第九十五話 球場3
その後は、両軍合わせて二ヒットしか出ないシンプルな試合展開ののち、九回に入った。九回表、相手チームの最後の攻撃だ。
「優斗くん。あと三人ですよ」
「みたいだな」
「抑えの浪川選手はいいピッチングをするらしいです」
「そうか。なら安心だな」
そしていきなり戦闘バッターにフォアボールを与える。
「おい、これ大丈夫なのか?」
「まあ、一人くらい大丈夫でしょう。次のバッターを併殺に抑えて試合終了です!」
そして、三番バッターに二塁打を喰らって、ノーアウト一二塁となる。
「おい……莉奈」
(点差は二点。一点しか余裕がないはずだ)
「まあ、劇場型として有名ですから。何とか抑えてくれるでしょう」
「とは言っても次、吉村だぞ」
そう、次は相手の主砲だ。
「大丈夫です。……きっと敬遠しますから」
そしてその莉奈の言葉通り、吉村に対してはきわどいところを攻めあっさりとフォアボールとなった。これでノーアウト満塁。絶望と言ってもいいほどの状況だ。ワンヒットで同点。もし長打が出ればその時点でこちらのチームの負けとなる可能性がある。
「やばいだろこれ」
「でも応援しましょう! きっとこんな逆境抑えられるはずです」
そして、浪川は三連続ボール球を投げた。もしあと一つボール球を出せば失点してしまうことになる。
「やばくね」
「やばいですね」
そして浪川は次のボールを投げる。スライダーだ。そのボールに引っ掛けて、ごろとなった。これで一アウト一三塁だ。
「これピンチ終わってないじゃねえか。点取られたし」
「ですね。でも、ここから併殺で試合終了ですよ。きっと」
その莉奈の声を聴いて、優斗もしっかりと試合を見る。
相手の球団のファンが少人数ながらも応援歌を歌っており、優斗には少し耳障りに思ってきた。
「これどうにかできないのか?」
優斗はそう莉奈に訊くが、莉奈は「我慢してください」と返すばかりだ。
そして試合の方は、浪川が六番バッターに初球を投げる。ボール球だ。それを見て優斗は「ああ」と反応する。まだピンチは終わっていないのだ。
そして二球目もボール。
「やばくねえか? 今日何回目かわからないけど」
「まあ、でも。この緊張感も現地観戦の醍醐味です」
「お前したことあるのか?」
「もちろんさっき言った通りないですよ」
根拠がないな。と、優斗は思った。
そして三球目、バッターは打った。だが、レフト方向に力のない打球が飛んでいくだけだった。そしてその球をレフトが取って瞬間に三塁ランナーは走ろうとするが、思ったよりも早くホームに帰ってきそうなので、すぐに三塁へと戻った。
「ふう、あと一アウトですよ」
「みたいだな」
そして次のバッター。初球打ちをしてきた。その球はぐんぐんと伸びていき、スタンドに入りそうになる。優斗はそれを見て目をつぶるが、「優斗くん勝ちましたよ!」という莉奈の声を聞いて、目を開ける。すると、外野手が見事にボールをキャッチしていた。
「ふう、死ぬかと思った」
「私もです」
「でも……やったな莉奈!」
「ええ!」
そして優斗たちはハイタッチした。こちらのチームのヒット数は五。そうこれで勝てたのは奇跡だと言わんばかりのヒット数だ。だが、どんな結果であろうと、勝ちは勝ちだ。二人は抱きしめ合った。
ちなみに笹村は八回一失点11奪三振の活躍で西條と同様にお立ち台に上がっていた。笹村があと少しで浪川に試合壊されそうになっていた的なことを冗談で言ったので優斗たちは笑った。




