第九十三話 球場
食後、早速スタジアムに入った。今の時間は一時一五分。時間は少し早いが、スタジアムのことはよくわからない俺たちには、必要な時間だ。
「それでまずは、球場飯を買いましょう」
「おう、と言ってもどういうものなのかよく知らないんだがな」
「見たらすぐわかりますよ。あ、これ」
「……それは?」
「これは、岸部選手のハンバーガーですね」
「これは……岸部選手は何か関係あるのか?」
「なさそうですね。よくわかりませんけど」
これは選手イメージメニューと言った感じなのか?
「まあ、でもみてください。選手が好きな食べ物を出してるみたいなことを書いてありますから、関係ないってことはなさそうですよ」
「確かにな」
そして進んでいく。流石に食後にこんなに重いご飯は食べられない。もしかしたらもう少し軽いご飯を食べたらよかったかもしれない。そして近くにあった小さなお弁当を買って、席へと進む。
周りに何やら選手のユニフォームを着ているおじさんが多い。俺、私服なんだが、そう言う気持ちで莉奈を見ると、「もちろんありますよ!」と言って、ユニフォームを二つ取り出してきた。流石は莉奈、準備はよろしいようだ。
そして俺たちは席に座り、試合開始を待つ。とはいえ、この時間ってどうしたらいいんだ? マジでわからな過ぎて、困り果てている。
すると、俺がそんな状況なのか把握した後、隣から莉奈が「喋りましょう」と言った。
「喋ると言ってもこの場合何をしゃべればいいんだ?」
実際周りは、試合に備えて熱気がもうあふれている。正直言ってこの状況で変なことを言ったら気まずくなってしまう。
この状況だと野球のことについて話したらいいのだろうが、俺に野球知識がほとんどない。野球選手の名も岸部と、あと、どこのチームか忘れたが、なんか、ホームラン撃ちまくっている吉村選手くらいしか知らない。それも、ニュースでたまたま見たくらいのことだ。
ここは莉奈に教えを乞うしかないのかなと思う。
「あ、そうだ。一ついい?」
「なんだ?」
「今日の先発ピッチャー、この子みたい」
「ん?」
そこには、笹村球太という名前があった。最速百六十六キロを投げる豪速球ピッチャーらしい。よく考えたらこの選手も見たことがあるような気がする。
「私たちラッキーだね。日本一かもしれないピッチャーを見れるかもしれないんだから」
「まあ確かにそれはラッキーかもな」
それに、豪速球ピッチャー、野球に対して無知な俺でもかっこよく感じる響きだ。これは野球初心者でも楽しめるかもしれない。
「それとやっぱり四番の西條ですかね。確か今年はすでに一七本塁打うってて、プロ初の二〇本塁打行けるかどうかっていう感じなんですよ。まだ二三歳ということもありますし、将来に期待できるところだと思います」
「なるほど」
二〇発がすごいのかすごくないのかわからない。確か吉村っていう人は五九本塁打を打ってたと言っていたはず、そこから考えると、大したことじゃない気がするが……。
「それってどれくらい凄いんだ?」
「それは……まあ、そこそこです。チームの四番としてはいまいちですけど、選手的に言えば、かなりいい感じですね」
やっぱりそこまで大したことがないのか。
「でも、確か得点圏の打率が三割五分売ってるので、四番としてふさわしいと思いますよ。打点稼ぎの西條と追われてますし」
「打点稼ぎ? 打点って?」
「ああ、獲得した点のことですよ」
「なるほどな」
「そして岸部選手。昨年けがの影響で夏場以降かなり成績が下したとはいえ、二割八分九厘打っているので、期待の若手だと思います。去年ケガする前は、三割二分打って首位打者争いをしていたので」
「首位打者って、一番打率が高い選手に贈られるやつか?」
「そうですね。だから、すごい選手なんですよ!」
「……なんで莉奈がどや顔するんだよ」
莉奈がすごいわけではないのに。
「だって、良いじゃないですか」
「てかさ、莉奈ってにわかファンなんだろ? よく知ってるなあ」
「ふふ、ちゃんと調べましたので」
そう言う莉奈の手には、スポーツ配信アプリが入っていた、通称野球ナビと言うらしい。
「これで調べました」
そしてその後も他の選手の話も聞いた。
一番の萩尾、今年三二歳を迎えるリードオブマン(リードオブマンがよくわからない)で、足がかなり速く、昨季三三盗塁をしているらしい。
そして三番に座っている外国人選手のランドリーマルス、打率二割五分ながら今二五本塁打を打っている強打の選手らしい。つまりさっき言っていた西條よりもこっちの方が上という事か。
五番の、内木。六年前のドラフト一位で、トッププロスペクトらしい。調子にムラがあるが、二割七分一二本塁打を記録したことがあり、これからに期待の選手らしい。
そして六番三木谷、ショートを守っている選手で三年前にラスミトンから戦力外通告を受け、このランドリーズに来た選手だ。だが、今季二割六分と安定的な打率を残しているらしく、なかなかの成績で守備も堅守らしい。
そして七番山田、外野を守っており、堅守の俊足バッターらしい。打撃の確実性はないが、塁に出れば俊足を発揮して盗塁をすぐさま決めるらしい。
八番宮川、キャッチャーで、打撃はまだまだ未完成だが、その若さから重宝されているらしい。肩が強く、たまに独大アーチも放つ。
九番、前田センターを守っており、守備範囲が広い。これまでに何度も好プレーでチームを救っているらしい。
これがスターティングメンバーらしい。なるほど、独特なメンバーだ。とは言っても野球のことはあまりわからないが。
しかし、莉奈の説明を聞いていると、このチームはみんなで点を取りに行く、つまりチームプレイを重視しているチームらしい。なるほど、まあよく分からないが、地味なプレーが多いらしいからそれを投手の笹原が上手く楽しませてくれるだろうという事らしい。
そして試合が始まる。




