第3話 パト村への道すがら
一話でやるべきじゃないのかっていう世界観の説明的な回。
「オラッ!!」
ズドーン!と激しい轟音と共に、炎と衝撃波が辺りに広がる。
「グガァ!」
呻き声と共に、モンスターが消滅する。
「ふぅ…まあ、この辺のモンスターならこんなもんだな。」
大剣片手に、「一仕事終えたぜ」と言わんばかりに息を吐く勇者様。
「お見事です!勇者様!」
それを傍目で見ていたわたし…女戦士・ユウナはぱちぱちと拍手をしつつ、勇者様を賞賛します。
「ユウナもこれくらいは出来るようになれよ。」
「うっ……精進します……」
そう、わたしは防御力なら誰にも負けない自信がありますが、攻撃力に関してはハッキリ言ってクソ雑魚。
それだけならまだしも、物理的なパワーも無いみたいで…ほら、さっきの拍手の効果音も、何故かひらがなで可愛らしい「ぱちぱち」になっています。
「一話に一回はメタ発言しないと気が済まないのか?」
…また口に出ていたようで、勇者様にツッコまれました。
「別に良いじゃないですか!勇者様!!」
「毎回ツッコむ方の身にもなれ!」
・・・えっと、勇者様。それはわたしの台詞なんですが…
クソボケ勇者様が変なことばっかり言うから、わたしが日頃どれだけ苦労しているか…
「お前が言うな」と言わんばかりに目線を向けると、「何だよ」と不貞腐れた様子の勇者様。
「・・・ところで、勇者様。」
「ん?何だ?」
「いえ、その勇者様の剣……いつ見ても、すっごく大きいなって。」
「………………。」
何故か黙る勇者様。
…あの、わたしが変な意味で言ったみたいになるので、何か喋ってもらっていいですか?
わたしはあくまで勇者様の武器である大剣の事を言っただけですからね?
「…あの、勇者様?」
「あぁ、すまん。ちょっと考え事をしてた。」
「考え事?」
まさか、本当に変な意味だと思ったんじゃないですよね?このクソボケ勇者様・・・
「あぁ。今まで、この大剣について触れたことあったかなって。」
「・・・あっ。忘れてました。」
「忘れてたって!おい!!俺メインキャラ…というか勇者だよな!?なんか扱い酷くないか!?」
それは勇者様があまりにもクソボケだからだと思いますが……あと、勇者様もメタ発言しまくりじゃないですか。
そんな勇者様はともかく…いい機会なので、改めてわたしたちの武器についてご紹介します。
わたしは前にも触れたことがありますが、この双剣が愛用の武器です。
二刀流で近接戦闘をこなせる他、雷の力を宿しているので、それを使っての遠距離攻撃が可能です。
…まぁ、攻撃力クソ雑魚のわたしにとっては宝の持ち腐れで、実際のところ静電気程度の力も出せないんですが…
そして、勇者様の武器がこちらの大剣です。
サーベルのような大きな剣で、一振りでそれはそれは恐ろしい火力が出るんです。
また、炎の力を宿しているので、衝撃波と共に炎を撒き散らす荒業も可能です。
ただし、重すぎるのが玉に瑕。勇者様はこの大剣を平気で振り回しますが、その分負担も大きいようで、戦闘が長引くと動きが鈍ることが多々あります。
また、重くて大きいが故にどうしても隙が出来やすいので、遠距離攻撃をしてくる相手だったり、複数で襲ってくるモンスター相手だとどうしても苦戦してしまうようです。
…まぁ、その場合は桁外れの防御力を持つわたしが盾になることで、その隙をカバーするんですけどね。
総じて、勇者様の武器は、強いは強いけれど使いこなすのが難しい、上級者向けの武器と言えるでしょう。
これをある程度自由に扱えてしまう勇者様は、勇者に選ばれただけあってかなり優秀な戦士なんですよ!実は。
…中身はただのクソボケ人間ですけどね。
「・・・と、説明はこんなところでしょうか。」
「そうだな。最後の方で余計なこと言ってた気がするけどな。」
何やら不満げな勇者様。
だって、勇者様がクソボケなのは揺るぎない事実じゃないですか。
「それより、パト村はまだなんですか?勇者様。」
「それよりって!おい!!まずクソボケを否定させろ!!」
えっ?クソボケを否定出来る要素があるとでも?
「……言っててもキリが無さそうだな。仕方ない…。」
火の玉ストレートが刺さったようで、勇者様は否定を諦めたようです。
「それで、パト村だけど……まだもうちょい掛かるな。まぁ、田舎の村だからな。大分辺鄙なところにあるんだよ。」
「あれ?でも、国王様にお呼ばれしてボーベルまで行ったんですよね?」
ボーベルとは、わたし達が魔王討伐を目標に冒険しているこの国で、一番栄えている街です。
国王様がお住みになられている王宮もボーベルにあるんです。
勇者様が勇者様になる際、国王様から招集を受けてボーベルまで行ったハズです。勇者様らが勇者様に任命される様は、わたしもボーベルまで行って見届けたので、そのハズなのですが・・・
「あぁ、あの時は国王様直々に迎えの者を遣わせてくださって、移動は歩きじゃなくて馬車だったからな。」
「へぇ…!馬車!それは良いですね!」
まさか、勇者になる前からそんな高待遇を受けていたなんて。
「まぁ、それでもパト村からボーベルまで、半日以上は掛かったけどな。」
そ、それでも半日以上ですか!?
「大分遠いんですね…」
「だな。歩きだと後2、3日掛かるかもしれないな…。」
「となると、またしばらく野宿ですか…」
そうなんです。この国ってかなり広大な土地を持っていて、村や街の間は、数分もあればいけてしまうところから、数日掛かってしまうところまで本当にピンキリなんです。
なので、すぐ近くに村や街があるなら宿に泊まりますが、そうでなければわたし達は野宿をするんです。
慣れれば意外と楽しいですよ。野宿。寝込みをその辺のモンスターに襲われても平気ですし。
「それはお前だけだろ…」
…そうでした。わたしが防御力桁外れなので平気なだけでした。
「でもごめんな。野宿の旅に飯作ってもらってて。」
「大丈夫ですよ!勇者様。好きでやってることですからっ!」
「えっ…」
何故かまたしても意味深な反応をする勇者様。
あの、別に勇者様が好きだなんて言ってないんですが。好きなのは料理ですよ。料理。
「あっ、いや、そうだよな……いやー、ユウナみたいなやつでも、好きって言葉が出るとドキッとするもんなんだなぁ…」
「ちょっ、勇者様!『わたしみたいなやつでも』ってどういうことですか!?」
わたしを異性として見ているかは、まあ好きにすればいいと思いますけど、それにしても失礼過ぎやしませんか!?
相変わらずのデリカシーの無さ……何故この勇者様が勇者になれたのか、わたしは理解に苦しみます。
「ユウナもユウナでそれは失礼じゃないか?」
「数秒前に自分が言ったこと思い出してみましょうか?」
いや、これはどう考えても勇者様のが失礼です。はい。
「そうは言うけどさ……ユウナだって、そんな俺の旅にこうして着いて来てくれてるじゃん?」
あ〜…それ言っちゃいますか?勇者様。でも勇者様、それって…
「勇者様が着いて来て欲しいって懇願したんじゃなかったですっけ?」
「でも、最終的にお供するって決めたのはユウナだろ?」
ああ言えばこう言う・・・まぁ、確かにその通りではあるんですけど・・・
・・・えっ?勇者様との出会いのお話ですか?
別にそんなに面白いものじゃないと思いますけど…
それでも聞きたい?
…分かりました。今から話すと長くなってしまうので、次話にでもゆっくりお話ししますね。
「誰に話してるんだよ。」
…勇者様。そこツッコミますか?
「それより勇者様。そろそろ日が暮れてきましたよ。」
「本当だ。いつの間に…そろそろ、テントを張る場所決めないとな。」
他愛もない会話をしているうちに、もう日が傾いてるなんて…本当、時間が経つのって早いですよね。
「……うん。この辺りでいいかな。暗くなる前にテント張っちゃおう。」
「はい。勇者様。」
リュックに詰めた道具を取り出し、勇者様と2人で手際良くテントを張っていきます。
勇者様と旅を始めてから何十回もやった作業なので、慣れたものです。
「…なぁ。ユウナってさ」
「何ですか?」
「いや…。憎まれ口叩くことも多いけど、なんだかんだ俺のこと慕ってくれてるよなって。」
「!」
勇者様なら気付いてますよね。やっぱり。
まぁ、呼び方は一貫して「勇者様」って敬意を表してますしね。
「当たり前じゃないですか。なんだかんだ言って、勇者様は勇者様なんですから。国王様から国の命運を任された、たった1人の勇者様なんですから。」
「…別に、魔王の討伐を依頼されたのは俺1人じゃないぞ?」
「それでも、わたしにとって勇者様は勇者様ただ1人です。」
「ユウナ・・・」
嬉しそうな、でもどこかくすぐったそうな表情を浮かべる勇者様。
わたし、これでも勇者様のことは深く信頼してるんですからね。
まだまだ、全然終わりの見えない、果てしない旅ですけど・・・
魔王を倒す、その日まで。どこまでも着いていくので、よろしくお願いしますね。勇者様っ!
【to be continued・・・】
「…なんか、打ち切りみたいな終わり方だな。」
「ちょっ…!縁起でもないこと言わないでください!勇者様っ!!」
※まだまだ連載続けます。
第3話、お読み頂きありがとうございました。
コメディ要素減ってる気がしますが、ご安心ください。裏で書いてる4話・5話では更に減ります(ぇ
6話辺りからまた増えると思うので、しばらくは真面目なストーリーをお楽しみください。…といった辺りで、また次回。それでは。