第三八話 明菜の罪
「よし、仕切り直しだねー。誰が鬼になる?」
明菜は元気よく言った。
「そりゃじゃんけんだろ」
「まあそうだけど、立候補者いるかもしれないじゃない!」
「私は嫌ですよ」
「じゃあ俊は?」
「嫌だ」
「誰か鬼になってよー」
「明菜、そんなこと言ってないでじゃんけんするぞ」
「はーい」
じゃんけんの結果鬼は莉奈になった。
「すぐに捕まえてあげますよ」
莉奈は威勢よく言った。
「よーし」
「まずは俺かよ」
まず莉奈は俊を追いかけた。俊はさっき莉奈につかまったことがあるので正直言って怖いと思っている。
「待て待て待て待て、早すぎるだろ」
俊は若干苦笑いをしながら逃げる。莉奈の足がさっきよりも早いのだ。くそ、これ逃げ切れるかなと俊は若干不安になる。
「待ってください!」
「待てるわけがないだろ」
俊は全速力で逃げる。だが無情にも距離が少しずつ縮まっていく。
「うわあ捕まった」
「安心してください、優斗くんよりは苦戦しましたから」
「それ何のフォローにもなってないぞ」
俊にとって足の遅い優斗と比べられても嬉しくないのだ。
そんな光景を見ながら優斗は……
「はあ、何やってんだよ俺」
自己嫌悪に陥ってた。スマホを触ってても何も楽しくない。本当はまた戻りたいのだ。しかし、また足手纏いになることが嫌なのが、優斗にとっての本音なのだ。
「よーし、くよくよしててもしょうがねえ」
優斗はベンチから立ち上がり、元気よく向かって行った。こんなスマホで時間を浪費するほど無駄なことはないのだ。
「俺もまた入れてくれよ」
優斗は明菜を追いかけてた俊に声をかけた。
「それはいいけどお前大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ、たぶん」
「たぶんってなんだよ」
「仕方ねえよ、俺が運動できないって俺が一番分かってるんだから」
さっき醜態を晒したことで十分理解したのだ。
「そうか、まあ頑張れ」
「ああ」
優斗は俊から距離を取り、鬼ごっこを始める体勢をとる。
「はあはあ」
優斗は必死で必死で俊から逃げる。ただ、優斗がどんだけどんだけ速く走っても俊との距離が縮まってしまう。優斗らもう追いつかれることを覚悟した。
「私もいますよ!」
優斗を助けようとしたのか、ただ暇だから自分も追いかけて欲しかったのかは定かではないが、莉奈が叫ぶ
「なるほど、どっちを狙うか」
俊は数秒立ち止まり、考える。
「よし、こっちを狙おう」
俊は莉奈を狙うことにした。
「おい、俺を狙えよ」
優斗は叫ぶ。
「お前をタッチしたところで大した戦果は得られないしな」
「俊、お前舐めてるな」
「ああ、当たり前だろ」
「ふざけるなよ」
俊は全速力で莉奈を追う。優斗は軽く走りながらその追いかけ合いを見る。
「やっほー」
明菜が優斗に話しかける。
「なんだ?」
「暇かなって思って」
「そうか」
「私も俊みたいに謝りたくて」
「昔のことをか?」
「うん。私もチャットで酷いこと言ったなって」
明菜は少し申し訳なさそうにする。
「ああ、酷いな」
「しかも私、そのことを忘れてて」
「ああ、俺も再会した時は驚いたよ。あのことを忘れたような感じで接して来たからな」
実際優斗としても半分忘れていたし、そこまで気にもしていなかった。しかし、優斗としては明那の心境を聞きたい。
「そう。私としてはあの時、俊が私以外の人と話してるのが許せなかったの」
明菜は過去の話を話し始めた。
「でも、俊は自分の意思で俺と縁を切ったと言ってたけど」
完全に俊は自分が悪いみたいに振る舞っていたのだ。
「私の方が俊に頼んたんだよ。優斗との縁を切ってくれって」
明菜は淡々と説明していく。
「たしかさっき言ったよね、最初は俊の一目惚れだって。最初はそうだった。だけど、その後私もすぐ俊を好きになって。私は彼にいつでも会いたくなったの」
「でも、彼はあくまでもあなたとの時間を捨てようとしなかった。だから私、あなたにひどいチャットを送って、俊にもお願いだから優斗くんと友達関係を切ってって言って」
「それでなんでさっきは忘れてたんだ?」
「忘れてたわけじゃないの。ただ怖かっただけ」
「ならなんで、あの時俊の味方にならなかったんだ?」
「それは……」
明菜は黙り込む。
「それどころか、俊が言ってたことばらしたよな」
優斗は躊躇することなく畳み掛ける。
「俊が私に言ってくれたの。たぶん俺の過去のことを言われるからその時にはお前は俺を裏切れって。でももやもやが消えなくて。だから私の罪を告白したの」
「そうか、俊はお前を守るために身を犠牲にしたのか」
「うん」
「わかったこの話はこれで終わりだ」
優斗は壁に手を当てながら言った。
「え? 許してくれるの?」
「確かにむかつくけど、こんなくだらないことを引きづってても仕方ない。それよりはそんなことを捨てて次に進むのが大事だからさ」
「ありがとう。それと虫の良い話だけど、俊には私が言ったことを黙ってくれない? 俊の土下座が無駄になるから」
「分かった」
「そっちの二人、いつまで休んでるんですか? もしかして明菜さん私の彼氏を奪おうとしてません?」
「さあ行こうか」
「うん」
「私が奪ったらそれはダブル不倫だよ!」
明菜が大声で返事する。正確に言えば不倫ではなく、ただの浮気なのだが、明菜は言葉の綺麗さで言ったのであろう。
そして二人は鬼ごっこに復帰した。




