第五十六話 帰宅
少しずつ読み始める。最初に主人公の両親、幼馴染、知り合いのおばちゃん、兄弟姉妹、全員死ぬというくそ重い展開だった。そう言えば村を滅ぼされたとか言ってたな。タイトルでコメディかと思ってた。
これ普通に主人公闇落ちしてねえか? 鍛えたら復讐相手よりもはるかに強くなるんだろ、これじゃあマジでシリアス中のシリアスなんだが。
だが、まあさっきのラブコメよりは少し読みやすくはなったかな。当然莉奈の提示した小説よりも。
普通にこれだったら読めるかもしれない。とにかく一四話を目標として読み続けよう。そしたら少しだけ楽になるから。
「読み終わったぞ」
二五分後、何とか読み終わった。まだ主人公の初戦闘の途中だったんだけどなあ。もう少し読みたいが……
いや、まて俺は小説が苦手だったはずだ。もしかしたらこういうのだったらもしかしたら読めるのかな。
「良かったじゃないですか」
「ああ。まあな」
「じゃあ次はこれを」
と、例のサバイバルのやつを提示された。
「待てよ、俺にもう少しWEB小説で練習させろよ」
さすがにまだその小説は早い。戦闘描写が難しすぎる。
「いいじゃないですか。これ読むのも練習になるはずです」
「それは俺が無理になったやつだから」
「でも理論的にはそれと同じことでしょう」
「いや、違うって。これは専門用語多すぎてさあ。初心者には無理だよ」
「じゃあもうWEB小説読んでくださいよ。私はこの高貴な本となった小説を読みますから」
「ああ、分かった」
そして俺はスマホで、莉奈は神のやつで読む異質な読書会になった。高貴な本となったって、ネットで言ったら炎上する気しかしないワードなんだが。
「あ、」
莉奈が声を発した。
「明日私の家に泊まれるように頼んでおいてくださいね」
「分かってるよ。ただ、明日は小説だけじゃなくて遊ぼうぜ。なんかして」
二日連続小説は死ぬ。少なくとも俺の頭が。WEB小説ならまだましだが、それでもやはり、漫画のほうが面白いのは面白いのだ。それに漫画の方だったら頭からっぽで読めるしな。
「そうは言われましても私の家ゲーム機ないんですよ」
「逆になんでねえんだよ」
こんなにテレビとかがあるのに。
「だってゲームなんて時間の無駄ですし」
「この前は楽しく遊んでたと思うが」
「それは彼氏とやっているからですよ。一人だったらやりませんよ」
「そういや友達いないもんな」
「うるさいですね」
莉奈は明らかに不機嫌そうな顔を向ける。どうやら言われたくないことだったらしい。
「それでさあ、ゲームしないんなら普段何で遊んでるんだよ」
「小説読む。それ一択ですよ」
おお、さすが文系女子。
「ならその労力を勉強に少し回せ」
学生の本業は勉強だし。
「はーい」
「あとさあ、お前どれぐらい小説読んでんの?」
気になった。一日中小説を読むんだったらどれぐらい読めているのか気になるのが人間の性だ。
「三日で一冊ですね」
「ならむしろ勉強にそのやる気を回せよ」
恐ろしいほど読んでんじゃねえか。あれを三日で読むのは頭おかしい。
「でも小説読んでるおかげで現代文の小説はほぼ毎回満点ですよ。文学史も余裕ですし」
「なら国語以外も頑張れよ」
「嫌ですよ」
やはり勉強は嫌なんかい。
「そういやさあ」
「何ですか?」
「お前は小説を書こうとかは思わないのか?」
小説書くのは漫画を描くのとは違って読むのが重要だと聞いたことがある。
「思いませんよ。小説書くのって天才がやることじゃないですか。私には遠すぎます」
意外だな。WEB小説から小説に入り込む人が多いというイメージなんだが。
「でもWEB小説には担当いないんだろ」
「まあそうですけど」
「だったらなおさらだろ。それに俺はお前の小説だったら読むかもしれないぞ」
莉奈だったらこのワードに食いつく去ろう。それに読みたいのは事実だ、知り合いが書く小説は普通に読みたい。
「卑怯じゃないですか?」
「お前の小説を読みたいと思うのはおかしいことではないと思うが」
「じゃあどうしましょ、かな? 優斗くんがちゃんとこの小説を読み切ったら書いてあげましょうか?」
高度な心理戦が始まってるのか? これは。
「分かった。でも逆になってないか? 俺はこの小説は無理だけど、お前の小説なら読めるかもって言ってるだけだぞ。それがなんでお前の小説を読むためにこの小説を読むことになってるんだよ」
「分かりました。なら優斗くんのために完璧な小説書いときます」
「勉強も忘れずにな」
「それは無理ですね。絶対忘れます」
「おい!」
そして帰路に着いた。どんな小説を書いてくるんだろうか、もしかしたら最初みたいな超難しいやつかもしれねえな。そう思ったら現代風なとか条件をつけとけばよかったのだろうか。分からん。
まあ良いか、知ってる奴の小説だったら読めるだろう。知らんけど。
「待てよ」
莉奈のことだったら物凄いラブコメ書いてくる可能性もあるな。あのいちゃいちゃやろうだったらな。
そして電車でスマホで漫画を読みながら帰った。
「お兄ちゃんおかえり! 家デートどうだった?」
「まあ普通だな」
「普通って何よ! もっと感想言ってよ」
「うるさいなあ。あとでご飯の時にでも言ってやるから」
「やったー!」
相変わらずひょうきんな奴だ。
「そう言えば明日泊まりなんでしょ」
「ああ、そうだな」
少し前にメールで送ってた。
「寂しくなるね」
「俺はお前がいなくてせいせいするかもしれないぞ」
「ひど!」
「まあ明日出て行くのは俺の方だけどな」
「家出するみたいな感じで言わないでよ」
そう言って由依はほっぺを膨らます。
「悪かったって」
由依の機嫌をこれ以上そらさないように謝っておく。
「まあいいでしょう」
「だからなんでお前は毎回そんなに上から目線なんだよ」
「実際私の方が上だしー」
「お前なあ」
「二人ともそうケンカしないの」
母さんが間に入ってきた。
「俺はケンカしてねえ。じゃれあってるだけだ」
「私の心は結構傷ついてるんだけどね」
「どこがだよ」
「あ、そろそろご飯できるから二人とも運んで」
「分かった」




