第五話 学校
学校
「おい寛人、おい寛人聞けよ」
「なんだ?彰人そんな焦って」
「優斗の件知ってるか?」
「知らないが、あいつに何かあったのか?」
「あいつ今朝か」
それを言い終わるか言い終わらないかどうかという時に莉奈を連れた優斗が部屋に入って来た。
「寛人、彰人もおはよ」
「お、おうおはよう、ところでなんで松崎さんが隣にいるんだ?」
寛人が聞いてきた。それを聞いて俺は少しニヤリとした。
「俺の彼女だ」
俺はカッコつけながらそう言った。人生で一度は言いたいセリフだ。
「は?」
「私の彼氏です」
莉奈が付け加えるように言った。
「ああ、そういうことか」
「どういうことか分かった?」
「ああ、彰人がさっき言っていたのはそういうことか」
「そうなんだよ、まさかあの優斗がだろ」
上原彰人が笑いながらそう言う、彼は寛人が中学生の時の友達だったらしく、そのまま友達の友達として友達になった。しかし、あの優斗という言い方が気になる。
「あの優斗がとはどういうことだよ」
「お前女友達なんていなかっただろ」
「そんなことを言ったらお前らもだろ」
「俺は本気出してないだけだ」
彰人がそう言う。俺はそれを聞いて嘘つけと言いたくなる。
「しかし、お前が彼女を連れてくるとは、俺も友達として誇らしいわ」
「そうか、そうか、誇らしいか」
「優斗くんも大貫さんも私に感謝してくださいね」
「ああ、感謝するよ。おかげでいい気分だ」
「優斗、悪役みたいなセリフを言うな」
「うるせえ寛人」
「しかし、俺みたいな彼女いない人に見せつけてくるなよ」
「お前ぐらいやったら作ろうと思ったら作れるだろ」
「無理だろ、お前は彼女ができたからそう思うだけだろ」
「そうだな、寛人もその気になれば告白の手紙十枚ぐらい届くんじゃねえか?」
実際話上手いし、顔も悪くないと思う。
「告白の手紙って?松崎さん告白の手紙を送ったの?」
彰人が興奮した様子で聞く。
「えーと、そういえば私二人のことよく知らないんですよね。教えていただけませんか?」
莉奈が不都合な事実をもみ消すようにして、会話を無理やり転換させた。
「いや、話を変えないでくれ、手紙ってなんだ?」
寛人が話をもとに戻す。
「ああ、それはさ、ラブレターぐらい彰人にも来るだろってことだよ」
莉奈をフォローする。もともと俺が失言したことが原因だしな。
「まあ、それはそうだけど今松崎さん話変えたよな」
寛人が痛いところをついてくる。
「い、いえそれは」
「もしかして、ラブレターを出したってことですか?」
彰人が追い打ちをかけてくる、莉奈は痛いところを突かれて少しだけ泣きかけている。正確に言えばラブレターではないのだが。
「ちょっとその話ストップな、莉奈が泣きそうになってんじゃねえか」
「そうですよ、もう追及するのはやめてください」
「莉奈もこう言っていることだし、もうやめろ」
「わかった、わかったよ」
寛人がおとなしく引き下がる。
「ありがとな」
「しかし、どういう感じで付き合ったんだ?」
寛人のやつ全然引き下がってねえじゃねえかよと心の中でつぶやく。
「私が告白したんです、昨日の放課後に」
莉奈は普通に答える。
「だから用事があるって言ってたわけか」
「ああ、そういうことだ、昨日の放課後に莉奈に呼び出されてな」
「ふーん、校舎裏に?」
「まあな」
「しかし、こんな漫画みたいなことが実際に起きるんだな、まさかお前が告白されるなんて」
「おい、そんなこと言うなよ」
「そうですよ、優斗君はかっこいいし、優しいし、面白いんですから」
「良かったな優斗。こんなかわいい彼女ができるなんてな、こんなかわいいと俺が惚れてしまうかもしれねえな」
寛人は何を言っているんだ。
「おい寛人、寝取りしちゃうのか?」
彰人が話に乗っかってきた。
「無駄ですよ、私はすでに優斗さんのことが好きなんですから」
「なるほど、俺のことは眼中にないってことか」
「いや、寛人もう少し粘ってみようぜ」
「彰人お前はなんで寝取らせようとしてんだよ」
二日目で彼女消滅とか悲しすぎる。
「いいじゃねえか」
「お前は人の心無いんか?」
「優斗くん、別に私はどんなに言いよられても優斗くんを捨てるつもりはありせんよ」
「おう、それはありがたい」
まあ別に俺は莉奈を奪われることが怖いわけじゃないんだけどな。莉奈が俺から離れるわけがないし。
「お前ら、別に俺は松崎さんを莉奈から奪おうという気はねえよ」
「え、そう言うわけじゃないんですか?」
まあ俺は寛人が完全に冗談で言っていたことは最初からわかっていたけどな。
「この馬鹿があおっているだけだろ」
そう言って寛人は彰人の髪の毛を引っ張る。
「なんだよ、お前が最初に言い出したんだろ」
「あんなの冗談に決まっているだろ」
「冗談かよ、俺は本気で言っていたと思ってたぜ」
「そうだったら俺はどんなくそ野郎なんだよ」
「まあそれもそうか」
「てかもえそろそろホームルーム始めるぞ」
話が盛り上がってる二人に向かって言った。
「あ、もうそんな時間か」
「優斗君またあとでね」
「またあとでな」
「うん」
「彰人もまたな」
「ああ」
ちなみに俺と寛人は隣同士の席なので移動する必要はない。
ホームルーム後
「寛人少し良いか?」
「ん、なんだ?」
「さっきの冗談はねえだろ、俺は最初からわかっていたからいいものの」
「コミュ力が高いと言ってくれ、それに彰人が話をややこしくしただけだしな」
「まあそれはそうだけどよ」
「俺は元々そんな引っ張るつもりは無かったしな」
「言い訳か?」
「本当だよ。それより松崎さん結構話しかけられてるぞ。お前と付き合ったおかげやな。あの子あんまりクラスメイトと話して無かっただろ」
莉奈たちの方を向く。確かにそこそこ話しかけられている。莉奈が少し困惑してるように見えるが、まあボッチって言ってたから良いことだろう。
「まあな。そんだけ女子にとって大事な話ということなのかな、恋バナは」
「男子にとっても大事だろ」
「まあそうだけどよ」
「そしてその彼氏がお前と言うな」
「まじで一週間前、いや二日前には考えてすらいなかったわ。本当に」
「そりゃそうだよお前、お前がモテるなんて考えて無かったもん」
「失礼なやつだな、俺だって毎日髪の毛には気を使ってるよ」
セットはそこそこちゃんとやってるし。
「髪の毛だけか?」
「うるさいな」
昼休み
「すまんな寛人、1人で食べてくれ」
「理由は?」
「言わなくてもわかるだろ」
そうだ、今日は初めて女子と、いや莉奈と昼ご飯を食べる日だ。
「そうだな、二人でイチャイチャしてこい」
「言い方考えろよ、仲良くぐらいで良くないか?」
「付き合ってるんだろ、事実じゃねえか」
「いや、ハードル上げないでくれよ」
俺にそんな勇気があるわけがない。
「いやカップルなんだろ、イチャイチャぐらいしてこい」
「まあそうだけどよ、じゃああっち行ってくる」
「おう、行ってこい」
「おう」
「ねえ、あれって彼氏さん」
「あ、はいそうです、昨日告白して」
莉奈は驚いて答えた。相手はクラスの中心と言っても過言では無い、大村莉央さんだからだ。他の女子はともかく彼女に話しかけられるとは思っていなかった。
「よく告白したね」
「彼のことは前から見てて、かっこいいと思ったいたので」
莉奈はビビりながら答える。優斗の前ではガンガン物言いする彼女だが、目の前にいる理央とも今まで一緒に会話をしたことがないし、人と普段喋らないので、緊張してしまう。そもそも莉奈はクラスメイトとはほとんど公的な会話しかしていないのだ。
「へー、確かに彼イケメンだよねー」
「はい、自慢の彼氏です!」
莉奈は自信満々に答える。莉奈は他人から優斗のことを褒められるのは単にうれしいのだ、もしかしたら自分が褒められるよりもうれしいかもしれない。
「でも今まであんまり喋らない子だと思ってたから、急に男子と登校していて驚いたよ」
「まあ我ながらよく行動に移せたなと思います」
我ながらということを言ったが、事実何度も告白しようと努力していたのだ。寛人が学校を休んでいるときや、寛人が席を離れているときなどに。
しかし、過去の事もあり、何回も逃げてしまったのだ。だから昨日行動に移せたことや、優斗と話せたこと、優斗の家に行けたことは彼女にとって大きな意味を持つものであった。
「まあ告白って勇気あるからねー、私も今まで七回ぐらい告白したことあるけど、それでも勇気いるもんね」
「はい、緊張しました」
「そうだよねー」
「お待たせ」
弁当箱を持って莉奈の前に来た。会話の最中に近づいたものだから、なんとなく気まずい。
「あ、彼氏さんの登場?」
「はい、私の彼氏の優斗さんです」
「じゃあ邪魔者は消えるとしましょうかねー」
そう言って俺が近づくと、理央は消えていった、俺としては莉奈が学校でほかの人と話しているのを見て少しだけほほえましくなった。彼女はいわゆるクラスの中心だ、莉奈もその彼女と友達になれればクラスに友達が増えると思う。
「どうだったんだ?今まであの人と話してるところなんて見たことないから」
俺は聞く、遠目から見ていた感じではいい感じだったようには見えるが。
「緊張しました」
「そりゃな」
「でもいい人でした」
「それは良かった」
「ところでどこで食べます?」
「そうだなー、まあ空いてるしここでいいんじゃねえか」
そこには二つ空き席があった。おそらく食堂とかに行った人の席だろう。
「はい!」
「とはいえ、何を話したらいいんかわからないんだよな、彼女なんて出来たことないからさ」
席に座り、弁当箱を広げると緊張してきた。
「まあ、友達みたいな会話でいいんじゃないですか?」
「まあ、そうなんだけど、なんかこうカップルらしいことをした方がいいのかっていうことなんだよな」
「あーんします?」
「え!?」
莉奈が大胆な提案をしてきた。その提案に対してびっくりした。そういうことは俺にとっちゃ漫画の話だ。
「いや恋人らしいことってこう言うことなのかなって」
「まあそうだけどよ、早すぎないか」
「早すぎるんですか?」
「そりゃそうだろ、まだ照れて無理だわ」
「そうですか、なら」
そういい莉奈は俺の口に卵焼きを無理やりぶち込む。
「にゃにをするんだ」
びっくりした。
「だってしたかったんですもん、優斗君とこういうこと」
「段階があるだろ段階が」
「じゃあこれいやですか?」
「いやじゃないけどよ、恥ずかしいんだよ」
「朝手をつないだのに?」
「それとこれは違うんだよ」
流石にあーんと手を繋ぐではハードルが違いすぎる。
「そうですか」
「だからもうちょっと仲良くなってからな」
「仲良くって何ですか?一応恋人でしょ」
「まあそうだけどよ」
「じゃあいいじゃないですか」
「なあ」
「ん?」
「莉奈って思ってたよりも積極的だな」
一昨日までは休み時間ところが、一日中人とは話していなかったのに。
「当たり前じゃないですか、せっかく好きな人に告白をOKしてもらえたのにやりたいことをやっていかないと」
「そうか」
「だからあーんをしましょう」
「わかったよ、ならするか、あーんを」
「はい!」
「じゃあまずは俺から、あーん」
莉奈はぱくっとウインナーを口にくわえた。
「おいしいけれど恥ずかしいですねこれは」
「だろ、俺の気持ちを思い知ったか」
「思い知りましたよ、じゃあ今度は私があーんしますね」
「お、おう」
「あーん」
そして莉奈は二つ目の卵焼きを俺の口に運び、俺がその卵焼きを食べた。
「おいしいな」
「反応なしですか?」
「なんか言ったら恥ずかしいし」
そもそも照れて、反応するしないの問題じゃない。照れを隠すのが精一杯だ。
「そうですか。なんか楽しいですね」
「そうかな、なんか普通に食べた方が美味しくないか?」
「空気を読めないんですか?」
「え?」
「こういうのはするのがいいんですよ、それに美味しいと考えたら美味しいはずですし」
「でもこんな大勢の人がいる中でしたら絶対恥ずかしさの方が勝つわ」
「まあそうですよね、あとで再チャレンジしましょう」
「またするのか」
俺軽いため息をつく。
「嫌なんですか?」
「それはわからん」
まあ本音は嫌なんだけど、恥ずかしいし。
「じゃあどうなんですか?」
「恥ずかしいだけだよ」
「じゃあ今度は二人きりでしましょう」
「お、おう」
「なんですか、その反応は」
「悪かったな、乗り気じゃなくて」
その後二人で笑った。