第九十二話 ミリーズモール
そして日曜日。
「今日の行き先は前から言っていた通り、内緒です」
と、言われ莉奈に連れられた。どこに行くのかもわからないまま、電車に乗る。せめて目的地を教えてくれたらいいのだが。まあ、元から、サプライズなのだから教えられないのだろうけれど。
俺にとって楽しい場所ならいいんだが。
「さて、今日はどこに行くでしょうか?」
「内緒なんだろ?」
サプライズだし。
「まあ内緒ですけど、クイズです」
「分かった」
と、少し考えるが、思い当たるものがない。電車に乗るという時点で多少遠出な気はするが、全く分からない。少しだけ考えて、
「もしかして、混浴か?」
と一つ考える。この前混浴に行きたいとか考えていたから可能性はある。それに莉奈だし。
「違いますよ。まあ、今度行きたいですけど」
違ったみたいだ。どこかのお寺や、城、果ては遊園地を考えたが、全部違うかった。
「まあでもそろそろつくのでわかると思いますけど」
「なるほど、じゃあ、その時を楽しみにしとくか」
そしてそれから五分程度歩いたところで、目的地が見えてきた。
「ミリーズモール?」
そう、ミリーズモールとはかなり大きいショッピングセンターで、ゲームセンター、映画館、100均、アニメショップ、本屋などなんでもござれの店だ。
「なるほど、ショッピンクか」
「えー優斗くん、本当にそう、思っているんですか?」
「え?」
「だって、それじゃあサプライズにはふさわしくないじゃないですか」
「いや、でも他には……」
そう言いかけた時に、一つ隣に大きな建物があることに気が付いた。いや、あそこなわけ……いや、莉奈のことだ。まさか?
「あそこに?」
そう指をさす。
「そうです! 正解です。私たちが行くのは、ここです」
そう、そこは静岡ランダリーズの本拠地、ミリーズスタジアムだった。
「……」
いや、野球はないだろ。俺、野球興味ねえというのに。
「その反応をされると思って行先伝えてなかったんですよ」
「いや、今からでも……」
「このチケットが無駄になりますよ?」
そう莉奈は二枚のチケットをぴらぴらと、見せてくる。
「くそ!!」
もう逃げ場はなくなった。完全なる俺の敗北だ。流石にチケットを無駄にするわけにはいかない。
「まあでも、試合開始までまだ三時間ありますし、まずは優斗くんと一緒に隣接ミリーズモールに行きたいです」
「お、おう」
そしてミリーズモールに歩みを進める。
そして早速向かった先は、ミリーズモールの三階、アニメショップだ。
「なぜここなんだ?」
莉奈に興味がある場所、にはあまり見えない。莉奈にはそういう趣味があるようには見えないのだが。
「実はですね、ここに私が興味があるグッズがあるんですよ」
「莉奈が興味あるやつ? というかそもそも莉奈ってこういうの興味あるタイプだっけ」
「ありますよ、そりゃあ。まず、私が気になっているのは、これですね」
「これは……」
それは、小説出身のアニメ作品だった。
「莉奈ってこういうのも読むんだっけ?」
莉奈が普段読んでいるのは、純文学とかだったはずだ。こういうWEB小説じゃないはずだ。前に莉奈はWEB小説は、小説とは認めていないと言っていたからな。
「読みませんけど、これだけは私呼んでるんですよ。WEB初とは思えないくらいの濃密な心理描写や状況描写、これこそ、まさに小説界の王ですよ」
「へー」
莉奈にそう思わせる様なやつがあるのか。
「そういえばさ、あの時に俺にそれ読ませたらよかったんじゃないか?」
莉奈の家で小説を読まされた時に、
「いえいえ、私が出したあのWEB小説も理解できなかったような人にこれが理解できないと思いまして」
「おい、それはあの作品に失礼じゃないのか?」
「失礼じゃありませんよ。ああいうのは、純文学を読む練習になると思ってますから」
「ふーん。で、そう言えば莉奈が欲しいやつはどれなんだ?」
「ふっふっふ、それはこれです!」
それは、『300年前の英雄。300年後の世界でも無双する』というタイトルだった。
「……これ?」
「ええ、これです」
タイトルから考えて、莉奈が一番嫌いそうなタイトルなのに。いや、まあ俺も、アニメは一周観たことはあるけどよ。
でもどう考えても莉奈が好きそうなやつじゃない。これが……莉奈が唯一読めたWEB小説だというのか? それに俺はラブコメが出てくると思ってたんだが、まさか異世界ファンタジー物とは。
「動揺してますね、優斗くん。まあ、無理もないと思います。私が一番嫌いなタイプのタイトルですから」
「そうだ。そう思っていたのになぜだ?」
「それはですね、この作品、てっきりただの俺つえー系と思いきや、結構主人公の無双だけじゃないんですよね。その敵側の葛藤や、味方側のキャラの困惑などなど、その全ての感情を全部丁寧に書いてるんです。これはただの小説じゃないと思うんです。だからこれだけは、小説と認めている訳なんですよ」
なるほどね、そういう事か。確かに今アニメの内容を考えるとそう言うシーンが多かった気がする。だからなのか。
「だから、ここら辺結構買おうと思います」
「なるほど」
莉奈がこんなに買うとはな。
「そう言えば優斗くん」
「何だ?」
「優斗くんは欲しいやつありますか? 今なら私が買ってあげますけど」
「いや、俺が買うわ」
流石にそこまで莉奈の世話になるわけにもいかない。というかそもそもほしいやつがないんだけどな。
「じゃあ、私は買ってきますので、優斗くんも選んでください」
「分かった」
とはいえ、欲しいやつはないんだけどな。そして数分間、ぶらぶらと見てると、莉奈が「買ってきました!」と言って戻ってきた。手にはレジ袋を持って。
「じゃあ、移動するか」
「優斗くんはいいんですか?」
「ああ。俺は別にほしいの無いからな」
そして移動した先、そこはレストランだった。
「ここで昼ご飯か?」
「ええ、そうですね。ここも予約してたんですよ?」
「そうか、ありがとうな。莉奈」
「ええ、どういたしまして」
そしてメニュー表を見る。するとどの料理も千円をゆうに超えている。
「大丈夫ですよ。私が奢りますんで」
「おう、センキュー」
まあ莉奈が奢ってくれるんだったら、結構食べても大丈夫か。
「あ、でも、球場飯とかもあるので、あまり食べ過ぎないでくださいね」
「球場飯?」
「はい、球場内でご飯が食べれるんですよ。だから控えめにお願いします」
「分かった」
そして俺はカルボナーラスパゲッティを選び、莉奈はグラタンを選んだ。
「さあ、これからの話をしましょう」
「野球観戦の話か?」
「ええ。楽しみですね」
「俺はさ、野球あまり興味ないから怖いんだけど」
「大丈夫ですって、サポートしてあげますから」
「そうはいっても、莉奈もあまりガチ勢ではないんだろ?」
「まあ、あったら見る感じですけどね。でも、野球解説は私に任せてください!!!」
強い自信だ。これなら大丈夫だろう。だが、心配なのは変わらない。
「大丈夫ですって、とりあえず行けば楽しめますから」
「ん、そう言えば莉奈って球場に行ったことあるのか?」
「無いですよ」
「じゃあ、だめじゃん」
「まあ、でも私は優斗くんと一緒に楽しみたいので」
そう、莉奈が笑顔で言った。
まあ、何とかなるか。
というわけで次回は野球観戦デートです。




