第三八.五話 録音
「さてと」
莉奈はつぶやく。
「聞きましょうか」
莉奈はスマホの再生ボタンを押す。
昨日は優斗のイケボの囁きを録音していなくて、莉奈は思い切り後悔したので、今回は忘れないように家から出た後すぐに録音を開始していたのだ。
「ぽちっとな」
莉奈は携帯の再生ボタンを押す。最初のほうは会話ばかりで面白くないので、六分あたりから再生し始める。
「おおー!」
優斗の歌が始まる前に莉奈が言った言葉だ。どうやらほぼ完ぺきのタイミングで再生で来たらしい。
「さあ今、君は叫んだここから始めようと。今僕は叫んだ君と始めようと。
この世界には知らないことわからないことが沢山ある。
だけどんな世界でも君となら大丈夫さ。
今僕は叫んだ突き進もうと、今君は叫んだぼくと戦おうと。この世界にはたくさんの敵がいるけど君となら大丈夫さ
怖いものはある、恐ろしいものもたくさんある。でも、怖がってたら進めない。
君と見たシークレットワールド怖いものなんてない。君と見たこの世界、何も恐ろしくないよ、さあ今戦おう、世界の敵と。君とさあ駆け抜けよう」
「優斗くん上手いじゃないですか」
莉奈は「早く次と」つぶやき、時間を少しだけ飛ばす。
「たしかに」
「さあ君と呼ぶこの世界の風は、さあ僕と呼ぶこの世界の嵐は。この世界の風は美しいけれど、君と一緒じゃないと少しだけ怖いな。
さあ君と叫びたいこの景色、だけど僕は今は一人で叫ぶ。
この世界は素晴らしいけれど、今は君をおいて大事な物は無いよ。
今ならわかるさ、君の大切さ、僕は今まで何のために戦って来たの。さあ今駆け抜けよう。
君がいないシークレットワールド、何も楽しくないよ。一人で見る世界は何か物足りない。今戦おう君はもういないけど、さあ一人で駆け抜けよう」
「はあやっぱり最高です」
莉奈は一人部屋の中で幸せな気分になる。
「今君と並ぶ、僕は君と共に戦える。なんて幸せなんだ。
君と二人のシークレットワールド。この幸せすぎる世界。君と戦えるなら僕はもう無限大だ。今戦おう、もう敵はいないと思うけど。さあ二人で駆け抜けよう」
「何回でも聴けますねえ」
莉奈は再生を止めて言った。
「ここは、平和な学園、みんな楽しいサタリアンクス。いじめも落第もない、最高の学園サタリアンクス。みんな楽しいサタリアンクス。さあみんなで歌おう。楽しい楽しいサタリアンクス、歌おう歌おうサタリアンクス、踊ろう踊ろうサタリアンクス。行きますよ! みんな学ぼうサタリアンクス。みんなで楽しもうサタリアンクス、この上ない平和だサタリアンクス、さあ楽しもう」
莉奈は再生をストップさせる。
「これも変な曲ですけど、最高! やっぱり、変な歌を歌ってる優斗くんもさすがですね!」
そして莉奈は次の曲を流す。
「私がいけなかったのか、俺がいけなかったのか、二人の間には渦がある。
私は君のために、俺は君のために、ただそれだけでよかった。ただ君だけを、ただあなただけを。大事に思えばこそ、大切に思ってるからこそ。今戦うんだ。今未来のために、過去のために、世界のために、自分のために、全てのために、一人のために戦え戦え戦え戦え、全てを救え、未来を守れ
今守るんだ! 相手を挫け! 全て壊せ!
さあ!今からみんなで戦おう」
「はあはあ、二人で歌うと楽しいですね」
「そうか?」
「全く、認めたくないのですね」
「いや、そうじゃないけど」
「 今君と、僕と ヴァロンギヌスを打つために」
私とあなたと リャリンクリアスを守るために
この地面と、 この神力で 今戦おう
この空と この魔力で 守ろう
さあ! 君と、未来のために戦おう!!
この愛を守るための絆はあるはず、進むべき道が開けるはず! 今の道を進むために敵を、ヴァロンギヌスを倒せ!
未来のために」
「ふう、歌い切りま」
莉奈はボタンを押して止める。
「なんかもう、私の声が邪魔だけど、優斗くんの声が素敵すぎる。最高!」
莉奈は部屋で大騒ぎする。
「みんなでギュー、楽しんでギュー、笑ってギュー。楽しいね。こんな感じで世界が平和になればいいのにな。笑って笑って笑って笑って、世界中の人がギューしたら、戦争ってなくなるよね。そう思うよね。みんなではぐしてギューギュー、剣かなんかしないでギューギュー。楽しく楽しくギューギュー。仲間だね。
ギュギュっとギュギュっと楽しもう。ギュギュっとギュギュっと笑いあおう。ギュギュっとギュギュっとハグしよう。仲間だね仲間だね仲間だねー」
「ふう、どうで」
莉奈はそこで停止する。
「はあ最高! やっぱり優斗くんの歌は最高です。なんかもうギャップが最高だし、イケボだし、乗ってるし、楽しそうだし、最高すぎる」
もう毎日カラオケでもいいなと莉奈は思った。普通に優斗の歌を毎日聴きたいと。
そしてまた莉奈は最初から再生を開始するのであった。




