第二話 初訪問
家に入る前に莉奈に「ちょっと待ってくれ」と言って、ポケットの中から鍵を取り出し、家のドアを開けて家の中に入り、「どうぞ」と言って莉奈を家の中に招き入れる。
「お、お邪魔します」
莉奈がそう言って俺の家に入る。すると玄関の前には待ち構えていたかのように由衣が立っていた。
「おかえりお兄ちゃん、で、こっちの人がお兄ちゃんの彼女?」
由依は俺と莉奈に近寄って聞く。
「はい、松崎利奈と申します」
「へー、美人だね、私はお兄ちゃんの妹の由衣、これからよろしくね」
「よ、よろしくお願いします」
莉奈は図々しい由依とは違い丁寧に挨拶をする。由衣は莉奈とは当たり前だが初対面である。なぜこんなに自分勝手に話すのだろうか。
「ところでさ、ひとつ聞いて良い?」
「はいなんですか?」
「電話で聞いた時もさ、え? と思ったけど、なんで急に告白したの? それに手紙で呼び出すってベタすぎない?」
「ベタなんですか?」
「うん、今の時代そんなの漫画ぐらいでしか見なくない?」
「おい由衣」
俺もベタだとはは思っていたのだが、流石に本人に言うのは違うのだ。前か空気が読めないとは思ってはいたが、まさかここまでに空気を読めないやつとは思っていなかった。
「そうなんですか」
莉奈は明らかにその言葉に落ち込む。
「はぁ、由依お前はもっと空気を読め」
「ごめん」
由衣は俺に向かって謝罪をする。
「俺にじゃないだろ、人にはそれぞれ告白の自由があるんだ、人の告白をバカにするな」
俺はしっかりと説教をした、これはさすがに見逃せない行為だと思うからである。
「莉奈ちゃんごめんなさい」
「もういいよ、別に、ところで優斗さん」
「ん?」
「ベタだということは否定しないということは、優斗さんはベタだと思っていたということですか?」
痛いところを突かれた。俺は実際思っていたのだからベタではないと嘘をつくわけにはいかない。どう説明をすれば丸く収まるのだろうか。
「まあそれは否定しないよ、ベタすぎてだまされていないか少し考えてたし」
少しだけ考えて本当に思っていたことを話すことにした。
「そう思われていたなんて普通に恥ずかしいです。ずっと告白の仕方を考えていて、それであの方法を思いついて、私としては良い方法だと思っていたので、まさか優斗さんにベタだと思われているとは」
莉奈は少し涙目になる。俺はベタだととは思ってはいたが、別に人の告白の方法をバカにしたいわけじゃないのだ、困ったことである。
「まあでもうれしかったよ。手紙来てから一日中落ち着かなかったですし、ずっと何で告白するか考えてくれていたのも嬉しかったです」
俺は莉奈を励ます。そう思っていたことは事実なのだ、嘘などでは決してない。
「それは、うれしいです」
「それに一日中興奮できたんで、普通に告白されるよりはよかったです」
興奮と言ったらうそになってしまうかもしれないが事実楽しみにしていたのだ、宿題を忘れるほどには。
「ありがとう」
「ちょっとお二人さん、こんなところで話してないでお兄ちゃんの部屋言ったらどう?」
「確かにずっと莉奈を立たせてるのも悪いし、俺の部屋に行くか」
「はい!」
由衣に言われるのはなんか腹立つが、確かにここでいつまでも話すわけにもいかない。もともとこの家に来た理由は莉奈と二人きりでゆっくりと話すためなのだ。
「しかしあのお兄ちゃんが彼女とはねー」
リビングで百合子と由衣が話している。
「本当に驚いたわよあんな女気なかった優斗に彼女ができるなんて」
「うん、でもどこに惹かれたんだろう、あんなお兄ちゃんに」
由依は少し兄に対して辛辣なことを言う。
「実の兄に対して酷過ぎないかしら? 優斗にもいいところいっぱいあるじゃない」
百合子は否定する。親だからじゃない、彼女は実際に息子の良いところを一番知っているのだ。
「たとえば?」
「率先して家事を手伝ってくれるところとか?」
優斗は実際に何回も母親の家事を助けてもらっている。
「それお母さんにとってじゃない?」
「ほかにも優しいところあるわよ、由衣だって何回もわがまま聞いてもらってたじゃない」
実際由衣は何回も優斗にわがままを聞いてもらったことがある。例えばゲームの貸し借り、漫画の貸し借りなど様々なことである。
「まあそこは認めるけどさ、でもどうして急に彼女なんか」
「優斗だって年頃の男子よ、そんな浮ついた話がないほうがおかしいわ」
「でも、あのお兄ちゃんだよ、そんな浮ついた話ないと思うじゃん」
「由衣?」
「何?」
「もしかして寂しい?」
「え?」
「自分の兄に彼女ができて嫉妬してるんでしょ、実際にさっき話を途中で止めたのもそういうことでしょ?」
百合子は由依が恐れているように見えたのだ。
「何?急に。全然違うけど」
由依は否定する。
「由衣の感情を知りたいの、今の由衣は強がっているように見えるから。それに今のままだといけないと思う、それでどうなの?」
そう言って由衣のそばに寄る。
「まあ寂しくないといえばうそになるし、確かにさっきは2 二人が話しているところを見たくなかったのかもしれないけど、そんな嫉妬とかはたぶんしてないと思う」
「それを嫉妬って言うんじゃないの?」
そう言って、由依を撫でる。
「いや正確に言ったら違うと思うけど、それはわかんない」
「そっか、まあでも今は嫉妬しててもいいんじゃない?私も最初お兄ちゃんが付き合い始めてた時には嫉妬してたし」
「それって正仁おじさんのこと?」
「うん、これでもうかまってもらえなくなるんじゃと思ったわ、でも不思議なことに、その彼女さんと仲良くなって嫉妬とかいう感情はなくなったけどね」
百合子にも似たような経験があるのだ。
「へー、でも正仁おじさん未婚でしょ、そのあと別れたの?」
「うん、まあ三ヵ月しか持たなかった、理由はわかんなかったけど、結構仲良くなってきてたからちょっとショックだった」
「なんで分かれたの?」
「知らない、理由を聞くのも怖かったから」
「じゃあ三ヵ月たったら私の元に戻ってくるっていうこと?」
「破局を望むんじゃありません」
百合子は由衣の頭を軽く叩く。
「ちぇ」
「まあ、とりあえず言いたいのは由衣が莉奈ちゃんと仲良くなったら治ると思うってこと」
「そっか、わかんない」
「まあ今は別にいいわ、そんな感情なくなると思うから」
「うん」
「ここが俺の部屋だ」
ベットや本棚小さなテレビなどが揃っており、普通にリビングでもおかしくなさそうな部屋だ。俺の自慢の部屋でもある。
「わあ、広い」
莉奈は部屋を見て感嘆する。
「まあな、うちの家自体が結構広いから」
「部屋にテレビあるなんて羨ましい」
「まあ俺あんまテレビ見ないから、ゲーム用になっちゃってるけど」
「それでも羨ましいです」
実際この部屋はいい部屋だと思う、俺は基本的に家でのほとんどをこの部屋で過ごしている。この部屋には何でもある素晴らしい部屋だ。
「そうか、まあとりあえず座れ」
「うん、えっとどこに?」
「ああ、そこのソファーにでも」
俺はソファーを軽く叩く。
「自分の部屋にソファーまであるなんて良いなぁ」
「まあでも小さいけどな」
実際そこまで大きくはない。一人座るのでやっとなのだ。
「でも自分専用のソファーということですよね」
「まあな、でもよく由衣にとられるけどな」
「さっきの妹さんですよね」
「ああ、さっきはごめんな、あいつが変なことを言って」
「別にいいですよ、優斗さんからそれ以上の愛情をもらったので」
「あれ愛情なのか?」
「はい!」
ほめてもらうのが愛情なのか。俺にはよくわからない。
「ところでもう少し優斗さんの良いところ言ってもいいですか?」
「は?どういうことだ」
「さっきのじゃあ言い足りないんで」
言い足りないとはどういうことだ?
「俺としてはお腹いっぱいなんだけどな」
もう十分ほめてもらっているつもりなのだが。
「今日はお互いのことを知るためにこの家に来たんですから」
「俺、自分のことほとんど話していないけどな」
実際、莉奈は結構俺のことを知っているのもあるのだろうが、莉奈の自己紹介を聞いただけで俺の自己紹介はしていない。莉奈に話を変えられたからなのだが。
「そう思うんだったら優斗さんの私の知らない話を聞かせてもらいましょうか」
「話変わってねえか、それ」
莉奈は俺の話を要求してきた。私の知らないという単語に少し引っかかったが、まあそんな深い意味はないだろう。
「私は別にどっちでも構わないんですよ、別に話を聞かせてもらうのでも、私が優斗さんのこと褒めちぎるのでも」
「そうか、つまりお前は自分の好きな話をしたいっていうことか」
「はい! 優斗さんの話がしたいです」
なるほど、莉奈は自分のしたい話、つまり俺に関係する話をしたいんだなと理解した。莉奈はどれだけ俺のこと好きなんだよと言いたいところである。
「わかった、まずは俺の話をするか」
「そうは言っても私優斗さんのことは基本的には知っているんで、マニアックな話がいいです」
「お前、本当にストーカーではないんだよな?」
基本的に知っているのでって怖すぎだろと言いたいところだ。
「そんな訳ないじゃないですか、見てたら大体わかりますよ」
「そ、そうか」
「さあ聞かせてください優斗さんの話」
「ああ、まずは何で寛人と出会ったかという話だな」
俺は足を組見ながら話し始める。
「ああ、席が隣になって、話してそのまま仲良くなった話ですね」
「セリフをとるな」
俺は思わず突っ込みを入れる。少しだけ動揺したが、別にそのことは知っていてもおかしくないと思った、莉奈は1年生の時も同じクラスだったからだ。
「でだ、俺は最初寛人のことを、なんかうざそうなやつと思ったんだ、あいつ人との距離が分かってないのかわからないけど、めっちゃ話しかけてきて」
「うんうん」
莉奈はとても興味深そうに聞く。
「で、その後なぜか知らないけど仲良くなった」
「その間は?」
「知らん、たぶんあいつのごり押し」
「ごり押しって」
「でも実際そうだから、それに今は仲がいいから出会いなんてどうでもいいけどな」
実際最初はうざかったし、あいつの距離感が分からなかった、しかし今は違う仲が良い大親友なのだ。
「そうなんだ、消化不良だからもう一つ話して」
「俺と寛人の話はどうでもいいのか?」
「どうでもよくはないけど、けどほかの話も聞きたいなって」
「欲張りだな」
「いいじゃないですか、もっと話してください」
「わかったよ、じゃあ、中学時代の話でもいいか?」
「お願いします」
莉奈は図々しく俺に別の話を求めてくる。俺は考えて中学時代の話をすることにした。中学時代の話なら莉奈は知らないだろう、ストーカーじゃないのなら。
「あれはたしか俺が中三の時であり、あれは雨の日のことだ」
「カッコつけようとしてます?」
「うるせえ」
俺のいきりは秒でばれたようだ。
「まあそれは置いといて、俺にも中学の時友達がいて、ずっと一緒にいたんだ。しかし、ある日そいつは女の子と付き合って、それからというもの俺との付き合いが悪くなったんだ」
「それでそれで」
よかった、このエピソードを知らなかったと言うことは、莉奈はストーカーではなかったようだ。
「俺はあいつに文句を言ったんだ、恋人と遊んでないで俺とも遊べって」
「うんうん」
莉奈は相槌を打つ。
「俺は別にあいつの彼女とは仲が良くはなかったし、俺にとっては面白くないことばっかりだったからな。そしたら、あいつは俺はお前のおもちゃじゃねえと言ってきて、それっきり口も利かなくなった」
「優斗さんみたいな素敵な方の友達をやめるなんてその方見る目ないですね」
「いや、別に俺を慰めてほしかったわけじゃないんだけど」
莉奈は俺の擁護をする。俺としては別にあいつに対して恨んでいるわけではない。当時はむかついてはいたが、今となっては俺の魅力が足りなかったのだろうと思っているからだ。俺がもう少しあいつと仲良かったら彼女が出来たとしても、俺とも遊んでくれていたはずだし。
「いや、見てたら分かりますもん、かっこいいところとか、面白いとことか、優しいとことか、真面目なところとか」
「あんま褒めないでくれよ恥ずかしいから、それに俺自体そう言う評価がよくわからないんだよな。俺は自己評価としてはそんな高くないから、莉奈がこんな評価してくれてるんだって思って嬉しくなった」
実際俺は授業中寝たことも何回もあるし、宿題を忘れたことも何回もあるから、俺としては真面目にも入らない気がするのだ。優しいというのもよくわからない。
「それは、私が優斗さんのこと好きだと思っているから評価高いだけかもしれないけれど、もう優斗くんの仕草一つ一つがかっこいいし、それでいて優しい目をしてるし、よく見たらかわいかもあるし、勉強もいつもクラス上位三位に入ってるしそれに……」
そういいながら、莉奈は顔を近づける。
「ちょっと待ってくれ、いきなりあんま褒めながら顔を近づけないでくれ、恥ずかしくて死んじゃう」
その言葉で、莉奈は俺の顔が真っ赤になってるのに気付いたのか、顔を少し離した。
「良かった、かわいい顔でそんなこと言われたら照れらからさ」
「別に照れたって良いじゃないですか、事実なんですし、優斗さんのこと1年以上も見てきたこの私が言ってるんだから」
「まあそう言われてもな、そんなかわいい顔でまっすぐ見ながら言われると破壊力が高すぎるんだよな」
実際、莉奈は自分の可愛さに気づいてないらしい。そんな顔で見られて俺が動揺しないわけがないと気づかないものなのかと疑問に思う。
「なんかこんなにもかわいいって言ってもらっていたら、こっちが恥ずかしくて、死にそうです」
今度は莉奈が死にそうになっているらしい。天罰だろと言いたい。
「そうか」
「優斗さんは普通に人間を超えてますから」
「どういうことだよ」
「神みたいだということです」
「そうか」
俺は神様だったのか。
「ところでそれがさっき言ってた言い足りなかったやつか?」
「はい、話の流れに乗っかって優斗さんのいいところ結構言えました」
「ところで莉奈」
「はい?」
「メンヘラにはならないでよな」
俺はメンヘラと言うワードを出す。漫画とかだったら愛が暴走してメンヘラになって、俺を束縛するものだ。莉奈がそうではないことを望むが、万一の可能性がある。
「……失礼ですね。優斗さんのこと愛してますから優斗さんの迷惑になることはしません、たぶん」
「たぶんってなんだ、たぶんとは」
たぶんでは説得力がない。
「だってしないとも言い切れませんし」
「そこはしないっていってくれ」
俺は莉奈の肩に手をかけて言う。正直言って怖いのだ。
「まあそれは置いときましょう」
「逃げたな」
「逃げてません!ところで何かしましょうか」
「やっぱり逃げているじゃねえか」
「いいじゃないですか大富豪とかしましょうよ」
「いや、大富豪は二人ではできないぞ、母さんたちを呼ぼうか?」
「あ、そうでした。二人でしたいので大富豪はダメですね」
莉奈は頭に手をやる。
「そうだな」
「じゃあウノとかは?」
「ウノかー、家にないな」
うちの家にはありとあらゆるボートゲームはあるがウノはなぜかないのだ。
「そうですか、ならオセロとかはどうですか」
「あーオセロならあるわ、やるか」
「うん!」
そして俺はオセロ盤を棚から取り出す。