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クラスの女子と関わったことの無い俺の机の中に手紙が入っていたのですが  作者: 有原優


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第二九話 電話

「プルルルル」


 深夜になり、布団の用意をして今にも寝ようとしたときに、電話がかかってきた。


「優斗くん? 今大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫だけどどうしたこんな時間に」


 今はもう夜十時だ。明日が休日とはいえ、もうそろそろ寝たい時間である。


「ちょっと優斗くんロスで」

「早くないか?」


 まだ三時間半ぐらいしか経っていないのに。


「仕方ないじゃ無いですか、これまでどれだけの時間を優斗くんと過ごしたと思っているんですか」

「うーん四十時間ぐらい?」


 俺は即座に頭の中で計算してそう答える。


「そういうことじゃなくて」

「どういうことだよ」

「昨日一緒に寝たじゃ無いですか」

「まあそうだけどよ」


 そういう意味か。確かにそういう意味ならともに風呂に入った俺たちはもう一年ぐらいの濃密な時を過ごしてると言ってもいいな。


「私を優斗くん依存症にしたことを後悔してください」

「俺は莉奈を依存症にした覚えはねえよ」


 依存症はお前が勝手になっただけだろ。


「まあそれは置いといて、ビデオ通話にしてくださいよ」

「別にこのままでもいいだろ」


 別に顔が見えるかどうかなんてどうでもいいだろ。話せればいいんだよ。


「優斗くんの顔が見たいんです」

「お前、本当に俺なしじゃ生きられないよな」


 今までいったいどうやって生きてきたんだ?


「うるさいですね、別にいいじゃ無いですか」

「別に責めてないだろ」





「なんか言えよ」 


 ビデオ通話に変えたのはいいが、それ以降莉奈は一言も喋ってこない。


「だって優斗くんの顔を見ながらゴロゴロするのが幸せすぎて、もう見るだけで十分なんです」

「じゃあもう切ってもいいか? こっちにメリットないし」


 俺のビデオ通話によるメリットは一切無いのだ。むしろ充電の消費が激しい分マイナスな気もする。


「やめてください、私が発狂します」

「よくお前そんなんで生きてこれたな」


 こんな短時間会えないだけで発狂しそうなのに、なんで 一ヶ月前とか普通に生きてたんだよ。まあ、俺との生活に慣れたって言うのもあるんだろうが。


「そうなんですよ、褒めてください」

「なんでそれで誉めなければならないんだよ」

「えへへ」





「おーい莉奈」

「なーんでーすかー」

「通話してる以上なんか会話はしようぜ……」

「……すみません」

「え?」


 どうした急に。


「今の私は素の、いや家での優斗くんを見たいんです」

「いや、ビデオ通話付きで素の俺を演じれるわけないだろ」


 どうしても人の、莉奈の視線がある。よって無理。


「えー、見せてくださいよー」

「無理なもんは無理だ」

「じゃあ監視カメラでも仕掛けてみます?」

「ちょっとそれどういうことだ? 少し話聞かせてもらおうか」


 なんてことを言うんだ。


「やだなー冗談に決まってるじゃないですか」


 莉奈はおちゃらけた口調でそう言った。


「おい、お前の場合だと冗談かわからねえんだよ」

「私をそんなに信用してないんですか」


 莉奈は少し涙目になった。


 俺は本来だったら慰めないといけない。しかし、今更そう言う意味で莉奈を信用できるわけがない。だからここは一つガツンと言ってやらなければならない気がする。



「完全に信用してない」


 俺は正直に答える。


「え? ひどいです」

「仕方ねえだろ、家を突き止めたことがあるって言ってたじゃないか」


 俺は過去の莉奈の発言を掘り返す。


「それとこれは違うじゃないですか」

「いや、おんなじだろ」

「ひどいです」

「ひどいですって言ったら全てオッケーな訳じゃねえぞ」


 警察いらないあれと同じことだ。


「ばれました?」

「ばればれだよ」


「それで明日のカラオケって予約してくれました?」


 莉奈が急に話を変える。


「え? 俺が予約するっていうことだったの?」

「そうなんじゃなかったんですか」

「いや、俺は言い出しっぺが予約するんだと思ってた」

「もう優斗くんってば」

「ということは誰も予約していないっていうことだよな」

「はい」

「やばくねえか」


 俺は焦る。今の時間から予約取るのって行けるものなのか?


「そうですね」

「あれ、なんでそんなに焦ってないの?」


 俺は焦ってるのに。


「だってこういうのって何とかなるもんじゃないですか」


 楽観的なだけだった。


「まあ、とりあえず予約してみるか」

「やったー!」

「じゃあ一瞬電話切っていいか?」

「なんで?」

「予約しなきゃあかんから」


 そう言って俺はビデオ通話の切るボタンを押そうとする。


「それだったら電話しながらでもできるじゃないですか」


 莉奈が痛いところを突く。


「この一瞬の間も我慢できないのかよ」

「我慢できません」


 困ったやつだ。


「まあ、とりあえず予約取ろうと思うけど、何時間がいい?」

「できるだけたくさんでお願いします」

「具体的に」

「五時間ぐらいで」


 莉奈は思ったより長い時間を言ってきた。


「長すぎる」

「え?」

「五時間はやばいって、俺一人で一時間半持つかどうかだぞ、それが二人になって五時間持つか?」


 シンプルな疑問だ。五人とかならまだしも、二人で五時間は無理な気がする。


「大丈夫ですよ。いざとなったら歌わなくてもいいですし、私が歌いまくりますし」

「それはいいけど、お金の問題もあるぞ」

「私が全部出してもいいですよ」

「え、いいの?」


 今日すでにお金出してもらってるのに。


「むしろお給料出してもいいぐらいです」

「なんでそこまで?」


 さすがに莉奈の愛がすごい。俺にとってはありがたいけど。


「優斗くんなら言わなくてもわかると思いますけど」

「ああ、いつものあれね」


 そして俺は予約する。今の時代は便利なことに電話しなくても携帯のアプリで予約できるのだ。こんなに便利なことはない。


「よし、明日の十時から取れたぞ」

「やったーー! ところで明日なんの曲歌います?」

「それは明日のお楽しみだな」


 まあ、お楽しみというほど持ち歌があるわけではないが。


「そんなこと言わないでくださいよ」

「良いじゃねえか」

「なんか楽しみすぎて寝られるのか不安です」

「寝れるだろ」


 学校のせいで睡眠不足だし。莉奈にいたっては俺よりも睡眠時間短いだろ。


「そうだ!」


 急に画面に莉奈の耳が映り込む。いや、むしろ画面が耳で支配されている。


「おい、何の真似だ」

「小さい声で囁いてください、うるさいです」

「まさか、そういうことか」


 俺は莉奈の耳に配慮して小声でそう言う。


「そう言うことです」

「はあ、仕方ねえな」

「莉奈、愛してるぞ」


 できる限り声優ぽく言った。


「ああ、死ねます」

「死ぬな」


 突っ込みも声優ぽく言う。


「ああ、最高すぎます」

「そうか、それは良かった」


「もう最高、イゲボ最高です」

「ふん、俺なら当たり前だ」


「うん、うん、最高すぎます」

「じゃあ次は莉奈がやってくれ」

「え、私がですか?」

「ああ、良いだろ」

「良いですけど」


「優斗くん、大好きです」

「あー、なるほどこう言う気分か」


 なんか囁かれるのって変な気分だ。


「私は可愛いです」

「自分を褒めるな、俺を褒めろ」

「良いじゃないですか」

「あー、なんかその言い方エロっぽい」


 何がエロいのかはわからないけど。


「こう言う言い方が好きなんですか?」

「まあな、俺だって高校生なんだし」


 思春期真っ只中だ。


「そうですか、ならもっと言ってあげます、好きですよ」

「あ、なんか違う」

「違うんですか!?」

「莉奈、急に大声出すな。鼓膜が死ぬ」


 そう言う言葉も小声で言ってくれ。今も耳がキーンとしている。もう少し耳を離すのが遅かったらほんまに鼓膜が死んでたと思う。


「それはすみませんでした」

「うーんなんか意識したら違うのかもな」

「ええ、じゃあどうしたら……」

「じゃあもう少し優しい感じで」

「こうですか? 優斗、楽しみはこれからだ」

「なんか、変な方向に行ってないか?」


 女子版イケボを目指して失敗してるな、うん。


「ええ、そうですか?」

「なんか声優ぽくやろうとして失敗してる感じがある」


 俺は言葉を変えて伝える。


「むむむ、そうですか。ならどうすればいいんでしょうか」

「最初の感じでいいんだよ。今のはなんか狙いすぎて失敗してるんだよな」

「じゃあ、これでどうですか? 優斗くん、私が付いていますよ」

「うんうん、そんな感じだ。なんかいい感じ」


 調子を取り戻してきたな。


「やったー!」

「だから大声出すなって」

「えへへ」

「じゃあまた優斗くん頼みます」

「交代か?」

「はい!」


 そして莉奈は携帯に耳を当てる。


「莉奈、お前は本当に可愛いな」

「ああ、痺れる」

「莉奈、俺の奴隷になれ」

「なります!」

「なるなよ!」


 俺は思わずツッコむ。冗談のつもりだったのに。


「本当になれますって、もう使役して、お馬さんしてください」

「莉奈、それなんか色々アウトな気がするぞ」


 やばいな、莉奈の新たな変な性癖を作りそうだ。


「アウトでもいいですよ、ここはアニメの世界じゃないんですから」

「まあ、お風呂一緒に入ったぐらいだしな」


 よく考えたらそういう意味では一線超えてるんだった。


「なら、次家来る時、いや明日のカラオケの時にでもそう言うのやってください」

「……別れようか……」


 俺をそう呟く。別れようかは脅しとしては最高の手だろう。


「さすがにアウトですか?」

「ああ、余裕でアウトだな」


 なぜセーフだと思ったのか。


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