」
「冤罪だと?そんなわけあるもんか!」
「何か冤罪だって根拠でもあるのかね?勇者様。」
「そうですね…」
少し考え、ホムラは言う。
「彼女、見たところ俺とそう変わらない年齢みたいですけど…もしかして、まだ酒が飲めない年齢なんじゃないですか?」
「あっ…!そ、そうです!わたし、まだ未成年で…!」
「「!!!」」
ホムラの推測に答える少女と、それに驚く男達。
「やっぱりね…なら彼女が盗っ人っていうのはおかしいですよ。酒が飲めない彼女に酒を盗む理由がありますか?」
「ぬ、ぬぅ…!親か誰かに頼まれたのかもしれんだろう!」
一度持たれた疑いは中々晴れないもの。男達はまだ彼女を疑っているようだ。
「そ、そうだ!親はどこにいる!?」
「お、親・・・えっと、お父さんは…部屋で酔いつぶれて、眠ってて…」
ばつが悪そうに答える少女。
これはまずいな。ホムラがそう思うと同時に、男達がまくしたてる。
「酔いつぶれて…そうか!盗んだ酒は父親が飲んだんだな!」
「おのれ!よくも勝手な真似を…!」
「ち、違います…!」
「待ってください!それはおかしいですよ。」
もちろん、ここまで関わっておいて放っておく選択肢はない。ホムラは反論にでる。
「何がおかしいんだ!勇者様!」
男達もイライラしてきたようで、若干語気が強くなっている。
ここは、「大きな矛盾点」をしっかり指摘する必要がありそうだ。
「だって、あなた達の主張によれば、彼女はたったいま酒を盗んでここまで逃げてきた・・・そのハズでしょう?」
「それがどうした?」
「だったら、どうしてたったいま盗まれたハズの酒で彼女のお父さんが酔いつぶれることが出来るんですか?」
「「!!!」」
はっとする男達。
「何故彼女が貯蔵庫にいたのかは分かりませんけど、彼女は盗っ人じゃありませんよ。分かったら離してあげてください。」
「むぅ…」
「あっ…」
若干不満そうながら、男は少女の腕を離す。
「しかし、本当に酒が一本無くなっているんだぞ?彼女じゃないなら、一体誰が…」
「そうですねぇ…」
ホムラは目線を上げて、呟く。
「例えば、こっそりこの場から逃げ出そうとしている、あの人とか・・・」
「!」
こっそりこの場から逃げ出そうとしていた男が、ビクッと肩を震わせる。
「加瀬!お前だったのか!?」
「ひいぃっ!?すいませんでしたー!!」
加瀬と呼ばれた男は、残り2人の男にあっさりと捕まり、連行されていった。
「まったく……人騒がせだな。謝罪も無しに行っちまって・・・」
「あ、あのっ・・・!」
ふと、ホムラと共にその場に残された少女に話し掛けられる。
「あぁ、君。大変だったな。えっと・・・」
「わたしはユウナ・・・鳴神悠菜といいます…!」
「!」
そう・・・これが……これこそが、わたしと勇者様の出会いだったのです…。
文字数を考慮して中途半端(?)なところで切らせて頂きました。すいません。
以下次回、ということで、次回もお楽しみに。




