第四十三話 野球
「おー二人とも勉強捗ってるか?」
下の部屋に降りるや否や、父さんが話しかける。
「ああ、頑張ってるよ。ダラダラしてる父さんとは違ってな」
俺は軽く嫌味を言う。父さんはさっきからずっとテレビを見て寝転んでいるのだ。
「俺は野球の勉強をしてるんだよ。どこでピッチャーに代打を出すかとか、どこで守備固めするとかどこで続投するかとかな」
「ふーん、あ、莉奈別にトイレ行っていいぞ」
「あ、はい」
莉奈はトイレに走って行く。
「というわけだ、お前もファンになれ」
「やだよ」
「岸辺はええぞ、二番セカンドとして、いい動きをするんだ。しかもまだ二十四歳という若さだ。将来首位打者になれるぞ」
「そうか、どうでもいい」
「酷いな、お前」
「まあ莉奈が帰ってくるまでだったら話に付き合ってやるからよ」
「何を、親に上から目線だと」
「むしろ俺の優しさに感謝してほしいけど」
野球など本当は興味が無いんだ。そんな話に付き合ってはやる俺の優しさには本当に感謝して欲しい。
『西條、レフト前ヒットを選び、1アウト1.3塁です!』
「よし、西條よく打った!」
「俺の話聞いてる?」
また一人の世界に入ってしまったか。俺の声は聞こえてないらしい。
「ただいまー! 優斗くん」
「おー、トイレから戻ったか」
「はい!」
「なら二階に戻るか」
「ちょっと待ってください」
「ん?」
「チャンスじゃ無いですか?」
「おう」
どうした、急に。
「お前、野球好きなの?」
「いえ、あったら見るぐらいです」
「ふーん」
まさか莉奈が野球を知っているとは意外だったな。
「私もう少し見たいです」
「よし、仲間一人獲得だ!」
「おい、莉奈。接待とかじゃないだろうな?」
俺を手に入れるために外堀から埋めていくためという可能性も考えられる。
「なんでですか!? ちゃんと本心ですよ」
「本当か?」
「優斗くんもちゃんと見てください」
「はいはい」
『内木 サードゴロ! そして、サード松林ホームに投げる。しかし、三塁ランナー岸部タッチをかいくぐってセーフ。オールセーフです。フィルダーチョイスによりランドリーズ勝ち越しです!!!』
「やったぞ」
「やりましたね」
そして父さんと莉奈はハイタッチする。なぜこれが面白いのか。
「優斗くんも喜びましょうよ」
「いえーい」
完全なる棒読みで喜んだ。喜べと言われても興味無いものは興味ないのだ。あんなピッチャーの調子や、打順の巡り合わせ、監督の采配、そんなものが成功するかどうか、要するに運ゲーだ。そんなものが面白いとは思えないし、思いたくも無い。
「なんで棒読みなんですか!?」
「ほら喜んだだろ、それで十分だろ」
「もう優斗くん良いです、優斗くんのお父さんと喜びます」
「はあ、まあ別にいいけどよ」
そして俺はリビングの椅子に座ってスマホをいじる。
「本当、いいゴロになりましたね。優斗くんのお父様」
「ああ、そうだな」
「もう1点ぐらい入りませんかね」
「いやいやもう二点ぐらい狙おうや」
「いいですね!」
「もう、今すぐにでもこの家に住まないか?」
「いいですね!」
はあ、何を楽しんでるんだが、まさかこの二人がこの話題で意気投合するとは思わなかったし、そもそも莉奈って野球そこそこ見てるのかよ。
『三木谷、ショートゴロ! いや、送球がずれている。この間にセカンドランナー西條だけでなく、一塁ランナー内木もホームに生還! チームには痛いタイムリーエラーです』
「やったー!!!」
「よかった!!!」
そして二人はまたハイタッチする。それを見て俺はよかったなと思うが、別にどうでもいい。なんで相手のエラーで喜ぶんだろうか。全く理解ができない。
「もう二点願いましょう」
「そうだな、よくぞ言った」
くそ、この二人は会わせるべきではなかった。しまったな。
『ピッチャー山田篤人、バッター山崎春樹に出っとボールをぶつけてしまったー! 山崎立ち上がれません』
デッドボールのようだ。そんなのはどうでもいいけど、そろそろ休憩終了したいところだ。しかし、今ここで野球観戦を邪魔したら、俺は完全に悪役になってしまう。我慢だ。
『コーチ陣が出てきて声を掛けます。大丈夫でしょうか』
「心配ですね」
「そうだなあ、あんまぶつけないでほしいんだけどなあ」
どっちでもいいから速くしてくれ。もうすでに二十分ぐらい休憩をしてるぞ。
『ここで代走安見が出てきます』
「やはりだめだったか」
「そうですね」
「最近好調だったのだがな」
「残念です」
『そして村橋初球を打ち返したが、ショートの守備に阻まれます。2塁アウト、1塁もアウト。ダブルプレー』
「ああ、山崎君のデッドボールの意味があ」
「残念です」
二人は悔しがる。
「さて」と俺はつぶやく。
「莉奈行こうか」
「うええ、いやですう」
「もう野球終わっただろ」
「そう言う問題じゃ無いじゃ無いですか」
「もう十分休んだだろ」
「スパルタはやめるって言ってませんでした?」
「それは、勉強しなくていいって意味じゃねえ。行くぞ!」
「嫌だー」
それを見て父さんは笑ってた。




