第142話 遭遇
そんな二人を追う事三十分。
先程までに比べると二人はいい雰囲気だ。
それはあくまでも兄弟としてだが。
そんな中、優斗と莉奈はピンチを迎えている。
「優斗」
後ろから声をかけられたのだ。
(まさか彰人? いや、前にいるはず。なら誰だ?)
優斗が至高を巡らせていると、声をかけた本人が、声を出す。
「まさかこんなところにいるとは思わなかったよ。優斗。しかもそんな格好して」
そこにいたのは寛人だ。
しかも隣に理央もいる。
まさかだった、この二人も今日遊びに来ていたのだ。
しかし変装していたのに、よくぞ気づいたものだ。尊敬に値すると、優斗は思った。
だけど、今しなければならないことは一つ。そう、寛人は優斗達がこそこそとストーキングをしていることに気が付いていない。
不通に遊びに来たと思っている様子だ。
そんな中寛人が向こうにいる彰人に気が付き、声を掛けたら最悪だ。
しかも「優斗も来てたぞ」なんて言われた暁には、優斗のウソがばれてしまう事になる。
それは非常にまずい。
優斗はとっさに「しー」と小声で言う。
口に指をあて、まさに『しー』のポーズだ。
「どうしたの?」
理央は疑問系で訊く。
まだ、寛人だけだったら、何とかなるかもしれない。
しかし、理央もいるとなれば話が違う。
「そう言えばなんで変装なんてしているんだよ」
「言えないわけがあるんだ。俺は、今日水族館にいないことになってるから」
「どういうことだよ、それは」
寛人は呆れたように言う。
「そう言えば二人はどういう経緯でここに?」
莉奈が話に食い込む。
「や、なんか一緒に行こうって言われたから」
そう言って理央は寛人の方を向く。すると、寛人は照れたような表情を見せた。
なるほど、理央を上手く誘ったんだな、と優斗は思った。
「それでなんで変装しているんだ? 水族館にいないはずの存在になってるとはどういう事なんだ?」
やはり言い逃れ出来ないか。莉奈の言葉で話が流れたと思ったのだが。
仕方ない。そう優斗は決意して口を開く。
彰人たちの秘密を知る人がまた増えることになるが、仕方がない。
「俺たちは、彰人を付けてるんだ」
優斗は静かに、その場の人だけが聴こえる程度の声量でそう言った。
「はあ!?」
寛人の声が大きく中で響く。
それを見て、優斗はとっさに寛人の口をふさいだ。
普通にうるさい。
「今の問題は、あいつら二人。兄弟なんだ」
「ああ」
そのことは知ってるみたいだな。
というか、寛人が先に行ってたっけ。
「その二人がデートしてるんだが、妹の水樹ちゃんは兄の彰人に恋愛感情を持っているんだ」
「ええ?」
こんどは理央が手で口を押える。
「だから、二人の恋の行路を見守ってる。二人は血はつながってないし」
彰人の秘密をほぼすべて言った気がするが、本当に許してほしい。
「お前もえぐいことするな」
「莉奈に言ってくれ」
ストーカーすることを思いついたのは莉奈だ。優斗は悪くない。
「それで、俺たちは見なかったことにしていいのか」
「ああ」
「ほどほどにした方がいいぞ」
「分かってますよ。優斗くんとのデートも楽しいですから!!」
そう言って莉奈は優斗の方をにっこりと見る。
それに対し優斗も「ああ」と返した。
実際に莉奈とのデート自体も楽しい。
「俺たちはまたゆっくり見て来る。彰人には会わない方がいいのか?」
「ああ。……最後に一ついいか?」
「なんだ?」
「どうやって俺たちの変装を見破ったんだ?」
「バレバレだったぞ」
優斗は莉奈の方を見る。すると莉奈は咄嗟に顔を伏せる。
責任は取りたくない、とでも言いたげだ。
まあでも確かに莉奈の変装も、莉奈の面影が見えてるし、実際に優斗なら、莉奈が変装をしていることを知らなかったとしても気づきそうなものだ。
それが優斗と莉奈の二人なら猶更だろう。
「じゃあ」
そして寛人と理央は去って行った。
ふう、と優斗は溜息を吐く。
一難去って安心だ。
しかし一難去ったらまた一難が来るものだ。
「二人いなくなっちゃいましたよ」
「そうだな」
これはまずい。
今の会話の間に二人を見失ってしまった。
水族館内は広い。
一度見失えばもう会えない可能性も十分にある。
優斗たちはあの二人を探しに向かう。
しかし、何という確率か。
寛人がこの日に来るなんて、そう優斗は思った。
本当に間の悪い、来るなら別の日にしてほしかったと思う。しかし、文句は言えない。
実のところ優斗も、少しづつ、莉奈のこのストーキングにも楽しいと思ってきてるのだ。
あまり、彰人たちにばれたくないのだ。自分たちも来ていると。
しかし、そのスリリングさがむしろ面白いと感じて来ているのだ。
そんなこんなしていると、二人をついに発見した。




