第四十九話 世界史クイズ
「優斗くんはまた勉強ですか?」
「まあ、教科書読むだけだがな」
周りを見たら単語テストをしている人もいるようだ。
「じゃあ私も問題出しましょうか?」
「問題の出し合いか?」
「はい! なんかカップルらしいじゃありませんか」
「そうだな」
カップルらしいと言うよりは友達らしいと言う方が正しい気がするのだが。まあ言わないようにするか。
「じゃあ出します! ササン朝を建設した人物は誰ですか?」
なるほど、なかなか難しい問題だ。というかこれ覚えてないかもしれん。あそこら辺の名前はなんとなく覚えにくいのだ。
「うーんシャープールか?」
うろ覚えだが、そんな人がササン朝にいた気がする。
「ブブー! アルダシール一世です! ついでに言うとシャープールは皇帝ウァレリアヌスを捕虜にした人です」
なんかうざいな。別に世界史得意なわけでもあるまいし。
「そっちか」
とりあえず頷く。まあムカつくが、喧嘩がしたい訳ではない。
「じゃあ今度はこっちが問題出すわ」
「え?」
「こっちからは問題を出さないと誰が言ったんだ?」
「やられました」
「それじゃあ」と言って
「ローマ帝国の独裁官、なんて言うでしょうか」
そこまで難しく無い問題だ。さっきの莉奈が出した問題よりは何倍も簡単だろう。
「教科書読ませてください」
「ギブアップか?」
「ギスアップじゃありません、見るだけです!」
そう言って莉奈は教科書を読み始める。それをギブアップというと思うんだが。
「分かりました! ディクタトルですね! どうですか?」
「ああ、合ってる」
「やったー!」
カンニングしたからあってるの当たり前だろと言いたいけれど、莉奈の機嫌を取ってやる気を出させるためだ。俺のプライドなど捨ててやる。
「なら今度は私が! 十字軍を結成したのは誰ですか?」
「ウルバヌス二世だな」
「ブブー」
「は?」
「インノケンティウス三世でした」
「は? それは無いだろう」
てか知ってたのか。教科書にはウルバヌスしか書いてないのに。まあいいか。
「私は別にいつのとは言ってませんし」
「ずるいぞそれは」
「ずるくありませーん」
やばい殴りたい。本当にうざすぎるだろ。
「じゃあ俺が問題出すわ。ロシアの人でギリシャ正教に変えた人は誰だ?」
「え?」
「調べても良いぞ」
「いや、それには及びません。ズバリ答えはウラジーミル一世です!」
これも答え知ってたんかい。だが、ここでは終わらない。
「正解はロシア人の多数の人でした」
「は?」
「別に偉い人とは言ってないだろ。最初に変えた人とも言ってないし」
「ずるいです」
「仕返しだ」
「というかそろそろ移動しないとやばいのでは?」
「たしかにな」
次この教室は日本史の人が使う。つまり俺たちは世界史の教室に移動しないといけないわけだ。時間はもうテスト開始一五分前になっていた。
「移動しましょう」
「はーついたな」
もうすでに教室には七人ぐらいいた。
「今回も後ろ前ですね」
「そうだな」
「教科書読みますか」
「ん? 珍しくやる気だな」
「はい、優斗くんと同じことやってるのが良いので」
どういうことだよ。まあやってくれるならいいか。
「あ! 二人もう来てる」
そう理央が言う。
「ああ、遅かったな」
「今日は美里とかとの話が弾んで、時間を忘れてしまって」
「どんなことを話してたんですか?」
「まあ、自信あるかとか、放課後一緒に遊ぶ約束したりとかかな」
あの成績優秀な大村さんでも模試終わって無いのに遊ぶんだな。まあ遊んで休憩を入れないとダメというのはわかるが。
「へー、私は優斗くんと問題の出し合いしてましたよ!」
「なるほど。どんな問題出したの?」
「ササン朝の建設者は誰かとか」
「あーアルダシール?」
負けた。普通に悔しい。
「正解です!」
「まあ当然よねこれぐらい」
煽ってるように見えてしまうのは俺の心が汚れてるのかな?
「優斗くんは全然答えられなかったんですよ」
「おい、余計なことを言うな」
莉奈のやろう。
「てかお前が言えることじゃ無いと思うんだけど。なあ偏差値四十中盤!」
「バラさないでくださいよ!」
「最初に仕掛けたお前が悪い」
「喧嘩両成敗です!」
「ならお前も悪いじゃねえか」
「ふふ」
大村さんが笑った。
「なんか仲良いね」
「仲良いのか? これ。喧嘩してるだけだろ」
「仲良いと思うよ。見てて楽しいし」
「そうか? ところでさっき寛人と何を話していたんだ?」
そういえばだ。話していたのだ寛人と。
「ああ、別にそんな大したことは話して無いよ。テストどうだったかぐらい」
「とは言っても全然成績違いますよね」
「まあそうだけど、リスニングはなんかあってる気がするって言ってたよ」
「へー意外だな。あいつはできなかったっていうかと思ってたのに」
実際毎回リスニングの点数ボコボコだったし。
「まあ私には敵わないと思うけどね」
「理央さん凄いです」
「てかそろそろ始まるんじゃないか?」
「時間ギリギリまで話しましょうよ」
「テスト始めるぞー」
そう先生の声がする。
「どうやら時間切れみたいだな」
「じゃあね」
「ああ」
そしてテストが始まった。一問一問問題を丁寧に解いていく。
「テスト一日目しゅーりょー」
テストが終わるとすぐに莉奈が走ってきた。
「どうだった?」
「まあまあかな」
「それは良かった」
まあまあはダメだったの一個上だしな。
「まあまあで結構いいんだ」
「まあな、知らんけど」
「あ、莉奈、優斗。お疲れ様」
理央が話しかけてきた。
「ああ、お疲れ様」
「これから二人は何するの?」
「俺は普通に家に帰るつもりだけど」
「私もそのつもり!」
「じゃあ私たちと放課後に遊ばない?」
まさかの提案だった。二人きりで遊ぶと思っていたから。
「うーん莉奈、どうする?」
「私は行きたいです!」
「じゃあ俺も行くわ」
「優斗くん、自主性持ってくださいよ!」
「そうは言われてもな。莉奈がいないと不安なんだよ」
女子二人のところに俺が入って上手く立ち回れる気がしないし、自主性言われてもな。
「私のこと信頼してくれるんですか?」
「いやそうじゃなくて、彼女でもある以前に親友じゃん。だからだよ」
「え? じゃあ私のことは友達じゃないんだ」
理央がそんなことを言ってくる。そういうことじゃないし、たぶんその事はわかって言っているんだろうな。全く面倒くさいことを言ってくるな。
「まだ友達と言えるほど喋ってはないだろ」
この返しでいいのかは不安だが、まあでもあちらから先に仕掛けてきたからな。
「まあね」
「美里、一緒にこのカップルも来て良い?」
「どうしよっかなー」
俺は唾を飲む。
「良いよ! 人数多い方が楽しいしね!」
「やったー!」
「じゃあ行きますか!」
「おー!」
理央の啖呵に莉奈と美里が乗る。
「そういえばどこに行くか聞いていなかったな」
「あ、言ってなかったっけ。ボーリングよ」




